第1892話 そっちなんだ?!
そろそろなんか変わったお客様のお話をする頃かな? と思いましたので(そんなタイミングはねぇよ)、ウチのお店にやって来たお客様のお話をさせていただこうかと思います。大丈夫、ちゃんと個人情報とかには気をつけますから。
皆さんも経験があるかと思うんですけど、欲しい商品があるけど、その商品名がわからないことってありません? 私なんていつもそうです。頭にはちゃんと浮かんでいるのです。浮かんでいるんですけども、名前が出て来ない。商品もそうですけど、最近の俳優さんの名前なんかもさーっぱり。ほら、あれ、あの、ほら、あのCMに出てたあの人よ。ほら、あの――アレのCM。あれ、ほらあの、なんかわちゃわちゃちしてるCMよ。最早俳優さんの名前だけじゃなくその俳優さんが出てるCMすら出て来ねぇの。
それでですよ。
ある日のことです。
混合栓(蛇口とかシャワーだと思ってください)コーナーで作業をしておりますと、遥か遠くの通路から「ちょっと」と声をかけられました。まぁはっきり言って、人を呼びつけるのには少々遠い距離です。これは店員あるある(お客様あるあるかな?)だと思うのですが、至近距離ではなく、遥か遠くから呼ばれることってかなり多いのです。何ならマジで10mくらい向こうから手をぶんぶん振ってきますから。たぶん、目が合ったと思うんでしょうね。あの、マジで合ってる場合もあれば、合ってないこともあります。なので、全然悪気なく手前の通路で曲がることもあります。申し訳ありません。当方マジで目が悪いので。
それでですよ。
まぁその年配のお客様ですね。
高齢のご夫婦でした。私を呼んだのは奥様の方。「ちょっと
かしこまりました、と作業を止めてついていくことにしました。
気になるのは、奥様の手です。
先ほど奥様は「ちょっと見てけれじゃ」と言いながら、その『見てほしい』ものを手の動きで表現していたのです。名前が出て来なかったのでしょう。こういったジェスチャーはよくあることです。
動きとしましては、ドアノブを握ってガチャガチャやるような感じ。ただ、握ってるものがどうやらドアノブよりも小さそうというか、細そうなのです。何か細い棒のようなものを握って、それをドアノブみたいにガチャガチャしていたのです。
ハハーン、さてはドライバーだな?
オッケーオッケー、宇部さんにドーンとお任せだ。ドライバーってことは、まぁあれだな、このネジに合うドライバーはどれだとか、そういうやつだろうな。
そんなことを考えながらついていきました。
が。
工具売り場を素通りしてたどり着いたのは、電動工具売り場。
あれ? ドライバーじゃないのか? それとも売り場を間違えただけ?
奥様はてくてくと歩いて、電動ドリルドライバーのコーナーで、再び例の手の動きです。えっ、もしかしてこのおばあちゃんが表現してたのって、電動ドライバーのビット(先端工具)部分、ってこと?! 普通、電ドル持った感じで表現しない? あの、銃を撃つみたいなさ、そっちの方にしない? 回す方表現したんだ?!
奥様「
宇部「あぁー、
向こうがガンガン訛っている時は、こちらもそれに合わせます。何となく地元民感を出します。宇部さんもね、もうかなりネイティブに近い発音でしゃべれますから。
そんでまぁ、その奥様の後ろにはね、ずーっと旦那様がいらしたんですけど、もう一言もしゃべらなくてね。良いのかな? これ、旦那さんが使うやつなんじゃないのかな? って。ほら、やっぱりイメージとして、こういうのって男の人が使うんじゃないかなって気持ちがあって。そう思って、チラチラと旦那様の方も気にしてたんですけど。
でも。
奥様「どうせ使うの俺だから、
って。別にこの奥様が『俺っ娘』ってわけではないです。秋田限定なのか、それとも東北ってみんなそうなのか知りませんけど、一人称が『俺』の女性、結構多いです。ほとんど高齢の方ですけど。『おら』が『おれ』になったのか、最初から『俺』のつもりでそう言ってるのかわかりませんが。
とにもかくにも、そっち(先端部)の表現なんだ?! ってのがびっくりした、ってだけの話でした。それだけのネタでもここまで膨らませるのがエッセイ職人ってぇもんよ(へへっ、と鼻の下を擦りながら)。
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