第1282話 息子の尻

 さて、まだまだ北海道でのお話は続きます。高い金を出して仕事休んで行ってるわけですからね、もう意地でも北海道で5話は書きたいところ! 元は取ってもらうぜ!(元って何……?)


 私は今回の帰省で密かに「何はなくともこれだけは家族(実親と実姉)にアピって帰りたい」と考えていることがありました。


 それは、タイトルにもありますが、息子の尻です。


 だって、他にアピれる人います?

 いきなり息子の尻露出させて、「どうです、ウチの息子の尻! 国宝級でしょう?」なんて出来ませんて。親として、というか人として?


 だけどね、これが身内ならばですよ。入浴という恰好のイベントがあるわけです。自宅の風呂でも良いし、温泉でも良い。ただ、温泉の場合は実父にしか披露出来ないわけですけれども、別に毎日温泉に行くなんてことがあるわけないんですから、絶対滞在期間中に一度は自宅の風呂に入るわけですから。むしろそっちの方が多いのよ。


 そんなお披露目チャンスを密かに狙っておりますと――、


母「明日はせっかくだし、温泉行かない? ジジ、息子君に背中流してもらったら?」

息子「いいよー!」


 いきなり温泉チャンス到来。


 さすがはパパ譲りのイエスマンです。二つ返事で快諾! そして、降って湧いた祖父への尻アピールチャンスです!


 が。


 そうは言っても息子です。彼にはまだ己の尻をうまくプレゼン出来る力はありません。「僕のお尻ぷりぷりだよ」が関の山でしょう。いや普通はこれで十分なはずなんですけど。


 やはりというか、息子単独でのプレゼンは難しく、というか彼は己の尻ポテンシャルを過小評価しているというか、生まれた時からその尻を標準装備しているものですから、当たり前すぎてその価値に気付いていないというか。まぁとにかく、彼にとって尻はただの尻。尻は誰にとってもただの尻なんですけど。尻以上でも尻以下でもありません。私は何を書いているんだ。


 やはりここは保護者がバシッとアピールしなくては。頼りの旦那はいません。私がするしかないのです。旦那がいたとしても義理の父と母にいきなり「どうです息子のこのお尻。僕と娘さんの自信作です」と言えるような人ではありません。いや、言えるような人ではあるんですけど、ウチの父にそれがちゃんとジョークとして伝わるか甚だ疑問。


 なので、私がやるしかないのです。

 翌日、自宅でのお風呂タイムに決行です。幸い(?)まだまだ子ども達は脱衣所ではなく、居間でババーンと脱いで、上がってからも居間でババーンと着替えるお年頃。次の帰省が何年後になるかはわかりませんが、もう次はないと見ていいでしょう。いましかありません。


宇部「ハイ注目。皆さんご注目。見て、息子君のこのお尻見て」


 完全に狂人ですよ。

 洗いたてほかほかの息子(9歳)の尻を見て、って言う母親、この地球上にいます? います、ここに。


 何だ何だと集まるギャラリーマイファミリー


宇部「すごくない? ねぇ、この尻すごくない? このぷりぷり具合すごくない? この子めっちゃインドアなのにこの尻はすごくない?」


 秋田に嫁に出した次女がトチ狂って帰ってきた、って思ったでしょうね。三人姉弟の中で一人だけ結婚して孫までこさえた次女が、妖怪・尻プレゼン女になって帰ってきたわけです。これは一大事!


 とならないのが松清家。


実母「あらっ、本当に良いお尻」

実姉「わぁ、ほんとだ」

実父「ふむ、これはなかなか」


 皆狂ってます。

 さすがは私を育んだファミリーです。


 同意を得られたことに大満足な私。


 しかし、この後、実母が放った一言が衝撃でした。


実母「これ、私の尻だわ」


 What !?

 

宇部「は? 何言ってんの?」

実母「アンタ忘れてるかもしれないけど、お母さんは陸上とバスケの選手だよ? 誰にも遺伝しなかったけど」


 そうなのでした。

 マイマザーは実はめっちゃスポーツウーマンだったのです。子ども達の誰一人として受け継ぎませんでしたが。


 とはいえ、その頃の母を、私も、そして姉も知りません。私達が知っている母は若い頃から既にビール腹のおっさんです。疑いの目を向ける娘達に、母はそれを唯一知る人物に問い掛けます。


実母「ねぇお父さん。そうだよね?」


 父です。

 いやいや、そうは言ってもその頃には既におばさん化している可能性も、とも思いましたがこの二人、当時17の母に24の父が手を出しているのです。何やってんだ。


実父「そうだな。確かにこれは若い頃の〇〇ちゃん(たまにちゃん付けで呼ぶ)の尻だな」


 証人がいるなら仕方ありません。どうやら息子の尻はマイマザーに似た模様。オイ、それなら運動神経までまるっと似てくれや。どうしてその辺の能力は私なんだ。旦那の要素ももう少し頑張ってくれ。


 息子の尻の謎は解けましたが、さんざんに可愛い可愛いと撫でくりまわしていたそれが、実母の尻だったと思うと少々複雑ではあります。


 ただ何由来であっても、息子の尻は尻ですので、これからも愛でます。

 

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