第829話 おのれスポンジ野郎

 小さなお子さんの相手にしたことがある方ならわかると思うんですけど、


「これなぁに?」

「あれなぁに?」


 ってやつ。

 可愛いんですけど、これがなかなか厄介なんですよね。

 名称を教えるだけで満足してくれると思いきや、さらに掘り下げて来たりして、この『あれ何これ何・何で何で攻撃』、彼らの成長にとってとても重要なことだとわかってはいるんですけど、忙しい時なんかはぶっちゃけ面倒臭いのも事実。


 それでですね、まぁもちろんウチの子達はその時期を過ぎたっちゃあ過ぎてはいるんですけど、大きくなったって、子どもというのは好奇心の塊であるからして。


「ママ(パパ)、○○(何かしらの熟語など)ってどういう意味?」

「ママ(パパ)、○○(英単語)ってどういう意味?」


 これですわ。


 いや、まだね、英単語の方が簡単なんですよ。そんなのそのまま日本語にすりゃあ良いんですから。

 問題はね、熟語などを聞いてきた時ですよね。高学年だったら、辞書で調べろ! の一言で済ませるんですけど、さすがにまだ三年生ですからね。ただ、そろそろ辞書を用意してくださいっていうお便りが来た感じからして、おそらくもうじき辞書を使った勉強に入るのかな、とは思うんですけど。

 でも、かといって辞書に書かれた文章を理解出来るかな? という話にもなるわけですよ。


 先日は「ママ、妄想って何?」って聞いてきましてね。もう、ドッキドキですよ。何せちょうど、私の脳内妄想神が無双していた時でしたから。えっ、何、「へー、いまのママがそういう状態なんだー」って、そういうオチになるわけ? なんて。


 それでも答えねばなりませんから。親たるもの、最低の教養は持ち合わせていないとまずいですから。仮になかったとしても、ある振りはしておかないと威厳とかね、そういうのがアレだから。


「ええとね、妄想っていうのは……、あの、頭の中でね、こう、色々想像すること、っていうかね」


 ハイ、教養0――!


 何か、『妄想』っていう単語に疚しさばかり感じてしまって、無駄に濁そうとした結果がコレだよ! お前そんなので小説書いてんじゃねぇぞ!


 それでも息子は満足したらしく、成る程ねー、と引き下がってくれました。ママの最近の妄想神無双については触れて来ませんでした。

 が、しばらくして旦那にも同じことを聞いていたので、納得はしていなかったのでしょう。

 ちなみに、うろ覚えですが、旦那のアンサーはこちらです。


「その人にとって都合の良い想像をすること、かなぁ」


 そ れ だ !


 いや、これが正解かどうかは置いといて。

 もうドキーンですよね。

 何、これ父子共同作戦なの? 結局私の最近のアレを戒める目的だったりするの?!


 エアロバイク漕ぎながら、およそ別の意味で心拍数上げてましたわ。


 で、ですよ。

 とりあえずそれ以上の詮索もなくそこは終わったんですが、スポンジボブを見ていた息子がまた聞いてくるわけですよね。


「パパ、びー、あい、でぃー、いー、てぃー、の英語って、何?」と。


 もうね、ママは役に立たん、と最初からパパをご指名ですわ。ごめんな、馬鹿なママで。


旦那「え? 何? もっかい言って?」

息子「びー、あい、でぃー、いー、てぃー」

旦那「B、I、D、E、T?」


 B I D E T !


 ビデット、ではありません。

 ビデ、ですわ。

 あのシャワートイレのお尻じゃない方を洗う方のやつですわ。


 これには我関せずとバイクを漕ぎ漕ぎしていた私も黙ってはいられません。


宇部「ちょ、ちょっと、ビデじゃん(小声)」

旦那「ビデだな、いや、ちょっと……(小声) ごめーん、パパもわかんなーい」

息子「そっかー」


 ごめんな息子。

 パパもママも本当は知ってる。

 ただ、お前にはまだ早いと思うんだ。

 だってお前まだシャワートイレで尻すら洗ったことないだろ?


 ていうか、スポンジこの野郎、一体何の話なんだよ。勘弁してくれ。これがアメリカのやり方なのかよ。アメリカのちびっこになんてもん見せてやがる。

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