第770話 それがあるばっかりに

 ご飯食べてて常々思うことなんですけど。


 私、絶対姫とかにはなれないな、って。


 まぁ、いきなり何言ってんだって話なんですけどね。落ち着いてください、皆さん。宇部さんはいつだっていきなり何言ってんだ、って話しかしてないじゃないですか。いまに始まったことじゃありませんって。大丈夫ですから。


 違うんですよ、食べ方が特別に汚いとかそういうんじゃないんですって。たぶん。食べ方は人並みだと思いますよ。箸だってちゃんと持てますし。ケンタッキーは手でつかんでがぶっと齧りつきますけど、あれはそれが正式なやつでしょ? 知りませんけど。


 まぁ、姫とかまでいかなくてもですよ、ドレスコードがあるようなところで常時食事をするような令嬢とかでも良いんですけど、絶対無理だな、って思うんですよ。


 いやいや、好き嫌いが多いからとかじゃなくてですね。


 あのね、私、ものを食べると、高確率で――というか、もうほぼほぼ100%鼻水が出る人なんですよ。

 ほら、寒い日にラーメン食べると出るでしょ? あれが年がら年中、何を食べても出ちゃうタイプなんです。どういうことなのマイノーズ?!


 だからもし仮に私がどこぞの国のお姫様だったらですよ。

 お食事の度に「失礼」とかいって、ずびびびー、ですよ。そんなね、ちーん、とか生易しいやつじゃないんですって。何ならこの『ずびびびー』すらちょっと可愛く書きましたから。本当のところは『ビーッ! ブーッ!!』みたいなやつですから。10tトラックみたいな音ですから。10tトラックみたいな音って何だよ。


 確実に逃す、婚期。


 鼻をかむ音で運命の王子様的なやつも去りますわ。


 かといってですよ。

 毎回毎回食後に数秒席を立つのもなかなか謎ですよ。そんなところでミステリアス要素出しちゃうんですよ。松清姫は食後必ず席をお立ちになる……一体何をなさっているのか……、って推理大会始まるっつぅの。


 しかも5分10分とかじゃないですから、何せ鼻をかんでるだけですからね。ほんと数秒なんですよ。


 もうこれ、おなら疑惑が浮上しますよね。


 まぁギリギリその場でやっちゃわないだけレディとしてはアリかもしれませんけど、それを匂わせてしまう時点でアウトな気がするわけです。おならだけにね、匂わせる、ってね。やかましいわ。そんでおならじゃねぇっつぅの。


 そんで、勇気ある者(別名・命知らず)がこっそり私の後をつけるわけですよ。で、聞いてしまうんですよね。例の「ビーッ! ブーッ!」を。


 はい、確定。

 これ絶対おならだわって。

 

 もうね、確信持っちゃう。


 おならとは音質が違うんじゃない? って思うかもしれませんけど、ほら、先入観ていうかね? もうおならだと思い込んでるから。思い込んでるっていう下地があるから。だからもうそれに類する音が聞こえてきたらもうおならなんですよ。


 しかも私、すっきりした顔して戻ってくるから。


 松清姫、毎回食後におならしてるんだー、ってね。社交界でね、噂がわーって広がるわけですよ。


 確実に逃す、婚期。


 もうね、食後に鼻水が出るっていうこの体質があるだけでかなりのハンデなんですよ。身分がアレだと。ただ幸いなことにですね、私は平民も平民、ド平民なものですから、こうして食後にお鼻をずびずびかんでもどうにかなってますけど。


 だからもし私が異世界とかに転生するなどして悪役令嬢やら姫的なキャラになってしまったらですよ、別にチートスキルはなくても良いから、どうにかこの体質だけでも免除してもらえないかなって思ってます。


 爽やかな朝になんて話してんだ。

 

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