第558話 異世界の言葉
まだまだ流行ってるじゃないですか、異世界。皆さんどんだけ好きなのよ、ってね。まぁ私も嫌いじゃないです。何せ色々こちらの都合の良いように書けますからね(コラッ
でも、書き手側の異世界の醍醐味ってそこだと思うんですよ。ストーリー上、作者の都合の良い世界に出来るっていう。
そして登場人物の方ではですね、周りはいまの自分のことなんか知らないわけですから、あの、転校生の「誰も俺のことを知らない土地で一からスタートだ!」ですよね。誰にも知られていないにもほどがあるわけです。
だからもしかしたらスーパーコミュ障おばさんである私が、そんな自分とおさらば出来るのは異世界なのかもしれません。見知らぬ土地で生活基盤が0の状態から生きていかないといけないってなったら、もうコミュ障がどうとか言ってられませんからね。これで言葉が通じないとかなったらもう即死ですよ。
というわけでですよ。まぁそこまで極端じゃないにしても、異動などで見知らぬ土地で周りに知り合いがほぼ0の状態で生活スタートっていうのは、ある意味プチ異世界ですよね。下手したら言葉がまるで通じなかったりしますからね。巷の異世界よりも不親切かもしれません。エルフとかいませんしね、エルフ並のご長寿さんはいるかもしれませんけど。あとほら、ダンジョンはありませんけど、それに類似した駅はあるみたいですし?
というわけで、プチ異世界(at東北)生活もかれこれ15年くらいなわけです。そのうち青森、盛岡、仙台が各1年ですから秋田が12年ですかね。これが異世界小説なら、12年生活するって結構な長寿作品ですよ。魔王との戦いがどうとかのヒリヒリした感じじゃなくてスローライフ系でしょうね。
『オラ異世界さ嫁ぐだ! ~テレビもねぇ、ラジオもねぇ、あるのは剣と魔法だけ!~』
とかね、そういう感じの。いや、既にありそうですね。あるんじゃないでしょうか。知らんけど。
とまぁ、12年も住んでおりますと、だいたいその土地の言葉をどうにか覚える感じになるわけですよ。さすがにね、リスニング力もだいぶ養われます。テレビとかでね、あるじゃないですか、東北当たりのおばあちゃんのインタビューとかでテロップが『〇▼※×★~?』みたいな。あれとかもなんとなーくわかったりします。
もうね、ちょっと得意気ですよね。気分は外国人へのインタビュー映像で通訳の人が訳す前に「あーはいはい、そういうことね」ってわかっちゃう感じといいますか。「へぇー、あの通訳さんはそうやって訳すのね。ま、それでも良いけどちょっとニュアンスがねぇ」みたいな、えっらそうにね。
そんな感じで天狗になりまくっていたらですね、その鼻をぽっきりと折られる事件が起こったんですね。
「店員さん、『がちゃぴんこ』どこかしら」
!!?
何て?
ガチャピン? ガチャピンがなんだって?
ああ、お客さんが何かこう……トングをカチカチやるようなジェスチャーしてる!
も、もしかしてホチキスのこと!?
「店員さん、『かちゃくりこ』どこかしら」
!!?
何て?
片栗粉? 片栗粉がなんだって?
ああ、お客さんが何かこう……手を熊手のようにしてガリガリ何かを集めるようなジェスチャーしてる!
も、もしかしてレーキのこと!?
そんで結局『がちゃぴんこ』はホチキスでしたし、『かちゃくりこ』はレーキだったんですけど。いや、どっちも長いって。ホチキスとレーキの方が短いじゃん! 何でどっちもカチャカチャしてて『こ』で終わるのよ! 秋田県民、『こ』大好きだな!
※秋田では飴のことを『飴っこ』、お茶のことを『お茶っこ』、お漬物のことを『がっこ』と言います。
まだまだだな、ってね。そう思いましたよね。たかだか12年住んだくらいで良い気になってんじゃねぇぞ、ってね。
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