第123話 ふと思い出す

 何かの弾みで、ぽん、と思い出すことってあるじゃないですか。


 自分の場合、恥ずかしい失敗エピソードなんかが多いわけですよ。あの時に戻ってやり直したい! みたいな。


 大学生の頃、憧れの先輩とデートすることになって、必死にお化粧の練習して、いざ! と臨んだは良いけど、緊張しすぎて曲がるストローを逆に差したりとかね、そういうやつ。飲めば飲むほどどんどん現れてくるんですよ、あのフレキシブルな部分が。


 気付いた瞬間に死にたくなりましたよね。そこから曲がってどうすんのよって。


 まぁ良い思い出ですよ。それから私はストローをよく確認するようになりましたから。人は失敗から学べるものなのです。


 え? その先輩とはどうだったかって? いやぁもう、さらーっと終わりました。さらーっと、彼女出来てましたから。


 あと、最近よく思い出すのはですね、暇(とお金)さえあればよく行くショップ(100均)があるんですけど、その道中にですね、まぁ、名前は伏せますけど、県内の大手企業の営業所があるんです。


 そこを通る度に思い出すんです。をね。

 うふふ、今回の宇部ッセイは珍しいですよ。なんと、旦那と息子とヒーロー以外の男の話だ!


 というわけで。


 まぁ、皆さんご存じの通り、私はもともと北海道民でして、異動で東北にやって来たわけですが、何せ知り合い0の状態ですからね、浮いた話なんてあるわけないんです。開幕からオフィスラブしか残されてない状況。まぁ、最終的にはオフィスラブで結婚しましたけど、異動直後は「オフィスでラブぅ~? ナイナイ」みたいな感じだったわけです。


 とはいえ、スーパー人見知りっ子で特に男の人が苦手な私が、何をどうしたら男性と知り合えるのか。それを危惧した異動前の職場の同僚がですね、「友達がちょうどいまそっちにいるから、紹介するよ!」ってね。


 同僚は私と180度くらい系統の違うギャル系モテ女子なので、その子の紹介かぁ、とぶっちゃけ腰が引けましたが、まぁ、とにかく会ってみよう、となりましてね。


 で、意外にも(?)ギャルギャルしい人ではなく、安心したわけですが、何せ私は特撮とかアニメの話しか出来ないような人間なわけでして。そもそも同性でも初対面の人と何話して良いかもわかりませんし。


 そしたら彼はもう早々に察してくれたのか、色々自分からしゃべってくれましてね。


「仕事何してるの? ○○(同僚名)と同じ職場だったって聞いたけど」


 から始まって、あーでも私は異動したので、いまは部署が違ってー、とか、そんな感じで返して。そしたら向こうもね、言うわけです。


「俺ね、実は○○(県内大手企業)で働いてるんだ!」


 すっごいどや顔されました。漫画だったら『へへん』とか『ふふん』って顔の横に書いてたはずです。


 でもね、聞いたことないの、そこ。

 例えば○○出版とか○○建築とかならわかるじゃないですか。具体的な仕事内容まではわからなくても、だいたいイメージつくじゃないですか。

 でもね、全然わからないの。タカラレーベンくらいわからないの。結局タカラレーベンって何の会社なの? って思うじゃないですか、それくらいのレベルでわからないの。


 だから聞きますよね、「何をする会社なんですか?」って。私も必死に会話のキャッチボールしようとしたんですよ。どうにかキャッチしたボールを精一杯リリースしたわけです。


 すんごいびっくりされました。


「え? 何で? ○○だよ?」って。

 いや、だからその○○だけじゃ連想出来ないのよ、こっちは!


 私も馬鹿正直に「すみません、聞いたことなくて」って言ってしまったんですけど、どうやら県内では「聞いたことがないなんてありえないレベルの大手」だったらしくて、さらにショック受けてました。


 いや、だって、それじゃ言わせてもらうけど、あなた『ホクレン』って聞いて何かわかる? パッとイメージ沸く? こんなの道民ならサービス問題ですけど!? 


 ってね、いまなら多少喧嘩腰で返せる自信あるんですけど、当時23歳の小娘には無理な話。


 で、そこに住んでもう10年以上経つわけですが、確かに大手でした。帯広で「『柳月』に勤めてます」って言うくらいかな。何か違うな。北海道で例えるの難しいです。


 まぁ、そんなわけで、そこを通る度に、嘘でも「えぇ~!? ○○でお仕事してるんですかぁ~!? すっごぉ~いっ!」って反応してたら、私の人生変わってたのかな、って思ったりもするわけです。いまの方が良いけど。でも、言ってあげれば良かったかな、なんて。


 ……ただね、その○○。


 かれこれ10年以上住んでますが、これまで一度もお世話になったことないです。

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