2-3 神竜の森(後編)

 風呂に入り夕飯を済ませた俺はフィリア、サクラ、ナナ、カリナにメールを入れた。


 ・何回か戦闘があったが掠り傷1つ負っていないこと

 ・レベルが1つ上がったこと

 ・カマキリの魔獣の見た目がおっかなかったこと

 ・カリナさんにもらった装備が役立っていること


 心配なのかコールやメールが一杯入っているのだが、俺は寝る前に一度メールだけすることに決めたのだ。毎回コールに出たりメールの対応をしていたら先に進めないからだ。寝る前に心配しないように安否確認の為に経過報告だけはすることにした。


 今日はレベルも上がったことだし、現在のステータスの確認と【認識詐称】でどうステータスを見せるか考えることにした。


《リョウマ・タカナシ》

 HP:9628

 MP:5314

 レベル:21

 種族:神族

 性別:男

 年齢:15

 職業:創造神


 攻撃力:634

 防御力:539

 敏捷力:738

  知力:763

 精神力:673

   運:937

 魅力 :測定不可


  SP:2048

  AP:21


『なあ、ナビー、これおかしいよな? これが普通なはずないよな?』

『……そうですねおかしいですね。それが何か?』


『いやいや、何かじゃないでしょ? どうすんのこれ? 【認識詐称】でごまかしても、実値はごまかしようがないでしょ。防御力539とかゴブリンに殴られてもダメージないだろ? 【マジックバリア】とかそもそも必要ないじゃないか』


『……だから言ったじゃないですか。ゴブリンやオークごとき今のマスターの敵じゃないって。でも勘違いしないでくださいね。マスターの防御力539-(ゴブリン攻撃力60+武器棍棒80)=399で防御力が上なのでダメージ0という計算式じゃないですよ』


『え? そうなの? ダメージ0じゃないの?』

『……ステータス画面で見ている数値はあくまでも最大数値であって、その数値が全て無効化されるものじゃないのです。攻撃力も同じです。会心の一撃ではないですが最大値がその数値なのです。マスターの世界のゲーム感覚だと、その数値で触れたら今日のゴブリンなんか腕に掠っただけで即死でしょうけど、そんなことはなかったでしょう? ちゃんと急所に当てないと即死なんてないのです』


『結構シビアなんだな。じゃあ、キラーマンティスとかの鎌攻撃とか首に食らったら俺でも結構ヤバい?』

『……せいぜい掠り傷ぐらいでしょうね。マスターの首が落ちるようなことはないです。そんな可能性が少しでもあるようなら戦闘させていません』


『だよね~……俺の今の実力ってどのくらいか分かる?』

『……魔法込みでBランク冒険者ぐらいでしょうか。今アラン隊長と試合形式で戦っても勝率2割もないでしょう。本気の殺し合いなら勝ち目無しです』


『え? 魔法だと圧勝してたけど?』

『……あくまで練習だからです。剣技込みで本気でやりあえば、中間距離以内でいくらマスターが無詠唱ができてもスキルなんかそうそう撃たせてもらえないですよ。アラン隊長もカリナ隊長も本当に強いです』


『経験の差はそうそう埋まらないか。いくら基本パラメーターが良くても使いこなせてないって話だよな』

『……正にその通りですね。実戦に勝るものなしといいますし、お手頃魔獣を見繕いますので効率よくこの世界を攻略しましょう。その為のナビーです』


『ははは、よろしく頼む。ところで【認識詐称】を設定しようと思うんだが、レベル21の男のステータスの平均ってどんなだ?』


『……それほどごまかす意味はないと思うのですが? 確かにレベルで考えたらおかしい数値なのですが、加護や祝福で皆、同じ数値ではないのです。マスターが神的に強いのであれば問題ですが、現状ごまかすほどのことではないと思います。種族:神族、職業:創造神というこの部分だけごまかせればいいのではないですか? 現状のマスターより強い人なんて一杯います』


『うーん、できれば低く見せたいんだが意味ないのか?』

『……なぜマスターが低く見せたいのかが理解できません。ギャップ萌え? 低く見せといて実は強かったみたいな? 弱く見せて舐められてトラブルを引き込むことはあるでしょうが、強いからって損は無いのです。舐められないようにするのも大事な防衛手段のひとつだと思いますが違いますか?』


『確かにそれもそうだな……解った。ナビーの言うとおりにする。SP・APが余ってるがどうしたらいい?』

『……SPはナビーとしては防御力総振り希望ですが、今後のことを考えたら保存してPTメンバーに振るのが理想ではないでしょうか。APは【周辺探索】か【詳細鑑定】を上げるのがいいかと。現状探索できる範囲が3kmだと心もとないので【周辺探索】をレベル5以上にする方が良いと思います』


 確かに索敵範囲が広がれば行動の選択枝が増える【周辺探索】に7P使ってレベル5にした。【詳細鑑定】も3P使いレベル3にしておこう。ナビーがいればどっちも必要ないような気もするが、極力自力で対処するから口を出すなと言っている。答えの分かっている推理小説みたいなのは面白くないからだ。ナビーを使えば分らないことはないからね。この世界の全ての生命を見守っているユグドラシル……5kmの範囲索敵で魔獣がどうこうとかの規模ではない。見ようと思えば世界中全ての動植物の一生が見られるのだ。


 AP残量11か……どうするかな、何かの為に保存でもいいけどレベルは結構簡単に上がるし【殺生強奪】があるからAPも意外とすぐ貯まる。寝かしとくのも勿体ないからどっかに振るかな。


 俺はMMOでは常に回復役なんだが、ソロだとあまり意味ないな。でもやっぱ回復魔法の強化はしておきたい。

 そういえばこの世界に来てまだ一度もダメージを受けていない。最初に氷漬けで死にかけたぐらいだ。


 熟練度もレベル3までは上がりやすいそうだから、極力自分で上げないといけないな。上がりやすいのにポイントを使うのは勿体無い。MPはかなりの量があるのだから、あえて多重詠唱であまり素材に価値のないゴブリンやスライムで熟練度を稼ぐのもいい。明日はそうしよう。色々考え事をしていたらコールが鳴った。【クリスタルプレート】を見るとナナからのようだ。


「今晩は、ナナどうした?」

「リョーマこんばんは。お昼にちっとも出てくれないから今したの」


「ああ、メールにも書いていただろ? メールやコールが30件近く来るのを対処していたら全く先に進めないんだよ。だから基本こっちからは出ない。至急の要件の時はメールに至急連絡がほしいと書いて送ってくれたらすぐコールするからそれでお願いするね」


「分かったけど……リョーマ急にナナに冷たくなった」

「あはは、なに恋人みたいなこと言ってるんだよ。ナナは俺の可愛い一番弟子だからな、冷たくなんかしないぞ」


「えへへ、本当? リョーマは今日カマキリやっつけたんだよね? 怖い顔してたって書いてたけど、大丈夫だったの?」


「ああ、顔は怖い顔してたけど魔法で首チョンパだったぞ、今日一日で4回戦闘があったけど全くのノーダメージだ1ポイントも削られてないぞ。凄いだろ?」

「うん! ナナの師匠はやっぱり凄いね!」


 ナナとの会話は毎度ながら心が和む。やっぱナナは可愛いなー。


「リョウマは楽しそうじゃな。妾は其方がおらぬので寂しくて死にそうじゃ」


「フィリア様も居たのですね。ナナみたいに恋人発言みたいなこと言っちゃダメでしょ。誤解されますよ」

「フィリアじゃ! フィリアと言うように何度も言っておるじゃろう」


「それよりお小言や帰って来いとかの話なら、切りますよ」

「違うのじゃ! ナナがコールすると言うから一緒したかっただけなのじゃ。其方は妾がコールしても出てくれないではないか」


「俺が悪いのは分かっていますが、やっぱ気まずいのも事実です。それにナナにも言いましたがお昼は出ませんからね」


「では夜は良いのじゃな? ちゃんと出てくれないと妾は嫌われたのかと思って悲しいのじゃぞ?」

「嫌うなんて有り得ないですよ。でも毎晩は勘弁してくださいね。今日みたいにナナとかと一緒だと一回で済んで良いかもです。明日の朝方レベルアップ痛がくるので早めに寝たかったですし、ステータス確認や自炊なので色々やることもあるのです」


「そうじゃな、其方も一人になったのじゃから雑事も増えて大変じゃろう。野営のテントを張るのも凄く大変じゃとカリナも言っておったしのう」


「テントは今のところ使ってないです。オリジナル魔法でログハウスを召喚する魔法を創りましたので。お風呂にも入って快適生活をしています。明日の朝、動画送りますね。部屋の間取りと外観を見れるようにしときます」


「其方はやはり面白いのう。家を召喚とかどうやったらできるのじゃ。妾の常識が全く通用せぬわ」

「リョーマは凄いね! 魔法で家も作っちゃうんだね」


「これは教えてできるものじゃないですけどね。申し訳ないですがレベルアップ痛があるのでそろそろ寝ようと思います」


「ああ、すまない。では明日も気をつけて行動するのじゃぞ。おやすみなのじゃ」

「リョーマ気を付けてねー。レベルアップおめでとう、おやすみー」


 通話を終えて、凄く癒された気持ちになってしまっている自覚がある。ナナは勿論だがフィリアも年齢の割には子供にしか見えない時が多々あるのだ。授業をしている時や皆に対しての気配りなんかは年の功を感じられるのに、時々幼児化してしまっている時がある。それが俺のツボにはまっているのだろうが、やはり2人とも可愛いのだ。2人のおかげでなんか癒されたし今晩もぐっすり寝れそうだ。


 深夜にレベルアップ痛がきたが1レベル分なら余裕で過ごせた。【痛覚半減】を使わなくてもいいぐらいだ。少しきつい筋肉痛程度の痛みだったのでそのまま寝た。



 レベルアップ後の翌朝はすこぶる調子が良い。テンション上がりまくりだ。

 朝食を終えた俺は約束どおり、家の中と外回りを動画に撮ってメールに添付してナナとフィリアに送った。俺の常識外に慣れたナナですらあきれたようだ。なんで旅の途中なのに普通にお風呂入って家で快適に暮らしているのだと突っ込みのメールが届いた。



 今日は剣は使わないでスキルの熟練度を上げることにした。素材になる魔獣はウインドカッターで首チョンパだ! 素材にならないような物はファイアボールとアクアボールで木端微塵にする。今日は戦闘経験無視で探索魔法に引っかかったらホーミング機能で遠距離攻撃で瞬殺するとしよう。とりあえず死体ごと自動拾得でインベントリに収納すれば手間もいらない。後で解体なり処分なりゆっくりやればいいのだ。


 森の中なので街道のように速度は出せないが、結構なスピードで森の中を進んだ。結構濃い霧がかかっていて見通しも悪いのだがナビーの指示通り進んでおけば問題なかった。途中で30体ほどの小規模なオークとゴブリンの集落を発見したが迂回して神殿を目指している。帰りに狩って、従魔を手に入れた後の供物にするつもりだ。肉も手に入るしいいみっけものだ。帰りに狩る為に地点登録もしておいた。



 60kmほど森の中を狩り進み、ようやく神殿に辿り着いた。時刻はもう夕方になっており、すぐに日も沈むだろう。ここに辿り着くまでに結構な数の魔獣を倒している。レベルも3レベル上がった。


 やっと神殿に到着だ。さあ迎えに来てやったぞ。見た目何もない場所だが大きな岩がありここが入口なんだとナビーが教えてくれた。俺の魔力に反応して入口が開くそうだ。言われた通りに岩に手を当てると岩が下に下がって階段が現れた。


『地下神殿なのか? この階段には魔獣は出るのか? 下までの距離は?』

『……マスター、少し落ち着いてください。ここは地下神殿です。神域ですので結界があって魔獣は入れません。下までの距離は30mほどです』


『分かった……何も出ないのか。地下ダンジョン攻略かと少し興奮したのだが違ったようだな』

『……さあ、フェイを迎えに行きましょう。6千年の眠りから覚ましてあげるのです』



 ナビーに促されて、ワクワクしながら階段を下ったのだった。

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