親睦会 ~5~

「た、多重人格?!」


 初任務が終わり、場所は再び部室。私とラーちゃん、サリちゃん、サマエルちゃんとアリエルさんは、お菓子を囲んでいた。

 ヤエルちゃんは検査の為、診察室に行っている。


サリちゃんは新しい包帯を目に巻き、無言でお菓子に手を伸ばす。


「そ。多重・・・というか二重人格ね。1人はお菓子と妹大好きなヤエル。もう1人は姉に心酔しているヨエル。」


 お菓子を摘みながらサマエルちゃんが説明してくれる。


「その・・・妹のヨエルちゃん?は今・・・。」


「亡くなったわ・・・。1年前、任務中に。」


 と、紅茶を口にするアリエルさん。


「それからよ。ヤエルが追い詰められた時、ヨエルに入れ替わる様になったのは。最初は私たちも、そんな事信じられなかった。現実を受け止めきれないだけだって。」


「でも、現実を受け止めきれていなかったのは私たち。接してみてすぐに分かったわ。あぁ、ヨエルちゃんはヤエルちゃんの中で生きているんだって・・・。不思議よね?」


 有り得ない!なんて言う人はいなかった。

 どんなに非現実的でも、今日この目で見た事は紛れもない現実なんだと。アリエルさんたちの説明にはそう思えるだけの真剣味があった。


「殉職・・・と言えば聞こえは良いわ。でもね、そこに名誉なんてないの。死んでしまったら何も成せない。悲しむ子の涙を拭くことも・・・。」


 アリエルさんの表情が一瞬曇る。


「だからこそ、みんなで助け合って、誰一人欠けることなく、こうやってお菓子を囲みたい。楽しく笑顔で。それが私の・・・第七の方針よ。」


 ふわりとした微笑み。けれど、その目には憂いを帯びているようで、私は胸が痛くなった。



『妹に似ているところがあって、放っておけないんだよね。』


「・・・似ている?・・・・・・どこがだろう・・・。」


分からない。似てない、と思う。それとも周りから見たら私もあんな・・・・・・。



「不思議。と言えば、あんたもよ!新人!」


 唐突に声を大きくするサマエルちゃん。ビシッと指すその指の先には。


「サリちゃん?」


「・・・・・・私かい?」


「そうよ!何よあの狙撃技術!それに何よりヨエルに放った最後の一撃!あれは何!」


「・・・ただ狙撃し──。」


「嘘よ!」


 そんなんじゃ納得しないと、テーブルに身を乗り出すサマエルちゃん。

 サリちゃんの最後の一撃って、ちゃんとスコープを覗いて撃ったあれのこと?


 考えてみるけど何らおかしな事はない。むしろ耳を頼りに、スコープを覗かず撃ってたそっちの方がおかしいくらいだ。


「私はね!あの子・・・ヨエルの動きはよく知ってるの!どういう呼吸で動いているか、どんな動きで弾を弾いているかもね!」


 え?そんなに細かく?!

 つい口から出かけた声をお菓子で押し戻す。


 というか、あれはヤエルちゃんの幸運じゃなくて、実際に弾を弾いていたの?!

 サリちゃんもそうだけど、もう人間業じゃない・・・・・・。


「最後のあの瞬間。ヨエルの腕が止まったの。不自然な形でね。そしてヨエルの焦り様。明らかに自分の意思ではない、何かによる硬直よ!」


「・・・・・・・・・・・・。」


「ヨエルの腕にも外傷は無かった。あれは何?あらゆる最先端が揃うシャングリラでも、そんな技術聞いたことない!答えなさい!あの『魔法』みたいな現象はいったい──。」


「サマエルちゃん、そこまでよ?」


 今にも飛びかかって来そうなサマエルちゃんを、アリエルさんが後ろから優しく抱きしめる。


「誰でも秘密の1つや2つはあるものよ?」


「で、でも!隠し事をした仲間と信頼関係は築けません!」


「秘密を打ち明けるのは、あくまで信頼関係を築く過程の1つよ?サマエルちゃんは今日、サリエルちゃんに助けてもらったでしょ?信頼するには十分じゃないかしら?」


 振り返って反論するサマエルちゃんに、どんどん顔を近づけていくアリエルさん。


 あわわわ!近い近い!見ている私までドキドキする!


「大丈夫よ。この子たちとならうまくやっていけるわ。だってみんな強くて可愛くていい子だから。ね?」


「は、はいぃぃぃ。」


 サマエルちゃん陥落。


 いや、そりゃあんな近くでアリエルさんの優しい声で話されたら誰だってそうなるよ!


「新人のみんな。今日は大変よく頑張りました。これからもよろしくね?」


 完全に幸せに落ちたサマエルちゃんを抱きながら、アリエルさんがウィンクをする。


「は、はい!こ、こちらこそ!」


「よろしくお願いします!」


「・・・ん。・・・・・・よろしく。」


 3人揃って敬礼。サリちゃんはお菓子を片手に持ちながら。そういえばアリエルさんたちが話している時も黙々と食べてたっけ。


「それじゃあ、もう遅いし今日は解さ──。」


「たっだいまー!お菓子まだ残ってるー?」


 バーンッ!と勢いよく開けられた扉から登場したのはヨエルちゃん。ヤエルちゃん?あれ?どっち?!


「ヤエル。今日はもうお開きよ。お腹空いたなら食堂で食べてきなさい。」


「えー!おーかーしー!」


 サマエルちゃんの口振りから、今はヤエルちゃんだと分かる。

 人格の交代についてヤエルちゃんはどう思っているのかな・・・。そもそも知っているの?

 気になるけど、聞く勇気が私には無かった。


 そのまま今日の親睦会・・・ほぼ任務だったけど・・・は閉会し、私たちはそれぞれの部屋に戻って行った。


 やっぱり私はまだ井の中の蛙だ。世界のことも、仲間のことすら全然知らない蛙。

 ・・・・・・蛙ってなんだろう?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます