第14話 おばさんになったら……

 昔々、まだ私がぴっちぴちのJC(女子中学生)とかだった頃、当たり前ですが、母親っていうのは、もう結構なおばさんだったわけです。


 といっても、いまの時代より結婚も出産も早かった時代の人間ですからね、娘からすればおばさんですけど、まだまだ若い部類だったと思います。 


 子どもからすれば両親って『THE大人』じゃないですか。もう大人の中の大人。大人が服を着て歩いてるっていうか。そりゃそうだ。


 良くも悪くも手本ですよね。


 まぁ、幸いなことに手本に出来る部分が割りと多めのそこそこに常識のある(たまにぶっ飛んだ言動をする程度の)両親なわけです。


 毎度毎度のことながら前置きが長いですね。


 で。

 ですね。


 そんな『THE大人』の母親がですね。

 いきなりキャラものにハマったわけです。


 これは若かりし頃の宇部少女にはなかなかショッキングだったのです。

 あの母が。

 アニメも漫画も読まない母が!


 ちなみにこの場合の『アニメ』というのは、ディ○ニーやジ○リ、アン○ンマン、ドラえ○ん等を指します。ドラ○ンボールやセー○ームーンではありません。この違い、伝わりますでしょうか。私の中で大人が見るアニメっていうのは、そういうやつで、決して北斗の○とか、めぞん一○とかではなかったのです。


 最初はたぶん小さなキーホルダーなんかが車の鍵に付いてた感じで。


「あー、お母さんの鍵に黄色い熊さん付いてるー」


 って。


 それが、そこから、じわじわじわじわ、そのハチミツを抱えた黄色い熊が増えていったわけです。増殖したわけです。じわじわじわじわ。これはホラーですよ。


 最初に犠牲になったのは車です。

 田舎なもので、車は1人1台なんです。

 だからつまり、母の車は母の城なんです。

 父が父の車では煙草をぷかぷか吸っちゃうように(それでも窓は開けてもらいますけど)、母は母の車の中を黄色い熊で埋め尽くすことにしたわけです。


 ダッシュボードの上には小さなぬいぐるみが。

 シートの上の座布団も。

 後部座席のティッシュカバーも。

 膝掛けも。


 黄色、黄色、黄色……。


 母の車はですね、セダンっていうんですかね。当時はいまほど可愛い軽なんてありませんでしたから、普通車でした。車種はもう覚えてませんし、私車のこと全然詳しくないんですけど、タクシーとか、パトカーとか、とにかくああいう形の車で。

 父親のはジープ(?)みたいなゴツいやつです。こちらもよくわかりません。宇宙刑事ギャバン(また出た!)の一条寺烈が乗ってたやつみたいな形です(伝わるか!)。

 私としては断然父の方のが恰好良いし、雪道でも安心なんですけど、いかんせん煙草臭いわけです。制服を着ている時はなるべく母の車なわけです。


 そんな母の車が黄色い熊まみれ……。


 いやもう本当に当時は母がおかしくなったんだと思いましたよ。

 キャラものって子どもが持つものだって思い込んでましたから。

 アニメや漫画も子どもが見るもので、大人はそういうの見ないと思ってましたから。


 ただ毎日仕事に行って、帰ってきたらご飯作ってくれて、野球かニュースかドラマ見て、寝る。それが大人だと思ってたんですね。何が楽しいんだろうって。


 で。

 時は流れ。


 まぁー、ハマりましたよ。キャラもの。


 母のように黄色い熊ではないんですけど、やれサン○オだリラッ○マだ、果てはディズニープリン○スだ、こびと○かんだ、と。


 私だってパッと見は『THE大人』なんですよ。

 でも、その鞄の中は……。出るわ出るわ。


 あの日の母の言葉がよぎります。


「あのね、おばさんになったらハマるのよ、こういうのは。そういう風に出来てるの」


 刺さりましたね。いまになって。

 そういう風に出来てた!


 はーん? まっさかー。って笑ってたんですけど。


 もーぐっさり刺さってます。ごめん、お母さん。


 アニメや漫画?

 ええ、もちろん見まくってますとも。

 ディ○ニーやジ○リじゃないやつを。


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