第1253話 洗う・後編

 さて、前回に引き続き、ぐうたら主婦・宇部さんによるドッキドキの洗濯槽クリーニングです。上手に出来るかな?


 この洗濯機君、通称:隠密(前のと比べると無口なので)はですね、『樽洗浄コース』というのがあるんですよ。もちろん一度も使ったことのない機能です。洗濯槽クリーナーの使い方を見てみると、『樽洗浄コース』があるのなら、それをやってくれと書いておりましたので、「すげぇ、10年も前の型なのに、そういうコースがあるんだ!」って感動しつつスイッチオン!


 水がね、もうなみなみと注がれていくわけです。ここ最近の宇部家は毎日お洗濯を回しているのですが、それだけに一回のお洗濯の水の量は少ないです。なのに、今回は最高水位です。すげぇ、どんどん溜まっていくぜ、そんなことを思いつつ、ここからは特に何もすることがありませんので、旦那はごろりと横になり、私はお裁縫です。子ども達はスポンジボブを見ています。ちなみにその時作っていたのは子ども達のランドセルカバーでした。


 そのうち、旦那と娘がお昼寝を開始しました。息子はバリバリ起きています。旦那と娘、私と息子、この組み合わせを宇部家では『同じ顔チーム』と呼んでいます。


 やはり顔が似ていると行動も似て来るのねウフフなどと思いながらお裁縫をしておりますと――、


 あれ、一向に洗浄が始まらないな?


 何せ10年前の洗濯機です。しかも買った後で3回くらい引っ越しもしています。宇部さんが取説をちゃんと保管出来ているわけがありません。とにかく当時の脱衣所に入ることだけを考えて買った洗濯機でしたから、液晶画面とかも全くないやつです。その樽洗浄コースなるものがどれくらいかかるのか全く分からないのです。


 ですが、慌てることはありません。

 文明の利器、スマホがあります。洗濯機のメーカーと型番で検索し、時間がどれくらいかかるか調べれば良いのです。


 早速ぽちぽちと検索してみました。

 まずは型番をちまちま入力するのが面倒だったため、『(メーカー名)洗濯機 樽洗浄 何時間』という三つのワードでやってみました。


 すると、そのメーカーのHP内にあるお客様サポートのページに辿り着きました。よしよし。やはり皆考えるのは同じなんだな。そう思ってメーカー側の回答を読んでみました。


 すると、どうやら機種によって3時間コースと11時間コースがある模様。


 いや! どっちだよ!?


 これがね、3時間コースと5時間コースくらいだったら、まぁどっちでも良いや、って流すところなんですけど、11時間!!

 現在時刻は15時くらいでした。確かお昼ご飯を食べてすぐにスイッチを押したから、13時くらいに開始したとしても、11時間コースだったら終わるのは24時です。


 噂によると、洗浄した後も流れ切らなかった汚れ(何かわかめみたいなやつらしい)が樽に残っていることがあるようで、何回か濯いだ方が良いらしく、そういう作業も考えると、24時は厳しい。


 どうして私はその辺を調べてからやらなかったんだろう、とひとしきり後悔しました。頼みの綱の旦那は可愛いお腹をチラ見せしながら寝ています。おへその中に指突っ込んだら飛び起きるかな、とか考えましたが、その動きでぎっくり腰にとかなったらシャレにならないのでやめました。それくらいの判断力は残っていました。


 こうなったら、やっぱりちゃんと型番で検索して取説を確認するっきゃねぇ。


 そう決意しましたが、どういうわけだか私のスマホちゃんはPDFファイルを開けないのです。どういうわけも何もそのためのアプリを入れていないだけだと思うんですけど。なので、渋々PCを引っ張り出し、検索です。そうこうしているうちに、沈黙を守り切っていた隠密こと洗濯機(2013年製)が、ごうん、と動き出しました。


 何事!?


 そう思いましたが、『樽洗浄コース』を選択しているわけですから、そりゃあ洗浄が始まったに決まっています。落ち着け。


 で、PCで取説を確認しているうちに旦那が目覚めました。一人で起きれて偉いね。目的の『樽洗浄』に関するページを探しながら旦那にこれまでのドラマティックな経緯を話します。ドラマティックと思っているのは私だけです。彼はのほほんと「そうなんだぁ」と頷いています。


 結局、この隠密君の『樽洗浄コース』は三時間ということが発覚し、ワーワーしているうちにあっさり終わりました。完全に私が一人で騒いでいただけでした。ひとり相撲的なね。ひとり相撲秋田場所でしたわ。


 そしてやはり噂通り、洗浄が終わった後の樽にはわかめみたいなのが結構くっ付いていて、それから2回ほど濯ぎました。本当に11時間コースじゃなくて良かったです。


 私(エッセイ職人)にかかればたかだか樽洗浄も2話なのよね。

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