第513話 グッドデザイン

 あまりにも兄さんが凄い作品を作るもんですから、娘ちゃんの方にも焦りがあったんじゃないかな、って思うんですよね。


「だめだ、わたしにはまだそこまでのスキルはない。何かすごいものを作ってパパやママをアッと言わせたいのに……!!」


 みたいなソワソワ感が見えるわけです。

 

 兄さんの真似をしても、同じように作れないし、そもそもどうやって作っているのかわからない。とりあえず「にいに、わたしにも作って!」と作らせてみたものの、「あれ、こういうことじゃないな?」と気付いたのか、せっかく作ってもらったやつもその辺に放置です。


 そこでピンと来たんでしょうね。


「わたしには絵があるわ!」と。


 まぁよくよく考えたら絵にしても兄さんの方が上手いんですけど、お姫様とかそういう感じのは描きませんから。こっちの分野なら勝てる! みたいなのがあったのでしょう。


「ママ、わたし、ママの絵を描いてあげる!」


 出ました、予告ホームランです。

 基本的に宇部家は子ども達の作品の判定が激甘ですから、もう約束されたホームランなのです。


 ありがとう、楽しみにしてるわね、と返しますと、


「ママ、ちゃんとポーズ! これ!(顎の下で指を組むやつ)ちゃんとやって! 動かないでね!」

「へい……」


 乙女チックルネッサンスなポーズで固まること数分、とうとう娘画伯によるママの似顔絵が完成しました。


 が。


「……娘ちゃん、ママ、眼鏡かけてないけど?」


 私のトレードマークともいえる黒縁眼鏡がなかったのです。お前は私の何を見て描いたんだい?


「いいデザインの方にしたのっ☆」


 ……ほう?


 ということは、眼鏡はバッドデザインということに?


「成る程ねー、グッドデザインよ娘ちゃん」


 顔の一部である眼鏡を否定された悲しさを胸に秘め、とりあえず褒めます。もしかしたら数年後、何かしらの事情があってコンタクトになるのかもしれませんし。そうなると娘は未来の私の姿を見ているのかもしれません。


 さて、それから数日後、今度は結婚式の時のパパとママの絵を描いてくれるという大サービスをしてくれる、ということになりまして。


 娘ちゃん、パパをイケメンに描くんだと大張り切りです。で、そのパパ(イケメン予定)に聞くわけですよ。


「パパ、イケメンって何やってるの?」


 えっ? 


「イケメンっていつも何してるの?」


 イケメンっていつも何してるの?


 そんなの知りませんよ! だって私達、イケメンじゃないからね?


 我々は考えます。

 イケメンっていつも何をやっているんだろう、と。


「月夜に窓にもたれて憂えてるとか?」と私。

 完全に一昔前の少女漫画ですよ。意外と私って少女漫画的な思考なのかもしれません。その上、古い。


「いや、壁ドンでしょ」と旦那。

 旦那の方が昨今のイケメン事情に詳しいのです。


 成る程壁ドンだな。いや、壁ドンがアリなら顎クイなんかもあるでしょ、と議論を交わしておりますと、その議題を投げかけた本人がですね、「違うでしょ」と言うわけです。


「イケメンはねぇー」


 何だ何だ、お前、齢4歳(来月5歳)にしてイケメンの普段の行動をもう知り尽くしているの?! 恐ろしい子!


 我々は固唾をのんでその言葉の続きを待ちます。ごくり。


「髪の毛が立ってるに決まってるデショ!」


 えっ?


 髪の毛?


 いつも何してるかって話じゃなかった?

 いつも髪が立ってるってだけ? それがイケメン?


 だとしたら、お前の大好きな立花先輩(忍たま乱太郎のキャラ)の髪の毛立ってねぇけど!?


 そして、出来上がった我々の絵ですが。


 ええ、そりゃあもうパパの髪の毛は立ってましたわ。Xジャパンもかくや、という立ちっぷりでしたわ。まごう方なきイケメンに仕上がってましたわ。グッドデザイン。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る