第261話 頑張りすぎは良くない

 いまは頑張ってませんよ? 先に言っときます。


 いや、数年前に旦那の家でね、ご飯食べた時のお話なんですよ。別に新婚ホヤホヤ時代とかでもなかったんですけど、結婚してしばらくは他県にいたものですから、いまみたいなスープがほぼ冷めない距離でのお付き合いじゃなかったんですよね。


 そんな状態で迎えた里帰り出産。

 

 北海道の実家に帰ってしまったら、もう首がすわるまではおっかなくて無理とか、首がすわったらすわったで今度は卒乳まで無理とか、そんな感じになりそうでしたし、旦那も何かあった時にすぐ駆けつけられませんから。


 そんなわけで旦那の実家に数ヶ月居候させていただいた時のことです。旦那はその時青森でした。


 幸運にも舅姑はめっちゃ優しい方々なので、いびりとかそんなのとも無縁だったわけなんですけど、それでもやはり緊張するわけです。一応長男の嫁というのもありますし、礼儀とか作法とかそういうのちゃんとしないと! と、勝手に身構えておりまして。


 何が緊張するって、食事ですよ。


 私、結構偏食。


 それでもね、アレルギーというアレルギーはないもんですから、生魚もただ嫌いというだけで、吐くかもしれないけど別に食べられないほどじゃないわけです。

 だからね、もう頑張って全部食べるようにしてきたわけです。それにお姑さんの世代というのは、妊婦=2人分食べましょう、が当たり前でしたし。結構な量が出てきても何とか食べました。


 で。


 秋刀魚でした。

 一匹まるまる。


 私の実家ではですね、一人一匹ではなくて、父親以外は半分こで、頭側か尻尾側か、って感じでした。なので、私は食べやすい尻尾側をもらって食べてまして。だけれども、旦那の実家では一匹まるまるwith大根おろしタイプだったのです。テレビとかで見るやつだ!!


 切り身ならまだしも、一匹まるまる。


 もうね、頭の中ではテレビで見た『芸能人格付けチェック』が再放送ですよ。魚の食べ方のところだけね。


 でもこの私が全部覚えているわけないんですよ。ただ辛うじて、表側を食べた後ひっくり返して裏面を食べてはならないってことだけは覚えていました。


 こうなりますと、三角食べとかしてる場合じゃありませんから。一極集中、ターゲットは秋刀魚のみ!


 順調に表面を食します。まだまだ余裕があります。大根おろしを乗せるくらいの余裕があります。

 さて、テレビで見たように慎重に骨を外し……。


 ここで問題が立ちはだかりました。何かあの苦い部分です。小骨もありますし、ちょっとこれどうすんの。案の定、そこの部分の食べ方なんてすっかり抜けているわけです。でも最終的には頭と尻尾がついてる大きな骨くらいしか残ってなかったような気がするわけです。


 じゃあ、どうするかって?


 食うのさ! 全部な!!


 口の中に全部ぶち込みましたわ。苦いやつも小骨も。うおおおおお、って根性で噛みましたわ。まだご飯が残っていることをちらっと確認して、ごくん、と飲みましたわ。


「アラッー! お父さん見て! 松清さん、魚の食べ方上手!!」

「おお、ほんとだ!」

「え、えへへ……」


 結局、後に魚はそこまで好きじゃない、くらいのカミングアウトをしました(ただし生魚は完全にアウト)。頑張りすぎは良くないな、って。


 それ以来ね、松清さんは魚があんまり好きじゃないのに食べ方は上手、という謎の人物が出来上がりましたわ。


 ちなみに旦那実家で寿司が出ると私の前には納豆巻きがどーんって置かれますけど、それは断じて嫁いびりではないです。むしろ望むところ。

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