キズアトについて(1:肥厚性瘢痕)
ケガをしたり、手術で縫ったりしたあと、どうしても目立ってしまうキズアト。
これを瘢痕と呼びます。
身体の組織は自分で糊を出してくっつきます。
この糊は繊維組織が主体となっていて、キズが治ったあと瘢痕組織となって残ります。
残りますが、時間が経過するにつれて、ある程度ハケていきます。
赤くて硬くて盛り上がっていたものが、白くて柔らかく平らになっていきます。
ゲガや縫合の1ヵ月後がいちばん「赤、硬、凸」です。
3ヵ月〜半年くらいで「白、柔、平」になってきます。
その後もわずかずつ変化して、何年、何十年の間にはかなり目立たなくなります。
幅の広いキズアトを「肥厚性瘢痕」と呼びます。
これは大きなキズを縫わなかったためです。
あるいは稚拙な縫合の結果です。
混同されがちなものに「ケロイド」というものがあります。
これは正常な瘢痕ではなく、腫瘍性の瘢痕を指します。
肥厚性瘢痕はちゃんと「白、柔、平」に落ち着くのですが、ケロイドは「赤、硬、凸」のピークの時期がありません。
つまり、際限なく大きくなり、周囲の正常な範囲まで侵入して、いつまでたっても痒くて痛いのです。
ケロイドの好発部位はありますが、その発生を予見することはできません。
同じ患者さまでも、できる時とできない時があるし。
同じ長いキズの中で、なぜか部分的に出現することもしばしば。
バッチリ腫瘍の性格のケロイドですが、顕微鏡で組織を見てみると、普通の瘢痕組織と変わったところはありません。
ただ活発にキズを治そうと活動しているだけ。
とっくにキズは治っているのに、それに気づかずひたすら頑張っているかのようです。
ある意味、哀愁すら感じますが、患者さまは非常に悩んでいます。
ケロイドをどう治療するか。
これはのちほど……。
まず今回はキズアトの個人差や身体の部分による違いについて。
前回のクイズのような、真皮の厚みによって作られる瘢痕の量が変わってきます。
粘膜にできる瘢痕はごく少量。
まぶたもかなり少ない。
ちゃんとした形成外科医がまぶたを縫って目立つキズアトを残すことはあり得ません。
もしも目立つ瘢痕や段差がある場合は、その施術者は……。
手のひらも足の裏もキレイに治ります。
ただし、よく動かして使う場所であり、全体重がかかる場所でもありということで、縫合後の包帯、テーピングの技量や、抜糸を遅らせても大丈夫な縫い方、患者さまの安静具合などがそろって、理想の治癒が実現します。
お腹や胸の真皮はそれほど厚くないのに、外科手術のキズアトは幅広い……。
それは形成外科的な縫合が施されないことが大きな原因ですが、しかしそれだけではなく。
恥骨上部、胸骨上など骨の上の皮膚では、どうしても肥厚性になります。
厚い脂肪組織に裏打ちされている皮膚よりも、明らかにキズアトが広くなり、またケロイドの発生も頻度が高いのです。
下が硬いと肥厚する傾向があるのかもしれないと、昔からいわれています。
また、皮膚のテンションが高い場所も、当然ながら幅広い瘢痕になりやすい。
上腕の肩部分とか、肘とか、腸骨まわりとか、膝とか、あるいは頭部とか。
背中はテンションが高いし、かつ真皮が極厚で、椎骨や肩甲骨があって。
もう、大変な場所です。
次話、キズアトについて(2:出来る時と出来ない時)へ、つづく
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