第6話 親睦会 ~1~

 少数部隊招集室。

 少々言いづらいけど、ようは各小隊に一つずつ与えられた小型のブリーフィングルームの事で、小隊の受けた任務の作戦会議などが主な使用用途らしい。


「だ、大天使ミカエル、並びにラファエル、サリエル到着しました!」


 軽く2回、扉をノックする。

 まだ言い慣れない天使名。緊張で噛みそうになった。

 後ろに控えるラーちゃんとサリちゃんは、頑張れ!と応援したり、ボーッとしたり。


「はーい。入っていいわよ。」


 部屋から聞こえてきた第七機動小隊の隊長アリエルさんの声に少しだけ緊張が解れる。


「失礼します!」


 ドキドキとワクワク。二つが混ざったような感情で扉を開ける。


「フリーズ。」


 入室第一歩で視界に飛び込んできたのは、銃口だった。


「え・・・?あ・・・。」


「っ!ミカちゃ──。」


「しー・・・。」


 面食らう私の眉間に押し付けられた冷たい感触。まるで身体中の熱を奪われていくような感覚に陥る。

 後ろでラーちゃんの声が上がる。


「・・・はぁ。あなた、私が敵なら今死んでたわよ。」


 ため息混じりの物騒な言葉が聞こえ、同時に銃口が降ろされる。

 声の主、私に銃口を向けていたのは金の髪をツーサイドアップに結った女の子だった。


 背丈は私と同じくらい。少しつり目の綺麗な碧眼が私を睨み付けている。

 初対面だけど、私何かやらかしちゃったかな・・・。


「サマエルちゃん。あまり驚かせちゃ駄目よ?」


 サマエルと呼ばれた女の子の奥、部屋の中央には、ソファに座り優雅にティーカップを傾けるアリエルさんの姿があった。


 お洒落なソファにテーブル、ティーセットとどれも私の中では異色を放っていた。

 あれ?ここってブリーフィングルームのはずじゃ・・・。


「隊長ぉ!彼女センスゼロです!任務に行っても餌になるだけですし、除隊させましょうよ!」


 サマエルちゃん?の先程の刺すような威圧はどこへやら。アリエルさんの隣へ走っていき、腕を抱いて猫のように甘えている。


「にゃはは!大丈夫だよ、さっちん!3人も入隊したんだから、1人くらいは生き残るよ!」


 笑い声が聞こえた方を見るとアリエルさん達のソファの横、一人用のソファに胡座をかいて、楽しそうに笑いお菓子を頬張る女の子。

 右の横髪だけが長いショートヘア。そこに連なるように付いた球型の髪飾りが特徴的だ。


「大丈夫よ。みんな強い子たちだもの。きっと死なないわ。」


「えっと・・・。」


 日常では聞き慣れることのない会話が飛び交う中、呆気に取られる私とラーちゃん。

 サリちゃんはいつも通りのようだ。


 そんな私たちに見て、アリエルさんは「あら」と声を上げると、優しく微笑んで、手招きをした。


「こっちへいらっしゃい。緊張しているならハーブティーでもいかがかしら?」


 ハーブティーと甘いお菓子の香り誘われ、私たちは空いているソファに腰掛けた。


「あ、あのぉ・・・ここ一応ブリーフィングルームですよね?どうしてこんなお洒落な家具が?」


 ソファに座って早々、テーブルの上の焼き菓子に手を伸ばしながら私は尋ねた。


「はぁ?あんた隊長の趣味に文句あるわけ?」


 ちょっと質問しただけなのにサマエルちゃん?は鬼の形相で睨んでくる。

 そんな怨まれる事した覚えないよ・・・。

 それに隊長の趣味って?


「可愛い子たちとお茶会、素敵じゃない?」


 頬に手を当て「うふふ」と微笑むアリエルさん。やっぱりこの人・・・。


「他の部室もこんな感じだよ!」


 そう言いながら、胡座をかいていた女の子が片手いっぱいに焼き菓子を取り、頬張る。


「部室・・・ですか?」


「少数部隊招集室・・・長いうえに言いづらいから略して『部室』ってみんなよんでいるわ。」


 首を傾げたラーちゃんに焼き菓子の入った器を差し出しながら、サマエルちゃんが質問に答える。

 あれぇ?


 ラーちゃんとの対応の違いに驚いていると一瞬、サマエルちゃんと目が合った。


「・・・ふんっ」


 と、鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。


 え、えぇぇ・・・。


「・・・・・・隊員はこれで全部?」


 静かにお菓子を食べていたサリちゃんが、これまた静かに声を発する。


「ええ。第七機動小隊は今、お菓子を囲んでいる6人で全員よ。」


 アリエルさんがティーカップを置きながらサリちゃんの質問に答え、その両手をパンッ!と合わせる。


「改めて自己紹介するわね。私は能天使のアリエル。この第七機動小隊の隊長を務めているわ。」


 胸に手を当て、「よろしくね」と自己紹介を終えるアリエルさん。続けてサマエルちゃんに目配せをした。


「・・・こほん!私は権天使のサマエル。第七機動小隊の副隊長よ。あなた達はまず隊長の偉大さを知るべきだわ。そうね・・・初めに隊ちょ──。」


「はいはーい!さっちんと同じく権天使のヤエルだよぉ!大好きなのは、妹と美味しいもの!第七の掻き乱し隊長だよ!」


 サマエルちゃんの自己紹介を遮って、弾けるように立ち上がったヤエルちゃんは、溌剌とした声で自己紹介をし、満足そうにニカッと笑う。


 遮られたサマエルちゃんは、口元をヒクヒクさせて見るからに不機嫌そうだ。


「というわけで!」


 ソファから立ち上がったアリエルさんがサマエルちゃんとヤエルちゃんの間に入って、肩を抱き寄せる。

 あ、サマエルちゃんすごく幸せそうな顔してる・・・。


「ようこそ!第七機動小隊へ!」


 3人で声を合わせて、サマエルちゃんは嫌々だけど一応言ってくれる。


「それじゃあ、親睦会しましょ。」


 と、微笑むアリエルさん。


「親睦会ですか?!」


 それってご飯食べたりしながら仲を深めていくっていうお楽しみイベントのあれ?!


「わ、私たちも・・・いいんですか?」


 空いた皿をまとめていたラーちゃんが尋ねる。


「いいも何も、第七では新人が入ったら親睦会を開くって決まりがあるのよ。」


「そうと決まれば早く移動しよー!」


「はいはい。洗い物済ませたらね。」


 サマエルちゃんとヤエルちゃんはそれぞれ立ち上がり、ティーカップなどの片付けを始める。


「ミカエルちゃんは、どんな食べ物が好きかしら?」


 頬を手を当て首を傾げるアリエルさん。若いのにどこか母性的。


「私は・・・そうですね・・・・・・あ、シャングリラで初めて食べた『コメ』っていうものが気に入りました!」


「あら、個性的でそこがまたいいわぁ。」


「質素なあなたにぴったりじゃない。」


 洗い物をしながらサマエルちゃんが野次を飛ばしてくる。なんでこの子は私に対して当たりが強いのかな・・・。


「可愛いヤキモチよ。許してあげてね。」


「ち、違います!隊長、変な事吹き込まないでくださいよ!」


「皿洗い終わりー!早く行こうよー!」


 余程楽しみなのか、ヤエルちゃんは待ち切れずその場で足踏みをしている。

 元気なところとか表情豊かなところとかララに似ているなぁ。


「さぁ、移動しましょうか。私の後を付いてきてね。はぐれちゃ駄目よぉ?」


「おー!」


「どこまでも付いて行きます!隊長ー!」


「サリちゃん、手は大丈夫?」


「ん。この中なら1人で問題ないよ。」


 親睦会楽しみだなぁ!何食べよう。




「・・・あれぇ?」


 アリエルさんの後をついて行き、到着した所で私は首を傾げた。


『ロッカー室』


 これだけならまだ、私服に着替えて出掛けるのかなぁ?と思える。


「ロッカーは網膜、指紋、パスワード認証のどれかで開くわ。パスワードの初期設定を忘れずにねぇ。」


 そう言ってアリエルさんは腰にサイドポーチ、ガンホルダーを付けてそこにピストル、弾薬等の備品をしまう。

 奥を見るとサマエルちゃん、ヤエルちゃんも同様に慣れた手つきで装備を付けていく。


 私の中の疑問は増々大きくなる。


「あ、あれ?・・・し、親睦会は?美味しいご飯は・・・・・・??」


 私の言葉に先輩3人はキョトンとする。あれれ?

 振り向けば、私と同じく状況を掴めないラーちゃんの困り顔。やっぱりそんな反応になるよね!?私の発言は間違ってないよね?


「あらあら。」


「・・・はぁ。あなた、どんだけ食い意地張ってるわけ?」


「私と同じだね!ミカっち!」


 なんで私が呆れられてるの?!というか、ミカっち?


「・・・ミカ。兵士たるもの準備は迅速に、だよ。」


 新人で唯一この状況に対応しているサリちゃんが、対物スナイパーライフルを構えてアドバイス。


「ちょっ!バカ!早くケースに戻しなさい!メインウェポン取り出すのは、転移する直前よ!」


 転移?


「これ以上はミカエルちゃんが混乱しちゃうから、説明するわねぇ。」


 これ以上、というかもう混乱してますよ!

 先輩方による説明が始まった。


「私の部隊、第七機動小隊での親睦会は任務の事なの。」


「小規模なケモノの群れを討伐するっていう簡単な任務よ。」


「そんで、終わったらお疲れ様のパーティー!」


「なるほど・・・。」


 話を聞きながら私もラーちゃんも準備を進める。

 ロッカーに揃えられた武器は、訓練期間中に選択した物らしい。それなら私のは。


「ハンドガンにサブマシンガン・・・前衛向けの装備ね。」


「はい!これが一番私に向いてるかなって。」


「いいと思うわ。ラファエルちゃんは・・・あら、メインウェポンは?」


 アリエルさんの言う通りラーちゃんは、武器の入ったケースを持っていない。代わりに肩にかけた赤十字のカバン。


「わ、私は衛生兵としてこの医療道具をメインに・・・。護身用にピストルを持つことを条件に許してもらえましたが・・・出来ることならケモノであっても撃ちたくないです・・・・・・。」


「はぁ?あなたねぇ、私たちは戦場に行くのよ!そんな甘えた考えは──。」


「サマエルちゃん、いいの。・・・ラファエルちゃんは確か医療班志望だったわね?現場に医学の心得のある子が居るのは助かるわ。怪我した時はお願いね。」


「は、はい!」


「むー・・・・・・。」


 ラーちゃんの頭を撫で「可愛いわぁ」と微笑むアリエルさん。それを見て納得がいかないと唸るサマエルちゃん。どこ吹く風のサリちゃん。「早く行こうよー」と急かすヤエルちゃん。


 このメンバーで初任務・・・・・・。不安しかない・・・。




「ここが出撃用のポータルルームよ。ここに来てようやくケースから武器を取り出せるの。」


 正方形の部屋の真ん中に、シャングリラに来た時に使ったものと同じ形のポータルが置かれている。


「あ、座学で習いました。ここのポータルから星の任意の場所に飛ぶことが出来るんですよね!」


「その通り。ミカエルちゃんは勉強熱心なのねぇ。可愛いわぁ。」


「ふんっ!そんなの誰でも知ってる常識よ。・・・第七機動小隊、これより出撃します。」


 サマエルちゃんが壁に設置されたマイクに話しかけると、その下の床が開き、テーブルが上がってくる。その上には6つのドッグタグ。


「これは確か・・・・・・。」


「出撃時の必需品、ドッグタグよ。これを中心に半径2メートル範囲にナノマシンを放出し続けて、瘴気から私たちの身体を守ってくれるの。」


 これが天使様たちが、瘴気の中を活動出来る理由。

 これがあればスラムの人も少しは安全なのに、なんて私は座学の時に呟いていたけど、そんな万能なものじゃない。


「習ったと思うけど、ドッグタグは1枚で30分ナノマシンを放出するの。2枚1組で計1時間。それが私たちの活動限界よ。」


 首から下げたドッグタグを見つめる。この2枚が私の命綱・・・。限界を超えて活動すれば、身体は瘴気に蝕まれる。


「絶対無くすんじゃないわよ!分かった?新人。」


「う、うん!」


「うん。じゃなくて、はい!」


「はい・・・。」


 そんな指さして怒らなくても・・・。サマエルちゃんの厳しい態度が私の不安を加速させる。


「さぁ、ケースから武器は出したわね?ドッグタグも良し。」


 ポータルの上に乗り、アリエルさんを中心に最終確認が行われる。


「サブミッションは、ケモノの討伐。それじゃあポータル起動!」


「え?討伐がサブですか?メインは・・・?」


「生きて帰ること、よ。」


 アリエルさんのウインクにドキッとする。

 胸の高まりも治まらないまま、私たちは光に包まれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます