親睦会 ~2~

シャングリラから光が伸び、星の一点に当たる。


光は徐々に薄くなり、靴底には地面の感覚。


「もう動いて大丈夫よ。」


アリエルさんの言葉で、私は前へ歩き出す。目の前に広がるのは、演習の時以来の国外の景色。

淀んだ雲に覆われた灰色の世界。少し違うのは岩が多いことくらい。


後ろを振り返ると、天から伸びるポータルの光の柱。


これがシャングリラの隊員が天使様と呼ばれる由来。

星に住む人々が、光の柱から出てくる隊員を見て『天から舞い降りた天使のようだ』と比喩した事が始まり。って座学で習った。


光の柱はだんだん小さくなりやがて消えた。


「考えてみるとこの柱、めちゃくちゃ目立ちますよね。ケモノに私たちの位置とかバレないんですか?」


「・・・・・・。」


「・・・・・・はぁ。」


あれ?みんな急に黙ってどうしたの・・・。


「ミカちゃん・・・それ座学で習ったよ。」


「・・・ミカは寝ていたからね。・・・ナイス。座布団1枚だよ。」


「あ、あれぇ?あはは・・・・・・。」


ラーちゃんの困り顔と、サリちゃんの謎のグッジョブで心が痛い・・・。


「あんた、ちゃんと座学くらい聞いてなさいよ。このポータルの光には、ケモノに認識されない光源が使われているの。覚えておきなさい」


「ほへぇ・・・あ、じゃあ光の中には入れば安全に任務遂行出来るんじゃ──。」


「あんたねぇ・・・透明な水の中に石を落としたら、その石も見えなくなるわけ?認識されないのは光だけの話よ。」


ここがもう戦場だからか、私に呆れ果てているからか、サマエルちゃんはあまり声を荒らげない。


「サマエルちゃん、そのくらいに。見て。あれが今回の目標よ。」


岩陰に身を隠したアリエルさんが指をさす先数百メートルの地点。地面に設置された大きな三角柱の物体。


「『プリズム』よ。瘴気を浄化する・・・そうね、強力な空気清浄機みたいなものかしら。」


「あ、ケモノが集まってきました・・・。」


いつも以上に控えめな声でラーちゃんが言う。


「プリズムは瘴気を吸い込んで浄化する性質上、瘴気を餌にするケモノの餌場になりやすいのよ。」


サマエルちゃんが説明する通り、あっという間にプリズムを中心に小規模なケモノの群れが出来た。


ゲドが十数体、ウォッチャーが3体。迂闊に飛び込めば袋叩きに遭う事は、私でも分かる。


「それじゃあ、いつも通り私が切り込んで牽制、撹乱して来ます。」


と、腰を上げるサマエルちゃん。え?単独で行くの?!それにいつも通りだって?!


「そうねぇ。折角だから新人さんの実力が見たいわ。ね?サリエルちゃん。」


「・・・私かい?」


「狙撃が得意って聞いたわ。ここからウォッチャーを撃ち落とせないかしら?」


「・・・目を瞑ってもいける。見えてないけど・・・・・・。」


そう言ってサリちゃんは、ライフルの銃身を手頃な岩につけ、構える。


「見えてないなら辞めときなさい。包帯なんかして、あの小さい的に当たるわけない。それに1体仕留めたとしても他の2体に位置がバレるわ。」


隊を危険に晒さない為にサマエルちゃんが止めに入るが、私は知っている。

訓練期間中に何度も耳にした。こんな時、サリちゃんがなんて言うか。


「・・・問題ない。聞こえている。」


そして彼女は静かに引き金を引く。


ドンッ!


重い銃声とほぼ同時に宙を浮くウォッチャーが消し飛んだ。それも3体。


「な、何をしたのよ!」


「・・・?・・・3体が重なった時に当てただけ。」


「んなっ!?」


ありえないって顔をするサマエルちゃん。分かるよ。私も初めはそうだった。視界を包帯で遮った華奢な少女の的確な狙撃なんて、ありえないって。


でもサリちゃんには聞こえているんだ。敵の鼓動も位置も動きさえも。全部あの小さな両耳に届いているんだ。


「・・・ゲドが警戒し始めた。次はどうする?」


「次はそうねぇ・・・・・・。」


「全軍突撃ぃー!」


我慢の限界だったのかヤエルちゃんが飛び跳ね、大声を出す。

ちょっ!目立っちゃ駄目だって!ほら、ゲドがこっち向いた!


「・・・ふふ。だそうよ。もうバレちゃっているし突撃しましょう。ラファエルちゃんは私の側を離れないようにね。」


「は、はい!」


「ツーマンセルで行くわよ!ミカエルは私、サリエルはヤエルと組んで!」


「うん!じゃなかった・・・はい!」


「了解。」


「それじゃあ解散!」


アリエルさんの掛け声で私たちは3つに分かれ、走り出した。




「ラファエルちゃん。時計になりましょ。」


「え?」


「今私たちが向かっている方向が12。その逆が6。」


「・・・あっ!わ、分かりました。」


「お願いね。」


「4時に1体!次、7時!11時から2!」


凄い・・・。この人、時計に例えた方角から来るケモノを見ないで撃ち抜いている・・・。

しかも小さな拳銃1つで。


「上出来よ。ラファエルちゃん。」


「は、はい!ありが・・・っ!2時から1!」


私が方角を伝えた時には既にゲドの舌が迫っていた。


「もう、せっかちな子ね。」


それでもアリエル隊長は拳銃で舌を受け流し、ゲドの口にショットガンをねじ込む。


「はい。あーん。」


ドンッ!


篭った銃声と共にゲドの胴体が弾け飛ぶ。


「きゃあ!」


「あら、ごめんね。血ついちゃったかしら?」


「い、いえ・・・大丈夫です。」




「アリエルさん、すごいなぁ。」


「何当たり前のこと言ってんの。よそ見してたら死ぬわよ!」


「あ、ごめん・・・さない。」


そうだ。見とれている場合じゃない。私も任務に貢献しなきゃ。


「あ、発砲は禁止よ。」


「・・・ほぇ?なんで?」


「味方からの誤射はある意味、敵より脅威よ。あんたは発砲しないで。私、まだ死ぬ気は無いの。」


それって・・・。


「私がノーコンってこと?!」


「あら、理解出来たのね。少し成長したじゃない。」


カッチーン!


「っ!」


私はサマエルちゃんの言葉の後、直ぐにサブマシンガンの銃口を彼女に向けた。


「バカ!血迷った──。」


「伏せて!」


「っ!?」


サマエルちゃんが伏せた事で、彼女の後ろから迫っていたゲドがはっきり見える。


「はぁ!」


私は至近距離のゲドの顔目がけて発砲する。


「グギャアァァァ!」


血飛沫と断末魔を上げて、その体は崩れ落ちた。


地面に伏せて呆然とするサマエルちゃんに。


「当たったよ。」


と、一言だけ。


「・・・・・・なまい、き!」


「へ?」


突然世界が・・・いや、私自身が横に傾く。原因はサマエルちゃんの素早い足払い。

私は受身も取れないまま、地面に半身と頭をぶつける。


「痛ったぁ! ちょっ!」


私が起き上がるより早く響く銃声。


「グギャア・・・ル・・・ル・・・・・・。」


ズシャッと重い音と共に私の後方へ転がるゲドの死体。

目の前には硝煙の立つハンドガンを構えるサマエルちゃん。

もしかしてサマエルちゃん、私を助けて・・・。


「あ、ありが──。」


「ふん!仕返しよ!ばーか!」


「んな!?」


せっかくお礼を言おうとしたのに、この子は!


「もう!先に言ってくれればいいじゃない!」


「はぁ?!仕掛けていたのは、あんたでしょ!」


「グルゥアァァァァ!」


「っ!」


「しまっ──。」


言い合いをしててゲドの接近に気付かなかった。伏せたままの私たちに飛びかかってくる。


ドンッ!


目の前まで迫ったゲドの頭に一線。断末魔も上げることなくゲドが絶命する。


「な、流れ弾?!」


「ううん。これはきっと・・・。」




「サリエル選手、ナイスショットー!文句なしのヘッドショットです!これは高得点間違い無しかー!」


「・・・君は行かなくていいのかい?」


うるさい。あっち行って。・・・彼女を傷付けない言葉が見つからない。言葉って難しい。


「私はサリサリの護衛だよー。乱戦は得意じゃないし。ここでサリサリとお喋りたいなー。」


・・・護衛・・・がお喋り?


「・・・私と居ても碌な事がないと思う。ほっといていい。」


「んー。そうはいかないかなー。なんか君、私の妹に似てるところあって、放っておけないんだよねー。」


・・・そう言えば自己紹介の時、妹が好きって言ってた・・・。


「・・・その、妹さんは──。」


「あ!片付いたみたいだよ!早く行こう!サリサリ!」


「あ・・・引っ張らないでほしい。・・・転ぶ。」


・・・私と似ている妹さん・・・。少し会ってみたい・・・・・・。

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