第169話掃討
屈強そうな大男が入ってくると現状を教えてくれた。敵の術者は離れた位置から使役しているだろうとの事、こちらの戦力では前衛を抜ける事は敵わない事。
それだけ聞けば十分と俺は男に礼を言って城を出た。
全ては上手く行っていた。この馬鹿をうまく誘導して、ゴーレムのような過去の兵器を手にする事もできた。誤算は色々あったが、この魔力操作と魔道技師のスキルがあればこれからはどうとでもなる。
後はこの偉そうな無能を葬ってから、本国に帰り着きさえすれば今回の僕の人生は勝ちだ。
この門だって、強固ではあるが、ゴーレムの重量と力で押し潰せる。多少時間が掛かるのが腹立たしいが、素直に称賛しよう。
さぁもうすぐ開門の時間だ。同時にこの無能に貸している制御権を取り返し、踏み潰してやる。それからは僕の直属の部下と共に楽しい、楽しい陵辱と略奪の時間だ。
ズドン、聞こえてはいけない音がした。同時に後ろにいたはずの無能の頭が吹き飛び、制御を失ったゴーレムが停止した。
かなり離れたはずの城壁の上に人の姿が見える。俺はすぐにゴーレムの影に隠れた。
「ふざけるな。何ファンタジーに科学を持ち込んでんだよ。空気を読みやがれ屑が」
間違いない、あれは銃、しかもスナイパーライフルだ。術者を的確に仕留めた所から感知に優れた魔術師でもあるのだろう。だがそれがどうした?敵の位置は分かっている。射線にいなければ良いだけの事。
少しあせったが誤差だ、誤差。問題ない。部下にゴーレムに隠れながら進軍するように伝え、今度は僕自らゴーレムを動かす。
するとどうだろう。城壁の上にいた魔術師。多分同郷の奴だろうが。飛び降りたのだ。自殺かと見ていたが、空の上を歩き出しやがった。非常識すぎる。これでは上も警戒しながら動かなければならない。
ゴーレムに頭上を覆うように指示を出し進む。
次の瞬間僕は恐怖した。着地した魔術師を攻撃しようとゴーレムをけし掛けたが近づいた瞬間まるで、そう、王に頭を垂れる平民かの様に平伏したのだ。
正直逃げたかった。しかし、最早退路は無い。武功無しでは帰れないのだから。何をしたかは分からない。だが強力な魔術なのは確かだ。そうそう連発されてたまるか。
僕はゴーレムにファランクスの陣形を組ませあの魔術師を倒すために挑んだ。が、結果は同じ。それどころか僕までゴーレムの様にひれ伏すように倒れている。当然部下も同じだ。
魔術師は作業の様にひれ伏す部下を槍で刺し殺していく。そして僕の番が来た。
「貴様何をした?銃は分かる。だが、この魔術はなんだ?」
魔術師であろう男は、心底疲れた顔をして「また、こっちに来た人間か。本当にろくな奴がいないな。俺も同類なんだろうがな」
魔術師は槍を振り上げる。
「待て、せめて教えてくれ。何故僕やゴーレムは動けない?」命乞いは無駄だろう。この手の人間は見てきた。利益よりリスクを排除する事に重きを置くタイプだ。確実に僕は死ぬ。
「冥土の土産って奴で教えてくれよ」
「また日本人か」魔術師は更に嫌な顔をする。これは結構な数のこっちに来た人間を殺してるな。
「ああ、良いぜ。命乞いしなかったし、同郷の好だ。人は前の世界もこの世界も大なり小なり魔力で体を動かす事に使っている。電気信号の補助とでも言おうか?」
「成る程、補助を失った訳か」
「御名答、今ここには一切の魔力は存在しない。そういう空間だ」
本人は補助が無くても動けるように訓練したって所か、僕が勝てる相手ではない。
「良い土産だ。向こうなんてのがあれば自慢してくるさ」
鋭い痛みと共に意識が混濁していく。ああ、寒い。次があるといいなぁ。
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