名は体を、体は名を ~3~

 サマエルちゃんに連れてこられた先は、フィジカルトレーニングルーム。通称「アスレチック」。


「模擬弾は装填したわね。」


「う、うん。」


 隣で腕を組むサマエルちゃんと、私の前に真っ直ぐ伸びる2本のレール。

 その先には棒についた丸い的。


「この前の任務と同じ状況よ。迫り来るゲドに正面から対峙。狭い通路だったから間違いとは言いきれない。でも、問題はあんたの照準よ。」


 びっ!と目と鼻の先に指を突きつけられる。


「遅いの!構えて狙って撃つまでが!あれじゃ間に合わない。良くて刺し違い、最悪返り討ちよ。物陰か窓の外から奇襲をかけるべきだったわ。」


「はい・・・。」


「過ぎた事を引きずらない!その為のトレーニングよ。照準を速く正確に定める為の訓練を始めるわ。迫り来る的を撃ち抜きなさい。」


 そう言ってサマエルちゃんが端末を操作すると、レールが稼働。そして一気に加速。


「っ!」


 構える余裕が無かった、なんて言い訳。油断していた。数秒前まで遠くにあった的は、今は私から十数センチの距離にあり、ゆっくりと元の位置へ戻っていく。


 たかが的のはずなのに距離と迫る速度で、この威圧感。これが本物のゲドだったら・・・。

 考えただけで背中に冷や汗が滲む。


「1回死んだ。あんたがこの前やろうとしていた事よ。そしてその結果。的の真ん中を貫けば止まるよう設定してあるわ。ほら、次行くわよ!」


 的の真ん中?それってあの赤い点の事?!あ、当たらないって!ちょ、まだ準備が・・・。


 ビュオォォッ!


「ひゃぅ!?」


 風を切り迫る的に、私は尻もちを着いた。同時に訪れる恐怖。


「2回目。分かっていると思うけど、1つの生き物に命は1つよ。この世界唯一の平等・・・。・・・まぁ、避けようとしただけマシね。さ、立ちなさい。」


「はい・・・。」


 カラカラと音を立て、的が初期位置に戻っていく。動き出してから構えたんじゃ間に合わない。かといって、最初から構えていても、小さな的の更に小さな中心点を撃つなんて・・・。


 慣れない考えを巡させ、手足に無駄な力が入り震える私に、サマエルちゃんは冷たく何よりも重い言葉を吐き捨てた。


「今のあんたじゃ、誰も救えない。」


「・・・っ。」


 初めに感じたのは、非力な自分への憤りと失望。そして次に不思議と反抗心が芽生えた。


 嫌だ。


 親しい人が死ぬのも。非力な自分も。言われっぱなしなのも。何より、誰も救えないなんて・・・。


「・・・嫌だ。」


「・・・・・・へぇ。」


 サマエルちゃんが何か呟いた気がしたけど、今は気にならない。

 気付けば手足の震えも消えていた。


 カタンッと小さく聞こえるレールの音。

 来る!と思った時にはシャァァァ!と、的がレールを疾走する。


 構え・・・と、ここで私はある事に気が付く。

 レールの疾走音に隠れて、同じ音がもう1つ。


 視界の端に映る、迫り来るもう1つの的。


「えっ・・・。」


 驚きの声と同時に身体が動く。意識から切り離されたように勝手に。

 銃口を正面の的から滑るように、もう1つの的へ。響く2つの銃声。


 意識が追い付いた時、私はバランスを崩して床に倒れた。


「いったぁ・・・。い、今何が起きたの?!」


 起き上がり状況を確認する。

 私の正面にあったレールとは別にもう一本レールが私の方を向いている。これが2つの音の正体。

 そしてレールに乗った的は止まっていて、中央が赤く点灯している。ヒット、つまりそこに弾が当たった証。


「私が・・・やった、の・・・・・・?」


「そうね。あと3回は死ぬと思ったんだけど。」


 胸の前に腕を組んでサリちゃんが近付いてくる。あれ?課題クリアしたのに不機嫌・・・?


「咄嗟の行動力・・・反射というべきね。それがあんたの長所ね。ま、それに追いつけない残念な頭が短所でしょうけど。」


 ハンッと鼻で笑うサマエルちゃん。

 私の長所・・・・・・って!


「残念な頭ってどういう事?!」


「そのまんまの意味よ。もっとシンプルに言えば馬鹿。何が起きたか分からず、すっ転んだのがいい証拠よ。」


「ぐぬぬ・・・・・・。」


 確かにそうだけど・・・。でも、そこまで言わなくてもいいじゃん!


「さ、次やるわよ。」


「え?課題クリアしたのにやるの?」


「はぁ?まぐれの1回で強くなった気でいるの?せめてさっきの動きを脳が理解するまでは繰り返さないと、足でまといよ!」


「あ、足でまといじゃないもん!」


「足でまといよ!あんたには、ずば抜けた医療技術も狙撃センスも無い!せっかく付き合って上げてるんだから、真面目にやりなさい!このままじゃ近いうちに死ぬわ!」


「・・・・・・だから生き残るために長所くらい伸ばしなさいよ・・・。」


反論をものともせず説教の雨を降らせてくるサマエルちゃん。

そんなの分かってる。私にはラーちゃんやサリちゃんみたいな才能が無いことなんて・・・。弱い事だって。でも・・・。


「私だって・・・真面目に・・・・・・。」


ポツリと出た言葉に帰ってきたのは、サマエルちゃんの舌打ち。


「・・・少しでも期待した私が馬鹿だった。やっぱりあんたは『ミカエル』じゃない。」


え?何を言って・・・・・・。


「わ、私は・・・ミカエ──。」


「違う!あんたなんて『ミカエル』じゃない!『ミカエル』は隊長がなるはずだったのよ!」


今までにない鋭い眼光。肩で息をする彼女の瞳は、私を敵として捉えていた。

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