第804話 それは……ママだよね

 週に一日だけ、私は遅番がありまして、その日は帰宅が20時となります。

 そうなりますと当然家族でご飯は食べられませんし、お風呂も一緒に入れません。寂しいのは寂しいのですが、まぁたまには口うるさいママがいない平和な食卓も良いんじゃないかな、と思ったり。


 あとはまぁ、その日は旦那がご飯を用意する感じになるので、子ども達の好きなメニューが出て来る確率が高いわけです。


 カレーとか、シチューとか、うどんとか。

 あと、仕事がめちゃくちゃ忙しかった日なんかはお惣菜天国だったりマックのハッピーセットになったり。ママがいなくても楽しそう。ちくしょう。

 それに、上記のカレーやらシチューやらというのは、娘にとってはお手伝いチャンスでもあるわけです。


 なので、大抵の場合、帰宅しますとお帰りの言葉もそこそこに、


「ママ、今日のカレー誰が作ったと思う?」


 が始まります。


 誰が作ったも何も、どう考えたって旦那パパじゃん?


 が。


 求められているのはそんな当たり前の回答ではありません。


「え~? 誰だろう~? わっかんないなぁ~」


 例え6時間きっちり働いて、疲労困憊であったとしても、親にはやらねばならない時があるのです。いまがその時!


 とはいえこちらもお腹はぺこぺこですし、お風呂にも入りたいですし、出来ることなら子ども達をさっさと部屋に送り届けて旦那とまったりご飯が食べたい(旦那は食べるの待っててくれてる)のです。しかし、これが本日最後の業務とばかりにオスカー女優も顔負けの演技を見せます。魅せます!


「わぁ~っ。今日のカレー、とっても美味しそう~。誰が作ったんだろう~」


 誰が作ったも何も確実に一から十まで旦那が作ったのです。それはわかってます。けれど、娘は満足気にほっぺをぱんぱんに膨らませ、「ん! ん!」と自身を指差すわけです。


「っえ――――?! 娘ちゃんが作ったの――――!?」


 完全に茶番なのですが、ここまでやらないと娘劇場は終わりません。んふんふと鼻息も荒くかなり得意気です。そして、今日も一仕事終えたなと、そんな気持ちで二人を子ども部屋に連れて行くわけです。


 そんな「誰が作ったと思う劇場」ですが、毎回毎回三ツ星シェフばりに美味い美味い言ってたらですね、何かどんどん助長しまして。もともと自己評価がバリバリに高い娘ではあるんですけど、もうここまで来たか、っていうのがあったわけですね。


 遅番の日ですよ。

 その日もやっぱりカレーでして。ていうか、私がリクエストしたんですけどね。ほら、カレーだと翌朝も楽ですしね。美味しいし楽だし、もうほんと最高のメニューなんですよ。


 それでですよ。

 まぁ当たり前のように聞いてきますわ。


「ママ、今日のカレー誰が作ったと思う?」


 へいへい、君だろ。もうわかってんよ。早く食わせろ。


 そんな冷めた返答をするわけには参りません。どんなに疲れていても。どんなに疲れていても!


「え~? わかんなぁ~い」


 すると娘は言うわけです。


「じゃあ、ヒントね」


 おっ、新しい切り口。

 どんなヒントが飛び出しますやら?!


「あのね、この家でいっちばんお料理がじょうずな人が作りました!」


 ………………

 …………

 ……?


宇部「……えっと、それは、ママだよね……? さすがに」

旦那「そうだな。この家で一番上手いのはママだな」

宇部「……(同意してくれて良かったー)」


 娘、そっか! みたいな顔してましたけど。

 いや、お前もしかしてこの家で一番料理が上手いとガチで思ってたの?!


 いやいやアナタ、お野菜切った! とか言ってるけど、厳密には野菜を切っているパパの腕に手を添えてただけだからね? せめてパパと一緒に包丁の柄を握ったとかならまだしもね? 手を添えてただけだから! よくそれで一番料理が上手とか言えたなオイ!


 まさかここまで自己評価が高いとは思いませんでしたよ。もうびっくり。謙虚さ0。マジで誰に似たのかしら。

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