第822話 マッチング成功

 マイファミリーに助けを求めてみたわけですけど、こういう時に限ってなかなか良いネタがないものです。


 そんじゃあ、職場ネタだ、というわけで。


 職場はですね、まぁ色んなものを扱ってるお店なんですけども、ちょっとした観賞魚も売ってるわけです。金魚とかメダカとか、熱帯魚とかね。


 昔はベタという熱帯魚もいたらしいんですよ。私その時いなかったのでわからんのですけど、小さめの瓶に一匹だけ入れる感じで売ってたみたいで、ヒレがブワッってなってるものすごくきれいな魚なんですが、気性が荒い(?)らしく、何匹もまとめて飼う感じじゃないとか何とか。


 そしたら、動物愛護団体とかそういうところから、その販売法は虐待(?)だ、みたいなクレームが来たらしくて、それで販売出来なくなったとか。

 それからですね、例えば入荷の時点でヒレとかが欠損してるやつとか、売れないので可哀想ですけど処分せざるを得なかったんですが(生き物だから返品も出来ない)、それも可哀想だというクレームが来て、死ぬまでそっちで飼育しろ、みたいなことになってですね。


 そんなこんなで、入荷時点で一部のヒレがないエンゼルフィッシュがおりまして。


 当然売れませんから、その子だけ隔離水槽で飼っているんですけど、最近わかったのがですね。


 この子、雌だ。


 何か水槽の底に卵がびっしり沈んでることがあって。

 最初ね、もうざわつきましたよ。だってほら、子どもって雄と雌のあれこれがあって、それで出来るものだっていう先入観があったものですから。


 で、隔離しているとはいってもですね、アクリル板で仕切っているだけだったりもしますし、有孔ボードみたいな感じで穴もあいてるものですから、もうどうにかしてここから……? みたいな話にもなったんですけど、まぁ当然のように孵らない。そんで、気付けばなくなってて、えっ、もしかして我が子を食べた?! ってまたざわついて。


 ちなみに私、その卵、見てなくて。

 話だけ聞いてた感じだったんですよ。

 だけど、2回目の産卵で初めて目撃してですね。


 そこで思い出したわけですよ。


宇部「魚って、確か精子後がけタイプじゃなかったですっけ」

先輩「あっ! そうだ!」

宇部「てことは、いまいるエンゼルの中から雄を一匹この中に入れれば……」

先輩「おお! ……でも、雄、どれ?」

宇部「さぁ」

先輩「……」

宇部「……」


 ひよこ鑑定士でもあるまいし、わかりませんって。

 カブトムシみたいに角がある方が雄、みたいなわかりやすいのあれば良かったんですけどね。グッピーは雄と雌が別々に入って来るんですけど、エンゼルフィッシュは雌雄混合で来るんですよ。


 その翌日――。


宇部「あれ、もう一匹いる! 雄わかったんですか?」

先輩「ううん、わかんなかったから、とりあえず雄かな? っていうのを入れてみた」


 しばらく様子を見ましたが、やはり卵は孵らず。

 やっぱり雌だったのか、それとも雄だったけどお気に召さなかったのか。


 結局その卵は残念ながら消えてたんですが(食べた? それともポンプに吸い上げられた?)、再度産んだ際に別の魚(これ雄っぽくない?)を入れてみたところ、見事マッチングし、孵りました。


 ずっと隔離されて売れ残っていた雌はかなり身体が大きく、新しく投入された雄はその三分の二くらいの大きさなんですけど、アクリル板の向こう側にいる魚が近づいて来る度、懸命に威嚇しておりまして、早速父親として頑張ってるなぁと微笑ましく思うと共に、


 やっぱり尻に敷かれてたりするのかな


 などと思ったりしております。

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