第331話 大勢に聞いてもらったこと

 昔から文章を書くのは好きだったんですよ。

 読書感想文とか。


 小学生の頃、作文の授業とかあった(何かの行事の感想文を書くとか)わけですけど、あれって何かたくさん書くと「すげー」って思われるというか。もちろん隣の子のなんてまじまじと読みませんからね、内容で「すげーこと書いてる!」よりかは「すげーいっぱい書いてる!」方が子どもとしてはわかりやすいわけで。


 なので、もう私は昔から私だったというか、とにかく色んなことをたくさん書いて枚数を稼ぎまくってたわけです。すると周りも思うわけですよ「宇部さんは作文が得意」みたいに。で、褒められると嬉しくて頑張る子だったので、書くのがさらに好きになって――、という。


 ただ、量を書けるだけで内容が伴っていないもんですから、何かしらの賞に選ばれるなんてことはありませんでした。クラスの代表にはなれても、そこまで、というか。


 さて、そんな学生時代を送っていたある日のこと。

 

 高校3年生でしたかね、ほら、受験で小論文ってあるじゃないですか。それの対策が始まってですね、詳しいことは一切覚えてないんですけど、どこかの業者さんの小論文対策テスト(?)みたいなのを毎月やってたんです、学校で。希望者のみだったかな? それの第1回で、確かクラスで私だけ可をとったんですよ。まぁ、たまたまだったんでしょうね、翌月以降は全然駄目でしたから。


 しかしタイミングが悪かったと言いますか、ちょうどそれが文化祭前だったんですね。ウチの高校、文化祭の時に、弁論大会みたいなのがあったんですよ。書いた人が読まなくても良いやつで、クラスの誰かが書いて、クラスの誰かが読んでもOK、みたいな。


「宇部さん、こないだの小論文で可をとってたからさ、お願い」


 そんなことになっちまったわけです。

 高校3年生の私といえば、仲の良かった友人が軒並み他クラスになってしまい、それなりに友人はいるけれども……と言いますか、海外ドラマとかでよく見るカースト上位のアメフト部やその彼女達からたぶんちょっと見下されてる(被害妄想)感じだったのです。

 なので、もうガチで「ひえっ!? 拙者でござるか?!」みたいな反応になりました。さすがに「拙者」は嘘ですけど。


 当然NOなんて言えるわけもなく。


 書きましたよね。

 依頼されちゃあ書くしかない。しかも、面白いやつを書かないといけないのです。クラスの期待を背負わされちゃってるわけです。大丈夫、俺が読むから、と委員長(元運動部のイケイケタイプ)が言うので、本当に書くだけ。

 

 で、ここでどっかんどっかんウケた経験がいまの私の原点で――、となればすごく良い話なんですけど、これがまーったくウケませんでした。もちろん自分の中では渾身のネタだったんですけど。つってももう忘れましたが。ただ、『ニューヨークの株式市場でも』って一文を入れたことは覚えてます。私の中のイチオシ爆笑ポイントだったんですが、まーったく引っ掛かりませんでしたね。

 読み手の彼(委員長)も、俺いま盛大に滑ってんな、みたいな顔して読んでましたからね。


 その時に自分の中で一番面白かったのが、おもちゃ屋さんの息子の話で、父親と一緒におもちゃ屋さんの卸売り場(?)みたいなところに買い付けに行ったみたいな内容でした。自分の知らない世界の話ってだけでももちろん面白いんですけど、彼の読み方(彼は自分で書いて自分で読んでた)も淡々としててすごくツボだったんですよね。彼が一位だったのかは覚えてませんが、周りも「何でかこいつの話面白いな」という評価でした。


 なんでしょうね、笑わせてやるぞ笑わせてやるぞって意気込んでも駄目なんだなってその時に思ったんですよね。面白い話は淡々と読んでも面白いんですよ。あれが才能ってやつだったんだな、と。


 まぁ、ちょいちょいそんなことを思い出しているわけですが、あの時よりは面白い話を書けているはずと思いつつ、今日もカクヨムる私です。

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