1-25 ナナの誕生日会(後編)

 俺はちょいつまみ食いに食堂に戻ったのだが、他の者も全員食堂に戻ったようだ。

 いつもなら皆風呂に入ってそろそろ就寝時間のはずなのだが、花火の余韻でとても寝る気分ではないようだ。

 さっきの花火の話や、俺がプレゼントした鏡を手にして各自ワイワイやっている。


 ナナも各種デザートを並べてフィリアと一緒にご満悦のようだ。


 今回は味噌汁は出さなかった。

 前回おかわりが見られなかった為だが、今日出したコンソメスープとポタージュは大人気で完食されたみたいだ。



「そういえば皆さん、今日ナナがとうとう【エアコン】魔法を自力で習得しましたよ」


 皆、え!?っという顔をしている。

 ナナは当然胸をそらせてドヤ顔である。


「前にも言いましたが、この魔法は生活魔法レベルの簡単な魔法なのです。皆さんも頑張れば覚えられますよ」


 フィリアがトコトコ俺の前にきたかと思ったら、ジーッとこっちを見ている。

 なんだろうと思って見ていたら……。


「妾もリョウマの弟子にしてほしい! ナナが一番弟子なら妾は今日から二番弟子なのじゃ!」

「いやいや、なのじゃじゃないです! 何勝手に弟子になろうとしているのですか!?」


「妾がこれまで皆に教えてきたことで、間違いを伝えてしまっていたことが多々あるようなのじゃ。妾より優秀な者に師事を仰ぐのはおかしなことではなかろう?」


「しかし俺もカリナ隊長やアラン隊長に教えてもらっている未熟者です。弟子とかとる気は全くないですから。もうすぐここを出ていく身ですし、はっきり言って迷惑です」


 フィリアとナナにはつい甘々になってしまっているが、今回はきっぱり断わった。


 右手にスプーン、左手にはミルクババロアを装備しているフィリアは涙目でこっちを見ている。

 完全幼女化装備である。どっからどう見ても子供であった。

 恐ろしい……以前大型ショッピングモールの玄関ロビーで、ぬいぐるみが欲しいと駄々をこね、寝転んで大きな声で泣きながら転げまわってる子供を見たことがあったが、なぜか今その光景が脳裏に浮かんでしまった。


「ダメですよ! ナナより幼女化ぶって涙目で訴えても、騙されませんからね」

「ナナにはいつも優しいのに、リョウマは妾に意地悪なのじゃ」


「何言っているのですか、プリンもガラス窓も魔法も鏡も大方の願いは聞いていますよね? それに子供扱いすると怒るって皆、言っていましたよ。中身213歳のロリババアですものね?」


「ロリババア……妾はロリババア……」


 あ! ヤバい! フィリアの琴線に触れてしまったようだ。


「ゴ・メ・ン・ナ・サ・イ! 弟子にでもなんでもしますから。殺気をださないでください」


「最初からそう言えばよいものを……では妾も今からリョウマの弟子じゃ! ナナ、よろしくなのじゃ!」

「やたー! フィリア様と一緒! ナナも嬉しい!」


「フィリア様、俺はもうすぐ出ていくのに今更意味とかあるのですか?」


「ここには弟子が2人もいるからのう、一度出て行ったからと、リョウマなら捨ててはおかんじゃろ? 其方との縁を大事にしたいのじゃ」


「なるほど、縁ですか……大事なことですね。でももう俺にとってここは大事な場所になっていますから、蔑ろにはしないつもりですよ」


「フィリアじゃ! 今からリョウマは妾のことはフィリアと呼ぶがよい! 師匠が弟子に様呼ばわりはおかしかろ?」


 流石にこれには周りがざわついた。俺はカリナ隊長に助けを求めるべく視線を送ったのだが……。


 ぷいっ


 え~~!? いつもなら絶対ダメですとか怒り狂ってきそうなのに! ぷいってされた!


「流石にそれは俺もダメだと思うのですが? それにそんなことカリナ隊長が許さないでしょう?」


 さらに追いすがってみたのだが……。


「私はダメだとか言ってないであろう。師弟関係なら仕方ないことだとも思っているくらいだ。なんなら私も弟子にしてもらってカリナと呼んでくれていいのだぞ」


「お断りします! これ以上面倒事を増やさないでください!」


 断ったら、カリナさんがショックな顔をしている?


「あれ? カリナ隊長……まさかとは思うのですが、本気で弟子になりたいとか思ってないですよね?」


「なりたいに決まっておろう! 今更何を言っておるのだ! リョウマ殿は剣はからきしだが、こと魔法に関しては空恐ろしいものがある。ここに居る皆は知っておるから弟子になれるなら喜んでなるはずだ!」


 皆うんうんと首を縦に振っている。え~! マジですか皆さん?


「正直聞きたいことは山ほどあるのだ! 音消しの魔法、凄まじい位の精密な探索魔法、30発もの連射魔法、プリンやアイスクリーム、透明なガラスやシャンプーにリンス、今日また新たに国宝級の鏡と花火とやらが加わった! 弟子になりたくない者がいる訳ないではないか? ネレイス様が直々に夢枕に立って『リョウマさんがたまに突拍子もないことをするかもしれないが、詮索無用で外部には秘密厳守に願う』と、そうお告げがあったから私は詮索しないように我慢しているのだ」


 どうやらネレイスがこっそり裏で俺のフォローをしてくれていたようだ。

 他の皆も、『エッ!? あなたにも?』みたいな会話が聞こえてくる。どうやらここに居る全員がネレイスの規制がかかっていたようだ。俺が根掘り葉掘り聞かれなかったのはちゃんと理由があったんだな。

 フィリアが『なんなのじゃ!』と聞いてきた時に、よくぞ言ったフィリア様みたいな顔をするわけだ……。


「ナナはちょっと特別でして、凄い才能があるのに育成が勿体無い感じになっていたのでつい介入してしまったのです。それに異例の8歳での神殿登用、2カ月後に俺がここに召喚とかなんか女神の意図を感じないですか? 何があるのかは分かりませんが、何かあるような気がするのです。フィリア様もそうですね」


「フィリアじゃ! フィリアと呼ぶのじゃ! で? 妾がなんじゃ?」


「フィリアとナナがここに居ることが女神様たちのなんらかの作為を感じるってことです。神の仲間入りしているフィリアの所に俺を送り込んだ理由が回復できるからだけじゃおかしいでしょ? 実際アリア様は心配してくれてわざわざ顕現してまで下界に降りてきたんだから」


 俺の発言で周りがざわついた。フィリア呼びはやっぱまずかったか?


「今、其方なんと申した? 妾が神の仲間入りとかどういうことじゃ?」


「ん? 気付いてないとかないよね? フィリアはもう人間辞めちゃっているでしょ? 俺の鑑定魔法じゃ、種族:神族、職業:神殿巫女になっているよ?」


 フィリアは何を言っているのか解らないという顔をしている。そして自分の【クリスタルプレート】を開いて―――


「妾をからかうでない! あせってしまったではないか、其方の言うことだからまさかと思ったのだが、ちゃんと人族になっているぞ」


『……マスター、どうやら変に気負わないようにとアリア様が隠ぺい工作していたようですね』


『しまったな。余計な事を言ってしまった……でも、もうごまかせないだろう。フィリアって俺の嘘を見抜いちゃうしね』


「フィリアごめん。アリア様が変に気負わないようにと隠ぺい工作をしてたようだ。俺がうっかりでばらしちゃった」


 皆どうリアクションしていいか分からないようだ。いきなり神とか言われてもそうだろうな。

 PT申請を送って【コネクション】を発動、アリアの隠ぺいを解除してフィリアに見せた。


「ね、神族でしょ? 人間が200年以上も生きれるわけないよね。エルフや魔族じゃあるまいし、あはははっ」


「妾が神……妾が神……」


 フィリアがなにやらぶつぶつと言いながら、【クリスタルプレート】を見つめている。

 失敗したかな……ナナの誕生会どころじゃなくなったみたいだ。


「えーと、フィリア様?」

「フィリアじゃ!」


「あ……うん、フィリア? 大丈夫? 実はナナやサクラもそうなんだけど、他にも火神殿に1人、聖神殿に2人、暗黒神殿に1人神格化しそうな巫女がいるから、変に気負うことはないよ? 特に何が変わるわけでもないんだから」


 フィリアに悪いことしたな。なんかぶつぶつ言って呆けてしまった。


「え~、皆さん、なんか話がぶっ飛んじゃったようですが、弟子の話は他の方はなしということでお願いします。フィリアとナナは使徒的に受け入れることにします。それとカリナ隊長、先日のカーテンが出来上がりましたので渡しておきますね。巫女の方たちも、黄色ができたので模様替えしたい人は使ってください。人気の多かった緑や他色も追加で増やしていますので自分でとり替えてくださいね。では俺はちょっと疲れたので先に休ませてもらいます、おやすみなさい」


「リョウマ、悪いが一つだけ質問じゃ。この前、将来のパーティーメンバーとかの話をしておっただろう? もしもこの中からだと欲しい人材は居るかのう?」


 真剣な質問のようだ。どういう意図なのか読めない……自分を仲間にして欲しいとかだろうか?


「フィリアとサクラかな、カリナ隊長も凄く優秀だけど、単に前衛なら火神殿か土神殿で戦士職の人を探した方が良いからね。他の巫女様たちも優秀だけど、フィリアが居れば同職は何人もいらないしね。サクラはちょっと特殊なんで……かなり欲しいかな」


 サクラの方を見たら、また、ぷいってされた。このくノ一め……まぁいい。


「リョーマ、ナナは? ナナは要らない?」


「ナナは今は連れて行けないな。流石に9歳になったばかりのナナを連れ歩けない。任期が終えた3年後なら迎えにきてやるけどな」


「ほんと!? 約束だよ! ナナ頑張ってリョーマの役に立てるようになる」


「ナナは本当に素直でいい子だな! フィリアの我儘っ子と比べたら、なんていい子なんだろう。では皆さんおやすみなさい。ナナ、9歳の誕生日おめでとう」


 皆がおやすみなさいとか鏡ありがとうと声を掛けてくれたが、フィリアはなんか考え事をしているようで気付いてくれなかった。神になっているとか、余計なことを言ってしまったな。後悔先に立たずだ。




 居室に戻った俺は風呂に行きたかったが、巫女たちとバッティングしそうだったので生活魔法のクリーンで体を綺麗にして我慢した。フィリアから逃げるように部屋に帰ってきてしまったが、今日はもうさっさと寝よう。


 ベッドに入って1時間ほどしたころ、コンコンと部屋を誰かがノックしている。


「どうぞ」

「リョーマ、もう寝てた? ナナまた一緒に寝てもいい?」


 青いドラゴンのぬいぐるみを抱っこしてナナが入ってきた。ネレイスの抱き枕を気に入ったようだ。


「どうした? いいぞ、おいで。でも一緒に寝ると暑いからエアコン魔法をナナが俺に掛けてくれるか?」

「うん、分かった! 【エアーコンディショナー】どうリョーマ? ちゃんとできてる?」


「ああ、ばっちりだな。うん? ナナお風呂入ってきたのか? まだちょっと髪が濡れているな」

「うん、さっきサクラ姉と入ってきたの。それよりリョーマはもうすぐここを出て行っちゃうの?」


 俺はドライヤーのように温風を出して、ナナの髪を手櫛で乾かしながら答えた。


「そうだな、早ければ数日、長くても10日程かな」


 俺の返答を聞いた瞬間、ギュッと俺に抱き着いてきた。随分懐かれたな……ついてきたそうにしている者を置いて行くのは心が痛む。


「ナナ、リョーマがきてから毎日凄く楽しいの……今日も生まれてきて良かったって神様に感謝のお祈りを一杯できるほど楽しかったよ。でもリョーマは使徒様だからナナが我儘言って引き止めちゃダメなんだよね?」


「ナナは俺が居なくなるのが寂しいのか? でも、こう考えたらどうだ。学校に通う子供は親元を離れて3年ぐらいの寮生活は当たり前だろう? 近くの村や町からなら夏休みとかの長期休みは帰省できるだろうけど、普通はそうそう帰れないからな」


「あ、本当だ。学校に行ってる人はそうだね」


「俺たちは【クリスタルプレート】でフレンド登録してるから、いつでも会話できるし、メールもできるだろ? それに俺が全然寂しがっていないのには理由がある。当ててみろ」


「うー。ナナ分かんないよ~」


「俺もナナも暗黒属性の適性が凄く高いだろ? つまり転移魔法が覚えられるってことだ。俺もナナもかなりのMP量があるからな。長距離転移が可能ってことだ。もう分かっただろ、まだ転移魔法は覚えてないけど、俺の場合オリジナルで創れちゃうしな。時々会いにきてあげるからそう寂しがらなくていいぞ。どうだ? まだ寂しいか?」


「えへへー、もう寂しくないよ。リョーマは優しいね。でも忘れないでちゃんと会いにきてね?」


「ああ、ちゃんと修行さぼってないか見にくるぞ。それとナナ、貴重品は全て【亜空間倉庫】に保管だ。基本だぞ。俺の部屋を見てみろ何にもないだろ? 今すぐ敵とか地震なんかの災害が起きてもこのまま身一つでいつでも逃げだせる。ナナは大丈夫か? 部屋に戻って取ってきたいものがあるからとか緊急時にはダメなんだぞ。鏡や大事な物も全て【亜空間倉庫】に入れておくんだ。折角の大容量なんだから活用しないとな」


「あ! 鏡部屋に出しっぱなしだ。取ってくる」


「まぁ、今日はもういいよ。俺が言いたいのは心構えの問題だ。あと盗難予防な。ここの巫女たちは皆、良い人だからナナは自覚ないだろうけど。鏡とか町で見せたら襲われたり盗みにきたりされるから気を付けるんだぞ」


「分かった。せちがらいよのなかなんだね」


「あはは、難しい言葉を知ってるんだな。でもその通りだ。良い人ばかりじゃないからな。さぁもう寝るぞ」


「うん、リョーマ今日も楽しかった。素敵な誕生祝いありがとう。おやすみなさい」


「ああ、おやすみナナ」



 フィリアの神格化発言を後悔して寝付けなかったのたが、ナナの【リラックス効果】と【催眠導入効果】のある個人香のおかげで眠りに落ちたのだった。

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