1-27 最後の晩餐、そして旅立ち
ネレイスをナナの誕生祝に呼んでやることを忘れていた……マジ御免!
というわけで、今後、巫女たちと食事をできるようにナナを使い誘導してみた。
「ナナに夕飯に誘われて来ちゃいましたが、迷惑ではないですか? 私は食事をしなくても大丈夫なのですが、とても美味しそうなので、良ければ夕飯だけご一緒したいと思います。お邪魔してもいいですか?」
「勿論良いのです。少し緊張している者もいるようじゃが、皆、喜んでいます」
「フィリア様、この人数なら今後三食とも姫騎士の方たちと合同でここで調理をしてはどうでしょうか? あまり人数が増えたら逆に大変になりますが、もともとここは定員30人程ですよね? 無駄な食材や調理の手間暇がかなり減らせると思うのです。それに皆でワイワイ食べるのって凄く楽しいですよね?」
サクラが皆に提案したのだが、全員が賛成して明日の朝から合同調理が始まるらしい。
何人まで増えたら元に戻すとか、調理人員を減らせるとか細かいことはやりながら決めるとのことだ。
夕食後にネレイスから定期的な外出の提案を出され、皆は盛り上がるのだった。
これまでお金はもらっても、外に出れない巫女たちは使い道がなかったのだ。
お買い物ができると皆、大はしゃぎだ。
ネレイスを迎え、楽しい晩餐になり、今日はいつもより少し長めの夕食になった。
俺にとってはこれで皆としばしのお別れだ。
次にここにくる時にはサクラとアンナさんは任期を終え居ないかもとか思いながら、心の中で皆に感謝した。
この1カ月、本当に楽しかった……。
部屋に戻る前に倉庫に行って、当座の食料と資材を補充した。
フィリアには勝手に使っていいとは言われているが、それはここにいる間の話で、外に待ちだすのとでは話が違ってくる。あとでメールでもしてフィリアに謝らないとな。
空いてる時間に風呂に入り、部屋に出していた歯ブラシなどの小物も全部インベントリに収納した。
これで、ほぼ準備完了だ。
『ナビー、女神たちの方は上手くごまかせているか?』
『……認識阻害の魔法が上手く効いているようです。女神様にはマスターは悶々としているようなので、少し放っておいてあげてくださいと言ってあります……明日【サーバーカット】のスキルを発動すれば雲隠れできますが、やはり反対です』
『人にとってプライバシーってのは大事なんだぞ。最近はプライバシーをお金に換えて日常生活をモニターさせてる女の子もいるようだけど、あれは変わり者の例外だからな』
お金欲しさにインターネットを使って、自分のエロい姿を有料で流してお金をもらう稼ぎ方があるようだが、普通の人はあまり他人にプライベートな姿は見られたくはない。
『……分かりました。命大事モードだけは守ってくださいね』
『ああ、約束する。カリナ隊長は大丈夫そうか? あと、ナナとかも心配なんだが?』
『……カリナの信仰値は今のところ大丈夫そうです。恋心には気付いてるようですが、気付いてすぐお別れなので気持ちの整理がついていないようです。このまま彼女からの告白はなさそうですね……』
『そうか……気持ちは嬉しいんだけど、俺の現状を考えると、人と付き合える状態じゃないからな。この異世界に残るかどうかも決めていない状態で、女性と付き合って、「じゃあ俺帰るわ、さようなら」とかあまりにも酷過ぎるからな……』
『……そうですね。女子の心をもてあそぶ、鬼畜の所業です。そんな奴は死にくされです』
『ナナは、どうしている?』
『……ナナは今、入浴中です。マスターが明日出ていくのをサクラやフィリアに自分の態度でばれないように、寂しいのを顔に出さないよう我慢しているようです。健気な良い子です』
お風呂から出たナナはネレイス抱き枕を下げて、思ったとおり俺の部屋にやってきた。
生乾きの髪を乾かしてあげ、練習がてらエアコン魔法をナナに掛けてもらって一緒に眠った。
ナナは少しの時間俺にしがみついてすすり泣いていたが、お互い個人香に【リラックス効果】と【催眠導入効果】があるようで、二人ともいつの間にか眠っていた。
翌朝、目覚めるとナナがもう起きていた。
「リョーマおはよう! いい朝だよ!」
「おはようナナ、随分早いな。今、何時頃だ?」
「まだ4時ぐらいかな、皆にばれないように行くなら丁度いい時間だね。リョーマ、すぐフィリア様にウソばれちゃうから、見つかったらダメだもんね」
「確かにフィリアのウソ発見器は怖いな。すぐばれちゃうからな。じゃあ、顔洗って行くとするか」
神殿の正門前に行くと、アラン隊長とカリナ隊長とネレイスが待っていた。
時間なんか言ってなかったのに、どれだけ待ったのか聞くのが怖かった。
「皆さんおはようございます。なんか待たせちゃったみたいですね」
「おはよう。門番をさっき下がらせて、今集まったところだ。まだ暗いが、もう行くのか?」
「はい、アラン隊長にもお世話になりました。結局騎士の方に剣術では一度も勝てませんでしたね」
「リョウマ殿おはよう。やはりそのような恰好で……これを身に着けるといい。私が少し前まで使っていたものだがサイズ的には丁度いいだろう」
カリナがプレゼントしてくれたのは、皮の胸当て、皮のすね当て、皮の肘当て、皮のリュックサックだ。
「背負い袋の中には各種回復剤と解毒剤も入れておいた。怪我してもすぐに使えるように腰のホルダーにちゃんと差して準備しておくんだぞ。それとこの剣も使ってくれ、その練習用の剣じゃ心配で眠れん」
『……うわぁ、カリナの愛を感じます! あの愛しむような眼差し、昨晩何を思ってあの境地に至ったのでしょうね?』
「カリナさん、なんか至れり尽くせりで申し訳ないのですが……こんなにもらっていいのかな? このミスリルの剣、それなりのモノでしょ? 回復剤も等級の高い物まであるじゃないですか……」
「ミスリルといっても純度は低い。気にせず是非受け取ってほしい。使徒様に対してこのくらいのことしかできないのが悔しいが、せめてもの気持ちだ」
「ありがとう。遠慮なくもらうことにします。なんかこの装備カリナさんのイイ匂いがするし、気に入りました」
「な! 何を言っているのだ! へ、変なこと言うな!」
「おや? 個人香のこと知ってますよね? クンクン……ハーブ系ですね、ペパーミントとかローズマリー系の爽やかな香りで集中力が高まり戦闘にはもってこいの効果があるようです。ちなみにナナは柑橘系でオレンジのような甘い爽やかさでリラックス効果と催眠導入効果があります。昨日もナナのおかげでぐっすり眠れました」
「私の前でクンクン匂いを嗅いだりしないでくれ……恥ずかしいではないか」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに俯いた……女性らしい仕草で可愛い!
普段は男勝りな口調なのだが、この人可愛いんだよな……。
「あはは……そろそろ巫女たちの朝の禊の時間でしょうから行くとします。ナナ、時々見に帰ってくるから無詠唱の練習もしておくんだぞ。カリナさんフィリアたちの連れ出し、お願いします。アランさんお世話になりました。ネレイス様、ご迷惑をおかけしますが、後の事お任せします。では行ってきます」
皆の見送りに手を振って、ナナの視線を振り切るように駆け足で冒険の旅にでたのであった。
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