親睦会 ~3~

「これで任務は完了ね。」


 ケモノの群れを討伐した私たちはプリズムの前に集合する。

 やっぱり近くで見ると大きい・・・。


「みんな反省点はあると思うけど、それは帰ってからにしましょ。」


「あの、このプリズムって剥き出しでいいんですか?ケモノに壊されちゃったりとか・・・・・・。」


「あら、そうねぇ・・・。サマエルちゃん。」


「はい。」


 ガガガガガッ!


「ふえぇ!?」


 迷うことなくプリズムに向かってライフルを連射。何やってるの?!サマエルちゃん!


「・・・・・・あれ?」


 あんなに弾丸を撃ち込まれたのに、プリズムは無傷。なんで?


「プリズムはね、ある超高硬度の結晶から造らているの。だからライフル弾やゲドの攻撃程度じゃ、傷もつかないわ。」


「な、なるほど・・・。」


 サマエルちゃんの突然の発砲に、まだ心臓がドキドキしている。


「ただプリズムに集まった群れを放っておくと、大型のケモノを呼び寄せちゃったり、メンテナンスの時に妨げになるから、こうやって定期的に討伐作戦が組まれるの。」


「プリズムの設置。防衛。ケモノの討伐。それを繰り返した先に星の浄化、生活圏の奪還が実現するのよ。いい?私たちシャングリラの天使は、人類復興の要なの!」


 その自覚を持ちなさい!と、サマエルちゃんは空を指差して決めポーズ。


 ポーズはともかくとして私たちの任務の重要性を再確認する。


「さぁ、帰ったらパーティーと反省会しま・・・っ!みんな離れて!」


 アリエルさんの咄嗟の指示に、私たちは四方に飛び退く。

 さっきまで私たちのいた場所に何かが衝突し、地面が響く。


「な、何?!」


「たぶん、群れのボスよ。」


「む、群れの・・・ボスですか?」


 落ちていたのはゲドだった。ゲドなのだけれど・・・。


「・・・大きいね。」


 普通のゲドの1回り、2回りも大きな個体。これが群れのボス?こんなの座学でも習ってないよ!


「このくらいの個体になると、プリズムも壊されちゃうかしらねぇ。」


「えぇ!?」


「ほら、ボサっとしない!舌が来るわよ!」


 サマエルちゃんの忠告通り、こちらに向かって伸ばされる舌。なんとか避けられたけど、その長さは通常個体の比じゃない。


「あ、危ない・・・。」


「ミカちゃん!避けて!」


「えっ?」


 普段聞くことの無いラーちゃんの叫び声。同時に目前に迫るゲドの舌。

 あれ?さっき避けたのに、なんで・・・。


 舌がぶつかるその瞬間、舌とは違う方向から衝撃が来る。


「どーん!」


「えっ・・・ヤエルちゃん?」


 ぶつかってきたのはヤエルちゃん。私に被さる形で倒れ込み、おかげでゲドの舌を避けられる。

 私を助けてくれた・・・。


「大丈夫?ミカっち。」


「う、うん・・・。ありがとう。」


「のーぷろぶれむ、だよ!」


 私が返事をすると、ニッと歯を見せてヤエルちゃんは笑った。


 群れのボスを見ると、攻撃の正体が分かった。ひとつの大きな口から伸びる2本の腕状の舌。・・・何あれ、気持ち悪い・・・・・・。


「ミカエルちゃん達には少し分が悪いかしらねぇ。」


「新入りに実力を見せるいい機会ですよ。」


「よーし!やるぞー!」


 私とケモノの前に立つ先輩3人。あれを3人で相手するの!?


「アリエルさん!私たちも──。」


「だーめ。ミカエルちゃん達は見学タイムよ。私たちの姿、ちゃんと見ててね?」


 そう言って振り向き、ウインクするアリエルさん。もうそれ以上何も言えなくなってしまう。


「さぁ、行きましょ。」


「はい!」


「おー!」



 アリエルさん達の闘い方は、一言で言えば『凄かった』。

 何がどう凄いかと聞かれれば。


 まずサマエルちゃんがケモノに接近。弾をばら撒きつつ攻撃を回避。注意を自分に向ける。


 そこを別方向からアリエルさんが、ショットガンでケモノの四肢を攻撃。狙いを付けられたら、またサマエルちゃんが弾幕を張り注意を引き付ける。


 凄いのはそれぞれの弾が、互いに当たっていない事。完全にケモノを翻弄している。


 そしてヤエルちゃんは・・・。


「せいやー!・・・・・・ありゃ?」


 威勢よく銃口を向け発砲するけど、全弾あらぬ方向に。あんなに撃ち込んでいるのに、逆に凄い・・・・・・。


「こらぁ!ヤエル!新入りの前だからって格好付けてないで、いつも通りテキトーに撃ちなさい!」


 ・・・はい?!いつも通り?テキトーに?!


「むー・・・分かったよー。」


 そう言うとヤエルちゃんは、右脚を軸に回転を始め・・・。


「ラーちゃん!サリちゃん!伏せて!」


 ヤエルちゃん何をしようとしているのか理解した。だからいち早くラーちゃん達に覆いかぶさり、地面に伏せる。


「え?み、ミカちゃん?」


「・・・ラファエル。頭上げないほうがいい。」


「いっくよー!」


 回転するヤエルちゃんの掛け声と共に始まったのは、乱射。


 空も地面も、敵も味方も関係ない全方位への乱射だ。


 バチィンッ!


「ぴぁぁ!?」


「ひっ!」


「・・・。」


 弾が当たったのか、目の前の小石が弾ける。顔から十数センチの距離。


 あわわわわ!これ、岩の物陰に隠れた方がよかったかな?でも、それだと間に合わなかったし、今から動いたら逆に危ない・・・。


 ビッ! パァァン! チュィンッ!


 至る所で弾の弾ける音。

 無理無理無理!当たる!死ぬ!


「あ、アリエルさん!ヤエルちゃんを止めてくだ──。」


「グギャアァァァ!」


「・・・へ?」


 ケモノの悲鳴にも似た鳴き声。弾がいくつか当たったのかと思ったけど違う。

 その足には赤く染った風穴が空いており、巨体が倒れる。


「な、何が起きて・・・。」


「・・・跳弾だよ。」


 跳弾?!それってあの、壁とかに当たって弾が跳ね返る・・・。


「・・・岩や飛び散った小石に跳弾させて、ケモノの足に当てたんだ・・・・・・。」


「なるほど・・・って!あの子もサリちゃん並の射撃技術があるって事?!」


 そんな神がかった技術があるのに、なんでさっきは1発も当たらなかったのかな・・・。


「・・・少し違う。私のは技術。訓練すれば誰でも出来る・・・。でも彼女のは・・・。」


「ヤエルのあれは才能よ。」


「才能・・・ふえぇ?!サマエルちゃん!?」


 ケモノと交戦していたはずじゃ・・・。


「弾を撃ち尽くしたから補充に来たのよ。予備の弾薬よこしなさい。」


「は、はい!えと・・・弾の大きさは・・・。」


 あたふたとラーちゃんがサマエルちゃんの要求に対応する。


「さっき言ってた、ヤエルちゃんの才能って・・・。」


「サリエルの言った通りよ。あらゆる物に跳弾させて脚に全弾命中。あれは技術じゃないわ。言うなれば幸運。それがヤエルの才能よ。」


「う、運だけであんな神業・・・。」


「ありえない。でも、目の前で起きた事は事実よ。」


「ヤエルちゃんは幸運の持ち主なのよねぇ。流れ弾もケモノの攻撃も何故か当たらない。くじ引きはいつも特賞。羨ましいわぁ。ラファエルちゃん、私も弾貰っていいかしら?」


「隊長さん!?えぇと、散弾ですよね?少しならあります。」


 2人の口振りからヤエルちゃんの幸運は本物。たまたま弾丸が岩に当たって、たまたま跳ね返った弾丸がケモノに・・・。

 ・・・そんな事出来るなんてチートだよぉ・・・・・・。


「ヤエル!そんな所でふらふらしていないで、早く補給に来なさい!一気に畳み掛けるわよ!」


「おー・・・目が回って気持ち悪いー・・・。」


 呼ばれたヤエルちゃんはふらふら千鳥足。その後ろから這い寄る影。


「ヤエルちゃん後ろ!」


「ほぇー?・・・っ!」


 後ろからケモノの舌に掴まれ、上空に持ち上げられるヤエルちゃん。あれ?攻撃が当たって・・・。


「このっバカ!」


「痛っ!サマエルちゃん、なんで叩くの?!」


「ヤエルちゃんの幸運はねぇ、意識しちゃうと発動しないのよ。」


「意識すると・・・・・・?」


「そう。あの子の幸運は無意識に起こるもの。予期せぬ出来事、攻撃、現象に対してだけ発動するの。だ・か・ら!攻撃が来ることを教えたら、あの子の運動神経じゃ避けられないのよ!」


 分かった?!と、サマエルちゃんは、私の両頬をあべこべに引っ張る。


 そんは制約があるなんて分からないよぉ!


「うっ・・・くあぁ・・・ぁぁ!」


「そ、そんな事よりヤエルちゃんを助けないと!」


「サリエル、あの舌狙い撃ちできない?」


「・・・朝飯前。でもあの高さで解放されたら、ヤエルは落下死するね。」


 そんな!じゃあ、どうすれば・・・・・・。


「見守るしかないわね。」


 えぇ?!それじゃあヤエルちゃんを見殺しに・・・。


「大丈夫よ。ミカエルちゃん。ヤエルちゃんにはまだ奥の手があるから。」


 奥の手・・・?


「あぁ・・・ぁ・・・・・・。」


 舌腕に締め付けられていたヤエルちゃんが、糸の切れた人形のように、脱力する。

 嘘・・・そんな・・・・・・。


「来るわねぇ。」


「えぇ。いい?新入り達!目開いてよく見てなさい!」


 サマエルちゃんの言葉の後、すぐに変化は起きた。

 ヤエルちゃんを掴んでいた舌腕の指が、血飛沫と共に四散。


「え・・・何?!」


 何が起きたのか理解できないまま、次に目を映ったのは、舌の上をケモノに向かって走るヤエルちゃん。


 そしてそのままケモノの口の中へ入り、十数秒の後、ケモノを腹部を裂いて出てきた。


 ケモノの血に濡れているけど、その姿はヤエルちゃんで。でも、何か・・・雰囲気というか纏うものが違う。


「や、ヤエル・・・ちゃん・・・・・・?」


 ゆっくりと歩いて来るヤエルちゃんから感じる、突き刺すような重い威圧。


「・・・待って。ミカ──っ!」


 瞬間、私の頬を冷たい感覚が襲う。

 呼び止めたサリちゃんの顔も何が掠めたのか、包帯が切れ落ちる。


「・・・ね・・・・・・た・・・・・・ら・・・・・・」


 ゆっくりと開かれるヤエルちゃんの口。


「姉さまを見殺しにしようとしたのはお前らかぁぁぁぁぁ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます