第7話 名は体を、体は名を ~1~

第七機動小隊の親睦会。あの日から私には気になることがある。



『ミカエルちゃん。ラスト一体そっちに行ったわぁ。』


インカムから聞こえるアリエルさんの指示に、私は銃を構える。


廃工場の長い廊下。その奥から鉄の床を蹴る音と共に迫ってくる影。


「こちらミカエル!ゲトと会敵!迎撃を開始します!」


半月経った今でも気になる・・・いや、今だからこそ気になる事。それは・・・・・・。


「ふぅ・・・。照準を定めて・・・撃──。」


ガガガガガガッ!


「っ!?」


引き金を引くより早く、窓枠からゲドに鉛の雨が浴びせられる。


「構えも照準合わせも遅いわよ。鍛錬が足りないんじゃない?し・ん・じ・ん。」


窓枠に足を掛け、廊下に顔を出すサマエルちゃん。その顔は勝ち誇ったように得意気だ。


「隊長ぉ!ゲドの巣の制圧終わりましたぁ!早く帰還して甘い物でも食べに行きましょ!」


「・・・・・・。」


あの日からサマエルちゃんが、何かと私に突っかかってくる事。




ご飯の時も。


「ミカちゃん、お米好きだよね。」


「うん!最近はお米とナットウ?を一緒に食べるのにハマっているの。匂いに癖があるけど美味しいよ!」


「・・・ミカ、臭い。」


「私?!ナットウじゃなくて?!」


そんな会話をしていると。


「くっさいわね・・・。仮にも隊長の第七に属しているのだから、もう少し品のあるものを食べたら?まぁ、品がないあんたにはお似合いだけどね。」


「なっ!?」


あからさまな嫌味を言いながら近くの席につくサマエルちゃん。


なんなの?

私を見て鼻で笑って、トーストを齧るサマエルちゃんにカチンとくる。

そこまで来るともう身体が勝手に動き、自然と席から立ち上がる。


「あのさ──。」


「では、私も『品がない』と言うことだな?」


その声に私たちは顔を向ける。声の主はサリちゃんのとなり。


「きょ、教官!?」


黙々と食べるサリちゃんの横で、凛とした姿勢でナットウをかき混ぜるカイリエル教官。

いつの間に?!


「サマエル。貴様も兵士である前に女だ。品格や色気を重んじる事は一向に構わん。」


「え?いや・・・えと・・・・・・。」


「だが、貴様が品のないと言ったこのナットウ。これは元々何の変哲もない大豆から出来ている。そこに発酵などの手間暇をかけ、努力の末にようやく完成する栄養食だ。それを匂いだけで『品がない』と蔑むか?」


ビシッとサマエルちゃんを指差すカイリエル教官。


思わず拍手したくなるけど、内容がナットウなんだよね・・・・・・。


「あ・・・あー、そうだった。隊長と食べる約束してたんだったー。」


その場に居づらくなったのか、サマエルちゃんは棒読みでそんな事を言いながら席を離れていく。


「あ、ありがとうございます!教官!」


「礼を言われる事ではない。・・・ずいぶんな新人いびりを受けているようだな。3人・・・というよりミカエル、貴様に対してか。」


「・・・やっぱり、そうですよね・・・・・・。」


「ミカちゃんは何もしてないのに・・・」


「・・・逆恨み?」


サリちゃんとラーちゃんが肩に手を置き、庇ってくれる。


何かした覚えなんてもちろんない。・・・と思うけど・・・・・・。


「逆恨みか・・・。それに近いものではあるな。」


「教官、原因が分かるんですか?!それなら──。」


「答えは探すものだ。誰かに聞くものではない。」


教官の言葉は最もだ。考えるのが苦手な私はすぐ人に聞いてしまう。


「ただ、サマエル・・・あれは根から悪い奴ではない。距離を置くのはもう少し後でも遅くないだろう。」


教官は時々優しい。言葉は厳しいけど、そこには確かな優しさを感じられる。


「それはそうと、ミカエル。食事中は席に付け。脚を撃ち抜かれたいか?」


・・・やっぱり厳しいし怖い・・・・・・。


「あら?何かいざこざ?」


偶然だろうか、そこに通りかかったアリエルさん。そのおぼんにはナットウが乗っていた。


サマエルちゃんには黙っておこう・・・。



「あれ?」


食後、サマエルちゃんが座っていた椅子に置かれた、1冊のノートを見つけた。


「これ・・・サマエルちゃんの?」


「そこに座っていたから、そうかも・・・。」


「名前を書かれた人が死ぬノートかい?」


サマエルちゃんのノートだとしたら届けなきゃ。

というかサリちゃん、何それ怖い・・・。


「ラーちゃん、サリちゃん行こ──。」


「それは貴様1人で届けてこい。」


2人を誘おうとした瞬間、教官が話に割り込む。


「この2名には用事がある。よってそのノートは1人で届けてこい。サマエルなら食後はだいたいフィジカルトレーニングルームにいる。ラファエル、サリエル行くぞ!」


言うだけ言って教官は2人を小脇に抱えて歩き出す。


「あぁ、それから。そのノート、絶対に中身を見るなよ、絶対、だ。」


「あ、ちょっと・・・教官!ラーちゃん!サリちゃん!」


手を伸ばすけど、引き返してくれるわけもなく。


「え・・・えぇぇぇ・・・・・・。」


こうして1人のおつかいが始まった。


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