1-24 ナナの誕生日会(中編)
部屋を暗くして蝋燭に火をつける。
「俺の村では歳の数だけ蝋燭に火をつけ、その火を願い事を思いながら一息で消せれば願いが叶うという言い伝えがあります。火を消した後に出る蝋燭の煙が、神の世界まで立ちのぼり願いを伝えるという迷信なのですが、良い風習だと思うのでここでもやりたいと思います。ナナおいで」
「さぁ目をつぶって、自分の主神の神様にナナのお願いをして、大きく息を吸って一息で火を消すんだ」
「ふぅー!! やったー! リョーマ全部消えたよ!」
パチパチパチ! 拍手と歓声があちらこちらから上がっている。良い雰囲気だ!
万が一ナナが失敗しても、こっそり俺が風魔法で消すつもりだったけどね。
「ナナおめでとう! 全部消えて良かったな! さぁ、ケーキを切り分けて皆で食べよう。お前が食べたいって言ってたイチゴのケーキだ、美味しいぞ! このケーキは特にミックスジュースとよく合うぞ」
「リョーマ、このイチゴのケーキ美味しいね! この白いクリームっていうのが甘くて美味しい!」
「妾はこの桃のケーキが気に入った! なんなのじゃこれは、この世にこんな美味しいものがあったのか?」
「今日の料理はカリナ隊長・ナターシャさん・サクラとアンナさんが協力してくれました。レシピや調味料も渡していますので、食べたくなったら作ってもらってください」
大歓声だった。俺より仲間内の方が作ってもらうのをお願いしやすいしね。
「騎士の方たちも参加したかったようですが、残念ながらここには入れないのでナナにプレゼントを預かってきています。はいナナ、騎士たちからだ、今度会ったらお礼をいうんだぞ」
「ナナ殿、姫騎士たちからも用意している。受けとってほしい」
「カリナ隊長ありがとう! ナナ大事にするね!」
姫騎士たちのプレゼントはドラゴンをデフォルトしてあるぬいぐるみのようだ。
どうやら水色のずんぐりむっくりにデフォされた竜は、竜化した姿の水神ネレイスみたいだ。
大きさ的にどうやら抱き枕にできそうなサイズだな……犬の抱き枕を愛用しているのを巫女たちから聞いたのかもしれない。
騎士たちからの贈り物は、いろんな種類の燻製肉のようだ。7種類も違う物を用意してある。
肉好きのナナにはたまらないプレゼントだろう。騎士たち、なかなかナナのことを分かっているな。
巫女たちからは、服のようだ。いろんな可愛い服が用意されていた。
ナナは特にワンピースタイプの服が気に入ったようだな。
ナナは顔に出やすいので、どれが一番気に入ったのか見てて分かるのだ。
ちなみにライトグリーンのワンピースをチョイスしたのはサクラだ。
「最後に俺からだ、まずはこれ」
手鏡を出した。
「リョーマなにこの鏡! 【アクアミラー】よりくっきり綺麗に映ってる!」
「なんなのじゃこれは! リョウマ説明いたせ! これは何の魔法じゃ!」
「魔法じゃないですよ。板状にした不純物を極力取り除いたガラスに、ミスリル銀を薄く伸ばしたものを塗ってある? みたいなものです。それとこれ」
卓上鏡と全身用の姿見を出した。
「こっちのは机の上にでも置いて、この大きなのは姿見と言って体全体が見えるから窓際の明るいところで朝、身だしなみのチェックをすると良いだろう。どうだ気に入ったか?」
これにはフィリアだけでなく全員が驚いていた。
しかもナナを羨ましそうに一度見て、俺に欲しそうな目をだまって向けるのだ。
「凄いリョーマ! これナナがもらっていいの?」
「勿論だ! 誕生プレゼントだからな。あれ? フィリア様どうしました?」
「リョウマは意地悪なのじゃ! 分かっておってまたそんなことを申す。ナナだけずるいのじゃ!」
「何言っているんですか、今日はナナの誕生日ですよ? ナナだけって、主役なのですから当然じゃないですか?」
「でも、これは良い物なのじゃ! 朝これを見れば幸せな気分になれそうなのじゃ!」
フィリアは手鏡とスタンドミラーを両手に持ち、姿見に全身を映してこっちにアピールしている。
皆もフィリアの意見にウンウンと無言で大きく首を縦に振って、こっちに熱い視線を向けてくる。
「なんですか? フィリア様も欲しいのですか?」
「欲しいのじゃ! 凄く欲しいのじゃ! これは国宝級の品だが、それでも欲しいのじゃ!」
「あはは、素直なフィリア様は好きですよ! 同じ物を3点ちゃんと準備しています。誕生日じゃないけど差し上げます。それと、皆にも手鏡と卓上用のスタンドミラーを各1つ用意しました。日頃世話になっている俺からのお礼です。姿見は特別世話になった人の分しか、材料と時間の関係で用意できませんでしたが、勘弁願います」
近くにいる人から順番に渡していった。姿見はナナ・フィリア・サクラ・カリナの4人にあげた。
驚いていたのはカリナ隊長だ。
「私がこれを貰ってもいいのだろうか?」
「受けとってもらえないと悲しいです。いつも気苦労を掛けていますし、剣術の修行に付き合ってもらってますのでぜひ受け取ってください。結構作製に時間かかってるんですよこの鏡」
「あのリョウマさん、私もいいのでしょうか?」
「ああ、サクラには本当に感謝している。看病に始まり食事の世話から部屋の掃除、シーツ交換までしてもらっている。ぜひ受け取ってくれ」
鏡は女性陣には何かくるものがあったのか、全員から大変喜ばれた。作った甲斐があった。
「一応付与魔法で物理強化の処理をしていますが、ガラス製ですので扱いには気を付けてください。落としたぐらいでは割れないように作っていますが、完璧ではないです」
「それとナナ、これはもう1個ナナだけに作ったプレゼントだ」
『ナナだけ』を強調して、ブラックメタル製の竜のネックレスを取り出した。
「なんか、偶然さっき姫騎士たちからもらったぬいぐるみに似てるけど、これは俺の名前からきている俺を模したものだ。目がルビーでちゃんと赤いだろ。一応俺だ」
他の巫女たちも興味津々で、ナナに手渡したものを見ている。
「希少金属はフィリア様に許可をもらって頂いたが、神殿以外では見えないように服の中に隠すんだぞ。本来ブラックメタルはドワーフの王ぐらいしか加工できないらしいから、こんなもの誰かに見られたら、盗賊や悪い大人に襲われるから注意するんだぞ。皆さんも鏡の取り扱いには気を付けてくださいね。鏡を巡って争いに巻き込まれて死んだとか嫌ですので。後、この鏡ははもう貴方たちに差しあげた物なので、家人にあげてもいいですし、友達にプレゼントしても構いません。どこかに売ってもいいですし、自由にして結構です。貰い物だから自分で持ってないといけないとか気を使わないでくださいね」
俺はじっと見つめているナナの手からネックレスをとってナナの首に付けてあげた。
「付与が2つ付いているから、後で確認するといい」
「ありがとうリョーマ! 一生大事にするね!」
嬉しい事を言ってくれる。そろそろいい時間だな。
「よし、最後のプレゼントだ! 皆さんちょっと外に出てもらっていいですか。最後のお楽しみを用意しています」
湖近くの花畑に土魔法で大理石のようなつるつるに磨いた長椅子を用意していた。
花火が打ちあがる側の反対側だ。皆に飲み物を配って準備が整った。
作った花火の数的に、ゆっくりやっても15分ほどで終えてしまうだろうが、この世界初の花火祭りの開演だ。
生活魔法のファイアを指先に発動し、ホーミングで第一ポイントに着火した。
ヒュ~~ドン!!
大きな炸裂音とともに一発目が打ちあがった! 成功だ! 夜空に綺麗な大輪の花が咲いた。
5秒に一度のペースでちゃんと上がっている。初めて見た子供のように、皆、口をあけて夜空を眺めている。
湖にもちゃんと花火が映りこんで、上と下とで2重に華やかに見える。思惑どおりで満足のいく結果だ。
ナナが直ぐに俺の膝の上に乗ってきた。
どうやら音がちょっと怖いようだが、花火の綺麗さには目が離せない様子だ。
同じようにすすっとくっついてきたのがフィリアだ。同じく音が怖いのだろう……二人とも可愛い。
一分ほど基本の単発で上げた後は、違う花火を打ち上げた。
錦冠・銀冠という種類で炸裂してから長く尾を引くやつだ、5発ずつ同時に打ち上げて豪華さを出した。
さっきの単発のものよりかなり豪華なので、皆、感嘆の声をあげていた。
これも1分ぐらい上げて次は最初の単発魔法に青蜂・銀蜂という炸裂した後にまるで蜂の巣をつついたようにたくさんの火種がくるくる回って飛び散る派手な演出が入ったものを加えた。
次は俺の大好きな柳という種類のものだ。これは錦冠・銀冠をもっと派手にした感じのもので、かなり下の方まで尾が流れるので火事に注意が要る代物だ。これは皆好きだろうと思い多めに作って打ち上げた。
やはりこれは人気があるようで、皆、見惚れていた。
よし最後だ!
残り60発を10秒程で全弾打ち上げてド派手に終わらせた。
花火が終わると急に静寂が訪れて、周りは真っ暗な暗闇に包まれた。
星空だけは花火に負けないほど綺麗だったが、皆、余韻に浸っているようだ。
俺は生活魔法の【ライト】を多重発動し、明かりを付けて足元を照らした。
「どうでしたか? 上手くできたと思うのですが。楽しめましたか?」
あれ? 膝の上に居たナナが泣いている。どうした?
「ナナ? どうした。怖かったのか?」
「ううん、違うの! ありがとうリョーマ! ナナこんな素敵な誕生会をしてくれて嬉しいの!」
ふぅ……良かった。どうやら感動してくれて泣いていたようだ。
花火にビビって泣かれたんじゃ、俺の苦労が報われない。
「そうか、それは良かった。俺も頑張った甲斐がある。皆さん、一応俺主催のナナの誕生会はこれで終了です。料理も残ってますし今日は食堂を開放しておきます。腐る前に巫女と姫騎士たちの方で持って帰ってください。捨てるのは勿体無いので上手く分け合ってくださいね。ではここで解散します、皆さんおやすみなさい」
一旦ここで誕生会は終了とし、解散した。ナナ以外も喜んでくれたようで大成功だろう。
俺は喉が渇いたし、もう少し食べたかったので食堂に移動した。
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