第398話 夫婦間の『アレ』

 違います。エロしい話じゃなくて。


 いや、よく言うじゃないですか、夫婦って『アレ』で伝わる、みたいな。

 これがですね、私が言う『アレ』はすぐ伝わるのに、旦那が言う『アレ』がさっぱりわからない、というのがあるのです。


旦那「今日の夕飯なんだけどさ、こないだ鶏ムネ肉が安かったからさぁ……」

宇部「あっ、私『アレ』食べたい!」


 こんな会話があるわけです。

 ちなみにこの場合の『アレ』なんですけど、ただ単純にメニューが出てこなかっただけです。何かこう『アレ』で通じちゃう夫婦感を出したくて言ったわけじゃないです。もうだいたい指示語しか出てこないんだ、私は。

 ちなみにこの『アレ』は、マジックソルトの何か良い感じのやつを、生の鶏肉を適当に切って、それを振りかけて焼くだけのやつです。


旦那「あぁはいはい、あのマジックソルトのやつね」

宇部「何でわかった!!」


 っていう。

 確かにめちゃくちゃ美味しかったので、我が家のレギュラーメニューに加えよう、っていう話を数日前にしていたところでした。そんなバックボーンはありましたけれども、鶏ムネ肉ですよ? 他にも色々あるじゃないですか。さっぱりと甘酢で炒めるとか、煮物に入れるとか、カラッと揚げても良いわけですよ。なのに、それなのに、わかってしまうわけです。これは悔しい。


 また、こんな日もありました。


旦那「今日の夕飯なんだけどさ、キャベツがたくさんあるからさぁ……」

宇部「ちょっと待って。私、『アレ』が食べたい。ちょっと当ててみて」


 リベンジですよ。

 そう毎回毎回『アレ』を当てられてたまるかってんだ。

 どうだ当ててみろ。キャベツだぞ? 野菜炒めに、さっぱりサラダ、まだまだ寒いしポトフに入れても良い。選択肢は無限大のはず!


旦那「わかった、お好み焼きね。粉、あったかなぁ」

宇部「何でわかるのよおおおおおおおお!!!!」


 もうね、完敗なわけです。

 何でわかるのよ。私ってそんなに底が浅いわけ? まぁ、浅いですけど(水深2センチ)。


旦那「じゃあさ、逆に当ててみてよ」

宇部「?!」

旦那「お好み焼きも良いんだけど、俺、『アレ』に挑戦してみたいって思っててさぁ(旦那が夕飯を作ってくれる)」

宇部「ほほう、任せろ」


 もうね、ちょちょいっと当ててみせたいわけです。名誉挽回ですよ。ここでいっちょ妻としてランクアップしたいわけです。ただの『妻』から『良き妻』へ!!


宇部「わかった! はいっ!(挙手制)」

旦那「はい、どうぞ」

宇部「無限キャベツ!」

旦那「ブブー、不正解」


 早速違ったわけです。『良き妻』への道は険しい。


宇部「山盛り千切りキャベツ?」

旦那「ブブー、違います」


 もう普通の『妻』すらも怪しくなってきました。


旦那「ヒント、キャベツはまるまる一玉あります」


 これは重大ヒントですよ。大量のキャベツがある、ということは――!

 ピコーン、これだ!!!


宇部「コールスロー!!」

旦那「ロールキャベツだよ」


 これは確実に『ダメ妻』ですよ。旦那の『アレ』すらもわからない『ダメ妻』ですわ。びっくりするほど当たらなかった、っていうね。


 こんな私でもね、まぁ、何とか『妻』の座をはく奪されずに生きてますんでね、もうほんとそれだけで奇跡みたいなもんですよ。


 

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