第743話 ひな祭りですね

 といっても、これといって何もしない宇部家です。娘がいるのに、何ならひな人形もありません。


 というのも、旦那の実家にあるからです。


 いや、違うんですよ。

 旦那は弟さんと二人兄弟なので、普通はないはずなんですよ。実は妹やお姉さんがいて――みたいなのもないんですよ。 


 お姑さんがね、欲しくて買っちゃったんですよ。

 えっ、あれって大人になってからも欲しいとかそういうのあるものなんだ! って私なんかは驚いたんですけど、旦那も驚いてましたね。いまさら?! って。


 お姑さん、女の子が欲しかったらしいんですよ。でも立て続けに男の子生まれちゃいましたからね、もう良いか、みたいな感じで諦めたらしくて。前にもどこかで書いたんですが、旦那の方って、もうとにかく男の子ばっかり生まれる家系なんですよ。女の子がレア中のレア。ウチの方は程よく女が生まれるというか、私の母方の方は割と女率が高いかな? みたいな感じで。


 そんなこんなで『割と男系旦那ほんのり女系宇部』の宇部家のところにはうまいこと娘が誕生したわけでございます。そりゃあ女の子フィーバーになって甘やかされるっちゅー話ですよ。


 となりますと、そのひな人形、「息子夫婦のところに女の子も生まれたことだし、私も欲しかったから買っちゃえ」みたいなノリかな? って思うじゃないですか。いいえ、これはまだ娘が生まれる前からありましたから。


 だからもう、純粋にお姑さんはおひな様が欲しかったようでして。八段飾りとかじゃなくてガラスケースのやつなんですけどね、お舅さんには「安かったから」と言って買ったそうです。その言葉で納得するお舅さんもすごいなって思いますけど、その『安かった』部分を『5千円』と言い切ったお姑さんもすげぇな、って。完全に訳ありの価格じゃないですか。もちろん実際には0がもう一つ多かったみたいですけど。


 というわけで、身近におひな様あるからいっかー、って感じで宇部家にはひな人形がないのです。行き遅れたらごめんな、娘。


 しかし、おひな様って、欲しかったですかね。

 私は次女なので、実家にあるのは姉のおひな様なんですけど、自分のおひな様が欲しかったか、というと全然なんですよね。出すのもしまうのも面倒でしたし、飾ってる場所が仏壇の部屋(クソ寒い)ということもあって、飾っても特に見に行くこともなかったですしね。


 そもそもひな祭り自体、何をすれば良いのかもわからないんですよね。とりあえず、何か美味しいものを作っておけばいいのかな、みたいな。子どもの日とか、七夕もそんな感じなんですよ。クリスマスだったらね? 何かもうやることがある意味明確っていうか、ツリー飾ってケーキ用意して、そんでチキン食う、みたいな。それにほら、サンタクロースが来てプレゼントを――みたいなドッキリサプライズもあるじゃないですか。


 そういうパンチ効いたやつがないんですよ。


 おひな様を飾ると夜中に女雛と男雛が枕元にやってきてプレゼントを――とか完全にホラーですし、子どもの日にしたって夜中に鎧兜がやってきたらそれ完全にそのまま首を刎ねられるパターンっていうか。いずれにしてもホラー展開ですよ。


 なんでしょうね、夜中に来るのが太った白髭のおっさんだったら何かほんわかするのに、動く人形や鎧兜だと一気にドロッとしたホラーテイストになるの。


 とりあえず、そんなトラウマ物のサプライズはいらないので、何か適当に美味しいもの作ります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る