第979話 野生の店員

 私に限らず、小売店のパートさんというのはですね、ぶっちゃけ専門知識なんてほぼないと思うんですよ。そうじゃない、私は専門知識もばっちりです! という方、ごめんなさいね。


 まぁ、売り場にずっといて、長く商品に触れている分、ちょっとは詳しかったりもしますし、名前と使い方くらいは知っていても、じゃあそれを実際に使ったことがあるか、というとそんなことはなかったり。


 だってね、よくよく考えてみてくださいって。

 例えば2種類の箱ティッシュを持ったお客様がいるとしてですよ。どっちかが保湿系の高いやつとかじゃなくて、どっちもスタンダードな安いやつだとします。


お客様「これ(A社製品)とこれ(B社製品)、何でこっちの方が高いの?」


 こんなことを聞かれてもですよ。ぶっちゃけ、知らんがな、って話です。メーカーが違えばそりゃあ価格も違いますわ、って。だから「これとこれ、何が違うの?」って聞かれたら、「作ってるメーカーが違うからです」って答えるしかないんですよ。価格を決めてるのはメーカーさんなんでしょうし。


 でもね、お客さんはそれでは納得しないんですよ。だって、それはお客さんもわかる部分だから。何なら「そんなの見たらわかるわよ、馬鹿にしてんの?」って方もいます。お客さんが知りたいのは、「(恐らく)店員にしかわからない、その商品の隠されたウリ」なんですよ。成分がどうとか、そういう話。


 知らんて。


 我々、そのメーカーから派遣されたわけじゃないから。よほどメーカーさんが「ウチのは他社にはない、こういうウリがありますんで、売る時にこっそりアピールよろしく」とか言ってくれないと、店員はわかりませんて。たまに日用品のメーカーさんが来ることもありますけど、新商品の入れ替え作業だけして帰るんですから。


 成分表示とかがある商品なら一応見比べたりもしますけど、何が何%配合とか書かれてもわかりませんって。そっち方面の人間じゃないんだから。


 あと、家電とか電動工具とか農機具なんかもそうですね。使い方を聞いてくるとか、バッテリーはどれだとかくらいならまだ良いんですよ。説明書を一緒に見ながらああだこうだするだけですから。


 問題は他社製品との比較。

 それもほぼほぼ性能が同じのやつ。

 これでまだ馬力が全然違うとか、LEDライトがついてるとか、そういうのがあれば良いんですけど、もうまじでほぼほぼ変わらないのに値段が違ったりするともう!


「これとこれ、ほぼ同じだよね? 何で値段違うの?」


 メーカーが違うからですね! 

 

 それで納得する人もいるんですけどね。大抵の人は、何かジョーク的な切り替えしだとでも思っているのか、「はいはい、そういうのは良いから。それで? 何が違うの?」みたいな反応なんですよね。


 あのね、社員ならともかく、我々はパートのおばちゃんよ? そんな専門知識バリバリだったらこんなところで働いてないでしょうよ。

 

 我々が得意なのはね、〇〇の売り場を案内するとか、品切れの商品を取り寄せるとか、そういうやつなわけ。一応初期研修で自分の担当売り場の基礎知識くらいは学ぶけど、そこから先の知識については各人のやる気なの。

 そんで、自分の担当外のことはほぼほぼ無知なのよ。


 だから、店に売ってるもののことは何でも知ってるだろう、みたいな感じでぐいぐい来られても正直困るわけです。


 それでですよ。

 ごくごく稀にですね、そんな感じでアウアウとあっぷあっぷの接客をしておりますと、


「あーそれはね」


 なんて言って、そこに割り込んでくれる人がいるんですね。もちろん従業員ではありません。カテゴリ的にはお客様です。お客様なんですけど、その道に詳しい方なんでしょうね、素人丸出しのおばちゃん接客に耐えかねて、救いの手を差し伸べてくれるわけです。


 私はそういう人達を『野生の店員』と心の中で呼んでいます。

 大抵男性なんですよね。いまのところ女性の方が助けに来てくれたことはないです。


 私はこの人達のお陰で、蛍光灯に『グロースタータ形(グロー管も必要)』と『ラピッドスタート形(グロー管不要)』というのがあるのを知りましたから。大変ありがたいですね。勉強になりました。


 ただ私、家電担当じゃないからさ。

 次からは家電担当の人が接客してくれよ……。

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