第155話作業の様に

 ルイに対する切り札が一つ出来た所で攻略に向う。銃を使うのも良いが、ここは最近サボり気味だった先ほどの魔術を行使しながらの戦闘を行う事にしよう。きつくなって来たら手段を変えるだけだ。実戦ではまだまともに運用してない。


 とりあえず仮面でも付けるか。変装が使えない。



 それに、初見で順応する化物がいないとも限らない。データを取るにもここは良い戦場だろう。




「あの男を討ち取れ」進入を感知したのだろう。全く以ってご苦労な事で。俺は再びあの魔術を行使する。しかし、名前が無いのは呼びにくいな。彼の理論から言うと真の原初の再現。安直ではあるし、人の魔術ではあるが。真初と呼ぶとしよう。



 相手さんはご苦労に詠唱を集団で行い。同じ魔術を同時に撃つ腹積もりのようだ。無意味だが。半径10mこの範囲内は魔力がまず存在しないし、許さない。



 当然、魔術由来の火炎弾など許されるはずが無い。結果として、範囲内に入った時点で掻き消える。



 相手の指揮官はそれなりに優秀な様で、即座に魔術師を退避させ。騎士を俺に向わせてきた。強力な対魔術障壁があるとでも思ったのだろう。



 結論から言おう。想定内の敵しかいなかった。範囲に入った瞬間的の騎士は倒れ伏した。止まれずに後続もなだれ込み、同じように倒れている。最初の騎士は可哀想だが踏み潰されている事だろう。



 後はただ、淡々と、そう、淡々と命を作業の様に絶つ。倒れて動けない騎士の鎧の隙間から剣を差し込むだけの簡単な作業だ。精神が冷えていくのが分かる。この世界に来てからはずっとそうだが、この戦争は特に酷い。凍えそうだ。



 俺が動けば魔術の範囲も動く。ただ近づき、ただ止めを刺す。終いには恐怖で騎士達も魔術師達も逃げ出した。後は、敵の首魁とか聖女の確保、または駆除するだけだ。



 本当に散歩でもするかのようにただ城の奥へ上へ進む。途中に先ほどの騎士より見た目が豪華な騎士が襲い掛かってきたが、結果は同じ。



 最後に頑丈そうな扉があったので。一度解除して銃火器で吹き飛ばした。もう一度行使して進むとそこには初老の老人と子供、そして十代中頃の少女。恐怖に怯えた目でこちらを見ていた。



「こんにちは。自身の信仰する神に嫌われた信者達」



 俺以外は倒れ伏してるがそんな事はどうでも良い。口さえ動けば良いのだ。



「喋れるか?」



「はい」少女は答えた。恐怖に耐え、搾り出すような声ではあるが、とりあえずは喋れるようだ。



「お前がこの結界を張っていた聖女とやらか?」



「はい」



「で?隣の老人が法皇って所か呼び方は知らんがこの似非宗教の首魁って事で良いのだな?」




「ヒィ」短い悲鳴が上がる。逃げ出したいだろうが。動けないからどうにもならない。



「聖女とやら。お前はこの宗教がどれ程非道な行いを知っていて、加担しているのだな?」



「非道とは、貴方の事ではないですか。信徒を誑かし、先導し、虐殺した。この悪魔」



 どうやらこの空間では話す事も辛い様だ。半分くらいはルイの仕業なのだが・・・まぁいいか。




「侵略者を討ち取って何が悪いのだ?何故、あれ程の侵略戦争を仕掛けておきながら反撃されないと思うのだ?」



「悪仰を聡し正道へ戻すために、巨壁の国へ最低限の人員を送り出したらしいですが、断じて侵略ではありません」



 あっダメだこいつ。お花畑ちゃんタイプだ。



「成る程、成る程。実に分かりやすい。てめぇの言う諭すというのは、巨壁を落とすのが困難だから、周辺国の蹂躙して植民地化した挙句、食料の貧しい巨壁の国に兵糧攻めをする事を言うのだな?御丁寧に外国に食料を買い付けしようとする者には刺客まで送る。実に神に仕える者に相応しい所業だな」



「そんなの口から出任せです。私は神に与えられた力と共にある。神の意向、正義はこちらにあるのです」



「やはり、移転者か。まぁその面見れば分かるがな。何故この世界に来る日本人は屑の確率が高いのか。同郷の民とは認めたくないな。そうそう、神から与えられた力が正義になるのなら、もう8人は見たぞ。俺もその一人だ。神の意向は我にありってか?」



「顔を隠すような後ろめたい人間に神の意向がある訳も無いです」最早餓鬼の罵りだ。



「顔を見せても良いぜ」仮面を俺は投げ捨てる。聖女も俺が同郷の人間であると分かった様だ。



「さて、何故わざわざ、顔を見せたと思う?」



 聖女の下へ歩きながら問う。



 聖女は後ずさろうにも体が動かない。



「可能なら生かしても良いと思ったからだ。だが、その価値は無い。そう判断したから仮面を取った。それじゃあな」



 聖女に剣を突き立て、その命を終わらせる。



「次はお前の番だおっさん」



「まっ待ってくれ。交渉しよう」



「いいだろう。名誉や権力には興味は無い。金は腐るほどある。さて、何を俺にくれるのかなぁ?」



「私の命と引き換えにその子だけは見逃して欲しい」



「ずいぶんと潔いな。どういう事だ?」




「ルイ殿にこの国の滅亡を望んだのは我自身なのだ。最早この国、この宗教国家は破綻している。残念ながら我では御し得無い。我自身半ば軟禁状態なのだからな」



 怪しい、がルイの名前が出てきたのが腑に落ちない。一度解除して鑑定を使う必要があるか。



 解除して素早く銃を取り出し、銃口をおっさんに向ける。



「動くなよ」



 鑑定した結果、子供は本当に何の変哲もない子供で、おっさんは信託を伝えるものというスキルを持つ以外なんの取りえも無いおっさんだった。



「良いだろう。お前の命確かに貰い受ける」

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