第475話 息子イングリッシュ

 よく言うじゃないですか、日本語は難しい言語だ、とかって。

 ひらがなカタカナ漢字って三種類ありますしね、文法的な部分もね。まぁ難しいと思いますよ確かに。


 でも、四捨五入すると約40年、いや、この場合は乳児期間を引いた方が正確でしょうから、そんじゃ少なく見積もって30年にしときますけど、とにかくまぁずーっと日本に住んでますんでね、一応日本語に関してはバリバリのネイティブなわけですよ。しかもね、一部の北海道弁と一部の東北弁もイケるわけです。これアレかな? トリリンガルってやつなのかな? そんなわけないですけど。


 とまぁ、年齢イコール日本語に触れた期間であるわけなんですけど、言語といえばですよ。他にもそこそこ慣れ親しんだやつがありますよね。


 英語ね。

 こっちはもう『勉強』ですから。中高と学んでますから。普通ですね、だいたいのものって6年真面目に取り組めばマスターしますよ。なのにこれが不思議なもので、からっきしなわけです。

 いや多少はね? 教科書の英文を訳すとか字幕の映画で聞き取れたりとか(ただし「ハロー」とか「ヘルプ」程度)はしますよ?

 でも、しゃべれないわけです。


 何かちょっと恥ずかしい、みたいなのもあるわけです。授業でちょっとそれっぽく発音したらからかわれちゃったりするわけですよ。私のクラスだけなのか、それともこういうのって全国区なのかわかりませんけど。とにかく周りがTHE日本人しかいない地域だったもので、英語が全然身近じゃなかったというのもあるかもしれません。


 けれどもいまの子は昔よりもよっぽどグローバルなわけですよ。小学校に外国人の先生もいたりしますし、身近にものすごく英語が溢れてるんですよね。その上、まだ我が子達は小さいので、それっぽい発音をすることにもあんまり抵抗がないのもあるかもしれません。


 2人してEテレの『えいごであそぼ』を見て、何か適当な言葉をものすごく英語っぽくしゃべって遊んでたりするわけです。


 そんなある晩のことです。

 息子はさっさとご飯を食べ居間で1人本を読んでいるのかお絵描きをしているのか、とにかく大人しくしておりました。我々は娘がまだ食べているので、そこから多少離れたダイニングで、娘を見張りつつ(すぐ遊ぶので)、片付けなどをしていたわけです。


 すると、息子がこちらに背中を向けたまま言うわけですね。


「パパー、狼の英語はー、ウォーッフ!」


 いや、全然『ウルフ』って書きゃあ良かったんですけど、一応聞こえた通りに記してみました。


「そうそう、合ってる合ってるー」


 なんつってね、すごいじゃん、あいつ、狼の英語とか知ってんだー、ってね。夫婦で笑ってたわけですよ。Eテレで見たのかな、なんてね。そしたらですね、


「クモの英語はー、スッパイダァー!」

「カエルの英語はー、フローッグ!」

「象の英語はー、ィエーレッファーン!」


 もうね、その発音にね、思わず頬も緩むってなもんですよ。全部舌を巻いてるんですよ。とにかく英語は舌を巻いて発音するんだと思ってるんでしょうね。いやぁ、さすがだな、と思ってたんですが。


「コガネムシの英語はー、スカルァベ!」


 この辺りからおかしいな、と思ったわけです。

 えっ、Eテレでそんなピンポイントの昆虫名やるの?


「カタツムリの英語はー、ッスネーイゥ!」

「ミミズの英語はー、ゥワーム!」


 そろそろおかしいぞ、と思い始め、旦那が息子のところへ行ったわけです。

 娘の食事が終わるまではテレビもつけておりませんので、そういう番組がやってるという可能性もありませんし、旦那のスマホを勝手に使うわけもありませんし、そして何より、ウチにそういう感じの英語の本なんてありませんし。


「息子、一体何を見てるんだい?」

 

 そう言いながら、覗き込むと――、


 ライダーの怪人図鑑(平成編)!


 仮面ライダー555ファイズのページなのでした。

 ほら、怪人って、いまは『クモ男』とかじゃないんですよ。英語なんですよ。


 彼は図鑑の、


『ウルフオルフェノク 狼型おおかみがたのオルフェノクで~』という部分を読んでいたというわけなのでした。


 そういや自分も最初はそうやって英語を覚えたよなぁ、としみじみ。


 いや、そこで『ウルフ=狼』って読み取れるのすごくない!? もうほんと天才かよ、とついつい我が子には甘くなってしまう馬鹿親です。


 とりあえずこの調子で楽しく学んでくれ。


 ただ息子よ、車の英語はドライブじゃねぇぞ。おのれ仮面ライダードライブ。

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