第154話 可愛いは正義

 女の子ってね、可愛いものが大好きじゃないですか。


 ってね、さもさも自分がその『女の子』であるかのように書きましたけどね。いやぁ残念ながらこちとらその『女の子』の成体でしてね。一応『女の子』を潜り抜けてきたという実績といいますか、経験を積んできているわけですよね。確固たる事実がここにあるわけです。残念でしたね。世の中の『おばさん』は皆『女の子』を通過しているのだ。ぐふふふ。


 さてそんな『元・女の子』の私ですが、やはり可愛いものは大好き。まぁ『可愛いもの』は女の子だけのものじゃありませんけどね? 息子もいまだにパンダのぬいぐるみとか抱っこして寝てたりしますし。何それセットで可愛すぎる。世界可愛遺産登録待ったなし。


 そして、現役の『女の子』である娘もそりゃフルスロットルで可愛いもの好きなわけです。幼児は常にリビドー解放してますからね、可愛いものを発見した時の興奮がすごいのです。コップ一杯分くらいならお湯が沸かせるんじゃないかな? ってくらい。「かぁーわいいい―――ぃよいしょぉぉぉぉぉ――――!!!」みたいな。

 いまその叫び必要でした?! っていうね。


 ふわふわもふもふしたもの、しかもそれの色がピンクだったりしたら、それはもう何かしらの妖精みたいなポジションを与えられたりして。ただの毛玉のキーホルダーなのにね。動物モチーフですらない。いや、ごめん、でもわかる。わかりすぎる。ママも昔、何かこうピンクで丸いものキャラのこと、すーぐ可愛い可愛い言ってた。何だろ、もういっそピンクのゴムボールでも可愛いとか思っちゃうんじゃないのかなって、我ながら心配になったもの。


 それから、透明でキラキラしたやつ。それも大好きなようです。

 いずれどこぞの石油王に見初められる予定ですので、やはりいまのうちから宝石とかそういうキラキラしたものに慣れておかなくてはなりませんから。ゲーセンにあるお菓子のクレーンゲーム(?)の中に敷き詰められてるあの透明のやつですよ。あれとかダイヤモンドだと思ってますから。

 息子辺りは「ダイヤモンド、ママにあげるね」ってくれますけど、娘は手放しませんね。それでこそ女。


 でもそのダイヤモンド、100均でよく見るけどさ、それ、トイレのタンクのあの水が流れるところに飾ったりするやつだよね? うん、知らないよね、そんなことね。良いの良いの。別にあれトイレのあそこ専用ってわけでもないしさ。大丈夫大丈夫、ママの宝物入れの中にちゃーんとしまってあります。これ、お嫁さんが来たら「私の宝物、あなたにあげるわね」って渡した方が良いのかな。よくあるじゃないですか、姑さんから、貴金属の類をいただく、っていう。私もね、いただきましたとも。それはもちろん別の宝物入れにしまっていますけど。


 ただ、息子の未来の嫁よ、息子が私に初めてプレゼントしてくれた『トンボの指輪(オールプラスチック)』だけは渡さんぞ。


 さてさて、娘はといいますと、ビーズ遊びをすればですね、ママのためにってネックレスをね、作ってくれたりするわけです。なんて優しい子。もうね、ママの涙腺がえらいことになってる。


「ママ、つけてあげるぅ~。はい、あたまだしてぇ~」


 なんて言われたらね、もう、一も二もなく頭をね、差し出しちゃうわけです。実は目の前にいるのが娘じゃなくて介錯人だとしたら、もうすっぱりと首を落とされるんだろうなーとか一瞬よぎっちゃいましたけど、一体何を考えているんでしょうね。私の想像力、いまだに無限大なわけです。どっからどう見ても娘なんですけどね。もうほっぺむちむちでお馴染みの我が家のアイドル娘ちゃんです。


 で、そのネックレスをね、じゃ、さっそくね、つけてもらおうかしらうふふって。


 

 ……入らねぇ。


 いや、無理無理無理無理。

 それね、ママが安室奈美恵ちゃんくらいの頭の大きさでもね、確実に無理なやつだから。

 そもそもね、ママ、ブレスレットくらいの長さ分しかテグス渡してないからね?

 死ぬから。

 このままどうにかしてそのネックレス装着したら、それはもうイコール『ママの死』だから。死のネックレスだから。そういう呪いのアイテムになっちゃうからね?


 だからもう、そろそろ諦めてもらえる?


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