第1089話 マジック

 私自身は正直なところご近所付き合いとかマジ勘弁してくれ、って思っているのですが、賃貸アパートならまだしも、家を買ってしまうとそうもいかないものです。


 とはいえ、私が住んでいるところは、比較的新しい家が多く、まだお子さんの小さい家族や、若いご夫婦が大半だったりするため、昔ながらの濃いご近所付き合いはほぼなくて、何なら町内会に入っていないお宅もあったりします。


 が。


 斜め向かいに住むおばあちゃんがですね、何かどうやらお茶の先生っぽいんですけど、子どもが大好きな方で、そんでウチの子達も基本的に『おばあちゃん』というのが大好きなものですから、顔を合わせればちょっとしたお菓子(個包装のおせんべい)などをもらったり、何かしらのイベントの際にはお茶飲んでって、とお呼ばれしたりします。その『お茶』が、「ちょっと遊びにいらっしゃい。一緒にお菓子でもつまみながらお話しましょうよ」的な意味での『お茶』ではなく、「結構なお点前で(とはいえ全然略式)」系のお茶が出て来てかなりビビったのももう過去のお話。


 さて、冬になりますと、外仕事の旦那はほぼほぼお休みです。その代わり、雪が多い年なんかは除雪系の依頼が入ったりします。そのお仕事も、基本的には舅の会社(っていう表現で良いのかしら)に依頼されるのですが、稀に、旦那ご指名の時もあります。


 舅がご近所付き合いの一環として、高齢者の家の周りを除雪していた(有料)のですが、一昨年、ちょっと身体を壊したということで、その役が旦那に回って来たのです。そんなこんなで色んなお家の除雪をしておりましたのを、どうやらその斜め向かいのおばあちゃんも知ったらしく。何でも、昨年までお願いしていた方が、お亡くなりになったとのことで。


「お金はちゃんと払うので、ウチの周りもお願いしたい」


 もちろん断るような人ではありません。

 近所付き合いですから。


 そういうわけで、除雪をしたその夜に、おばあちゃんがお金を持って我が家にやって来るのです。もういちいち封筒に入れるのもね、みたいなノリで、剥き出しです。


 いつもは旦那が出るんですけど、たまたまその時お風呂でですね。私が先に上がるものですから、頭にタオルは巻いたままでしたけど、とりあえず出られる恰好ではあったので、そのまま応対したわけです。


おばあちゃん「〇〇です、どうも~。――アラッ、お風呂だった?! ごめんなさいねぇ」

宇部「良いです良いです。わざわざすみません」

おばあちゃん「いつもありがとうねぇ。それで明日なんだけど――」


 と、明日はどの辺をお願いしたい、みたいな話をされ、「じゃあ主人に伝えておきますね」と締めようとした時――、


おばあちゃん「奥さん、お肌きれいねー。んまー、シミないわー」

宇部「え? あ、あ――……まぁ、ええ、はい。ありがとうございますー(照)」

おばあちゃん「(化粧品)何使ってるの?」

宇部「に、ニベアです……」

おばあちゃん「ニベア……」


 違うんです。

 厳密には違うんです。

 毎日はと麦とプーアルとドクダミのブレンドティーを飲んでますし、ニベアを塗る前はちふれの化粧水(美白)もつけてるんです。それに、一年中日焼け止めは欠かしたことがないんです。そうやって、一応美白というか、シミ対策に関しては結構頑張ってるんです!


 と、まさかそこまで言うわけにもいかず、咄嗟に出て来たのがニベアだけだった、って話ではあるんですけど。ただね、おばあちゃん、きっと目が悪いんでしょうね。あのね、普通にシミはありますよ? 薄めの黒子かな? って思ってたけど、これ絶対シミなのよ。


 あと普通にあれね、玄関の電気がね、あのオレンジ色のやつっていうかね、何て名前なのか知らないけど、今調べてみたら電球色ってやつですわ、それなんですよ。ウチの脱衣所もメインの灯りがこの電球色のやつなもんだから、それはそれはお肌がきれいに見えるのよ(よく見えるという意味ではなく、粗が目立たないという意味で)。そんで洗面台の電気(普通の白いやつ)点けて落差にがっかりするんだもん。何この電球マジック。

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