1-21 龍馬、フィリアをシャンプーして暴走する
剣術の修行を終え、神殿宿舎に帰るとフィリアがもうガラスの材料が届いたという。
異世界スゲー! ネット通販以上の配達速度だ。
実際には高価な瞬間移動は一般人には利用できないし、フィリアの人徳で、急ぎかき集められたのが事実なのだろう。それでも半日で山奥の神殿に物が届くのは驚きだ。
さっそくインベントリに放り込みナビーにお願いする。
『ナビー、ガラス工房の強化だ。板ガラスがほしい。擦りガラスとサッシのような透明なヤツだ。今の工房レベルで可能か?』
『……何か数点ガラス工房で作品を作れば工房レベルは上がりそうですね。その後なら板ガラス用の小規模ラインができそうですが、その際にマスターの魔力をかなり頂きますが、よろしいでしょうか?』
『ああ構わない幾らでも使ってくれ。それじゃあ、プリン容器と試験管を作ってくれないか。試験管は回復薬や毒消し薬を入れるつもりなんだが、蒸留して濃縮タイプを作ろうと思ってる。なので大きさは現在使用されている物より半分ほどの物に仕上げたい。50本ほど頼めるか?』
『……回復薬の濃縮の開発もこちらでやっておきますが、構わないですか?』
『じゃあ、頼めるか? HPポーション・MPポーション各20本、毒消し薬10本、悪いが味も少し改善してくれ。前回討伐の時MPポーションを飲んだけど、スゲーまずかった』
『……味の方はマスターに味見していただかないと私にはどうしようもできないですね。それとあちらの世界のゲームじゃないので、名詞はポーションではなく、回復剤もしくは傷薬です。それと毒消し薬でも良いですが、一般では解毒剤、毒消し剤と言われています。とりあえず試作で1本ずつできたら知らせますので、味見をお願いします』
細かいことだが、固有名は大事なことなので、都度教えるように言ってある。
『分かった……ナビー、今回剣術や中級魔法の一式習得してるのを俺は気付かなかったが、お前は当然レベルが上がった瞬間には分かっていたのだよな?』
『……はい、常に監視……もとい一緒にいる存在ですので』
『じゃあ、次回から音声アナウンスで通知するように。「レベルが上がりました」ハイ、言ってみろ』
『……恥ずかしいです、マスター』
『何を言っている、お前のアニメ声は気に入ってるんだぞ。さぁ、言ってみろ、できるだけ無機質にシステム音声的に言うんだぞ! 「剣術レベル1を習得しました」言ってみろ』
『……恥ずかしいです、嫌ですマスター』
『ナビーが音声ナビしなくてどうする? 「ナビーへの愛が1レベルアップしました」さぁ、頑張って言ってみろ』
『……「ナビーへの愛が100レベルアップしました」「マスターへの愛が1000レベルアップしました」「ナビーの愛とマスターの愛が統合され結婚に至りました」』
『いい感じだが、調子に、乗りすぎだ』
『……マスターのイメージどおりです。完璧です!』
『じゃあ、次回から邪魔にならない程度に重要なことは知らせてくれ。あと、透過で左下辺りにシステムログ的に表示も頼む』
『……マスターが現在寝落ちしているMMO的なこんな感じでよろしいでしょうか?』
『ああ、バッチリだ。今後は頼むな。レベルが上がったという感覚は体感で上がった時に感じられるのだが、奪ったスキルや解放された魔法は後で調べないと分からないからね。ナビーが通知してくれれば有用なスキルならすぐ活用できるようになる』
指示を色々出した後、部屋に戻った俺はシャンプーをさっそく特製ポンプに詰めて、ちゃんと出るか確認した。なかなか良い出来だ!
欠点をあげるなら、瓶が全く同じなので中身の色で判断しないとだな。色が全部違っててよかった。
夕飯後片付けが終わった頃に姫騎士もやって来て全員揃ったので、お風呂場に移動した。
「さぁフィリア様、すごく良い物を作ってあげました。これは髪の綺麗なフィリア様の為に苦労して作り上げた物です。プリンより凄いものです。服を脱いで水浴み着に着替えてきてください」
恩着せがましく言ってみた。当然のように怒りだすカリナ隊長だが予想済みだ。
「別にカリナ隊長でもいいんですよ? カリナさんも綺麗な髪ですしね。フィリナ様と代わりますか?」
「リョウマのことは信用しておる。エッチなことはしないんじゃよな?」
「おこちゃまが何言ってますか、時間が勿体ないのでさっさと着替えてきてください。凄く良い物ですから、後悔はさせません」
フィリアはお子ちゃま発言にちょっとお怒りだったが、すぐに着替えて戻ってきた。
うわっ!? 子供なのに色っぽい……中身213歳のロリババー恐るべし!
お子ちゃま発言をしたが、子供でも色気のある者にはやっぱドキッとしてしまう。
俺もさっさとパンツ一枚になった。
周りは「キャー」「貴様ハレンチな!」とか言っているが無視だ!
本来水浴み着は朝の禊の時に着るものだが、胸のないフィリアが百数十年程前から着なくなったため、現在巫女は誰も着なくなったらしい。
ここには女性しかいないし、お風呂では裸なのにということらしいが、姫騎士たちは規則だと今もちゃんと着用している。俺にあの時見られてしまったのも、ほんの少しフィリアにも責任があったようだ。
「順番に説明しますね。最初にシャワーで髪を濡らしてください、そしてこの瓶のここをフィリア様なら髪が長くて多いので5回ほどの量ですかね、ゆっくりと押してください。2回に分けて付けてもいいですよ。凄く泡立つので目に入らないようにしてくださいね。そして頭皮の方から毛先の方に泡立てながら洗っていきます。どうですかフィリア様かゆいところはないですか?」
「リョーマー、気持ちい良い! アワアワなのじゃ!」
なんか目がとろんとなってるな。俺のシャンプーテクも大したものだ。
「もし目に入った場合はすぐに水で洗い流してくださいね、とても沁みますので入らないように気を付けてください。毛先まで洗い終えたらよく洗い流します。残らないように綺麗に洗い流してください。次にこっちの液体です。これは髪の毛が凄くヤワヤワ、サラサラになるものです。これも付け過ぎないように適量で髪全体に馴染ませます。これは洗髪の為の物じゃないのでごしごし洗う必要はないです、髪の保湿となめらかさなんかの効果を与えるものですので髪全体に馴染んだらさっと洗い流しましょう。これはシャンプーと違って、さっとすすぐ程度にしてください、洗い過ぎると保湿効果まで流れてしまいます」
結構真剣に皆、聞いてくれている。
「緑色がシャンプー、桃色がリンスと覚えてください」
「リョウマ気持ち良かった! もう1つあるその白い方はなんじゃ?」
「これは体専用ですが、流石にフィリア様に脱げとは言えないので……よしナナ、すっぽんぽんだ恥ずかしがるな、やれ!」
「らじゃーなのです!」
躊躇なくナナはすっぽんぽんになった……カリナ隊長が止めるかと思ったが、ナナはどうやらセーフのようだ。
「これは体専用の洗浄剤です。布にそうですね、4回ほど押して液体を付けて泡立ててください。そしてごしごしこんな感じに優しく洗ってくれればいいです。赤ちゃんでも洗える安心液体なので顔も洗ってもいいですよ。どうだナナ、アワアワで気持ちいいだろ?」
ナナの背中をアワアワにして洗ってあげた。
誰かから非難や文句が出るかと思ったが、誰も文句を言わなかった。
いいのかな? ついでにナナの髪も洗ってあげた。
「妾もリョウマに洗ってもらうのじゃ!」
暴走娘が水浴み着を脱ぎだしたあたりで、カリナ隊長とサクラに浴槽に入れられたようだ。
先にナナを更衣場に連れて行き、髪を風魔法の応用でドライヤーのような温風を手の平からだして乾かしてあげた。
目を閉じて気持ちよさそうに、俺に櫛を入れられていたが、すぐに乾いて完了だ!
「皆さん、ナナの髪を触ってみてもらえますか」
「リョーマ、サラサラだよ! 凄ーい!」
皆、驚いていた。ふふふっ、そうだろう現代科学の生み出したシャンプー&リンスは凄いのだ!
そのうち、トリートメントやヘアパックとか作ってあげてもいいが、リンスでも十分だろう。
体を洗い終えたフィリアも出てきたので、ドライヤーしてあげる。
フィリアも目を閉じて櫛を入れるたびにうっとりした表情をしていた。
髪が長いので時間がかかったが、やはりフィリアの綺麗な髪は凄かった。
髪に天使の輪ができた、天使がいた!
当然フィリアに皆が群がった。サラサラ~ツヤツヤ~だった。
俺もつい我慢できなくなって、フィリアの髪を首マフラーにしてクンカクンカしたら、サクラに殴られた。
「あの、リョウマ殿……姫騎士全員集めて、シャンプーとやらの実演をして見せたのは、その……厚かましいと思うのだが、私たちにもこの魔法の液体は分けてくれるのだろうか?」
「カリナ隊長、当然じゃないですか。見せびらかすような真似して巫女だけですとかないでしょう?」
俺はインベントリから、各2本ずつボトルを取り出して姫騎士に手渡した。
姫騎士たちはきゃきゃと騒いで喜んでいる。年頃の娘たちにとってこの洗髪剤は凄い衝撃的だったようだ。
「残念ながら一人一本ずつとかはないですが、姫騎士のお風呂場で2セットです。ここのお風呂場にも2セットです。シャワー口が5カ所なので間に設置して共同で使ってください。多く使えば泡立ちはいいですが、効果は同じですので髪の短い人は2押しぐらい、フィリア様ぐらい長くても5押し分の分量で十分なので使いすぎに注意してください。現在手持ちの材料で作れた物はこれだけです。無くなれば終わりですので、絶対喧嘩とかしないように節約してくださいね」
俺は倉庫にあった水瓶に原液を入れた物を、各2瓶取り出した。1瓶ずつ手渡し、ボトルの分が無くなったらこの瓶から移し入れるように説明した。
説明が終わると姫騎士たちに礼を言われ解散したのだが、巫女たちがすぐにお風呂に入りたいから出て行ってくれと追い出された。なにげにフィリアとナナがまた入ろうとしているので、せっかく乾かした髪が濡れるから今日はもう止めなさいと連行した。困った子供たちだ。
お風呂から出た巫女たちは、わざわざさらさらになった髪を俺に見せにきた。
お礼が言いたかったようだが、睡眠前に湯上りの美少女たちを見せられて、俺は悶々とするのだった。
マジ勘弁してください。
翌朝、朝食後に俺はプリンの実演講習会を開くための準備を行った。
サクラが手伝ってくれたのですぐに完了したのだが……10時からだと言ってあったはずだが9時前なのに、全員集まって待っている。
「昨日10時からって言いましたよね? なんで皆もう居るのですか?」
「今日は座学がないのだから仕方ないのじゃ」
「分かりました。じゃあ予定時間を早めて始めることにしますね。その前にこれを食べてみてください。え~と……あれ? 姫騎士も巫女も全員居るじゃないですか? 希望者だけでいいんですよ?」
「リョウマ殿……姫騎士全員参加です。希望者だけと言ったのですが全員参加希望でした。門番に誰が行くかで揉める始末……騎士にお願いしてこの時間だけ離れると伝えています。お恥ずかしいが、私もプリンには抗えなかった」
「じゃあ、俺の分を入れて15個か……まず食べてみてください。アイスクリームといいます。暑い日には格別のデザートです」
全員に配り食べてもらったのだが、皆、目が蕩けていた……良い感じかな。
「リョウマ、もう1個食べたいのじゃが良いかの?」
「ダメです。これもプリンと原料はほぼ同じ、分量が違うだけですので食べ過ぎると太ります。この後のプリンを食べないなら、フィリア様にはもう1個あげますがどうしますか?」
迷う素振りを見せたが、フィリアの中ではプリンが勝利したようだ。
「昨日レシピを教えると言いましたが、ちょっと思う事がありまして少し質問良いですか? 市井の神殿、特に孤児院が併設されてる神殿の金回りとかどうなってるかカリナ隊長知らないですか?」
「主に貴族や国、併設の治療院の収益、一般市民からの寄付金でまかなっているようですが、どこもかなり厳しいようです。孤児は一定数毎年でます。親の都合で売られたりして奴隷に落とされた子供よりは良いのかもしれませんが。孤児院にもよりますが食事は1日2食、朝晩と少なく、着ている服も年長者からのお下がりの使いまわしだそうです。神域・聖域クラスの神殿にはこぞって寄付やお供えを皆提供してくれるのですが、末端の神殿はどこも維持が大変なようです」
「カリナ隊長詳しいですね。ひょっとしてボランティア活動とかしていましたか? 他の皆様もなんかしてそうですね」
「ええ、できる限りのことはしたいと思い参加している。しかし個人の力じゃできることは知れているから偽善と笑っている奴もいるくらいだ」
「俺は例え本当に偽善でも良いと思うのですが?」
「リョウマ殿? 偽善では心がないのだぞ? 上辺だけつくろっても意味は無かろう? 信仰値は増えぬ」
「確かに信仰値は増えませんが、それは違いますね。俺の考えですが、例え偽善でも子供たちにとっては確実に役に立っています。プラスであってマイナスではないのです。一番ダメなのが偽善だと笑って何もしていない無関心な奴らじゃないですかね?」
「そうだな、確かにリョウマ殿の言う通りかもしれん」
「ここで本題なのですが、このレシピを神殿の秘匿にして、孤児院でアイスとプリンとあと数点美味しいデザートのレシピを教えますので独占販売できないですかね? 利益は孤児院と神殿にまわせますし、孤児院の孤児たちの就職先にもなると思いますが、どうでしょうフィリア様?」
「其方は凄いのぅ、ただ美味しい物を作るだけではなくて、その活用法まで考えておるとは。正直妾は孤児のことなど全く知らなんだ。神殿で200年もいるのに恥ずかしい話よのう」
「どうでしょうか? 砂糖や卵が少し値が張りますが、俺がいたところでは誕生日やお見舞いなんかの特別な日に良く出されていました。これがイチゴショート、これがシュークリーム、チーズケーキ……どうです見た目でも美味しそうでしょう?」
【クリスタルプレート】を出して、あらかじめ保存していた画像を見せてあげた。
「ナナこれが食べたい! イチゴがのったやつ美味しそう!」
皆、賛成のようなので、神殿孤児院のケーキ屋さん計画を始動することになった。
「使徒の存在はもう暫く秘匿にしたいので、このレシピは水神殿の巫女と姫騎士の共同開発ということでお願いします。ケーキ屋計画の発案者はフィリア様でお願いします。フィリア様の名前で、国や貴族などのレシピ介入を防げると思いますしね。なんだったら、女神様にお願いして神託として各神殿に通達してもいいですが、あまり大事にはしたくないですからね」
「手柄だけ巫女がもらうのは気が引けるが、子供たちの為だと割り切るかのう。早急に生活の向上をしてあげたいからのぅ」
プリンとバニラアイスの実演実食は、皆、満足してくれたようだ。
次回はイチゴショートを教えてほしいと約束させられ、今日も忙しくも平穏に過ぎていくのだった。
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