高校生が700万円払って嫁を得る。
これだけでも何事!?と驚くような、ぶっ飛んだラブコメかと思うような設定ですが、本作はいわゆるラブコメの枠には収まりません。
冥王と契約し、「闇の決意」を保持し続けるために己が武器を手に能力バトルを繰り広げます。が、いわゆる異能バトルの枠には収まりません。
ここにあるのは、三人の少年少女の、あまりに深く、熱く、悲しく、かけがえのない、心揺さぶられる魂の叫び。
人を思う愛、自分自身と戦う葛藤。
ここまで見事に描き出された作品を、初めて読んだかもしれません。なぜ書籍化してないの?
時に心臓を抉られるような、痛みを伴う三人の慟哭から、目を離すことができません。
とてもレベルが高い、素晴らしい作品です!
主人公は十六歳の男子高校生。
彼の近所には、母親から虐待を受けている十四歳の少女が住んでいます。長年の虐待により、彼女は洗脳にも等しい束縛を母親から受けています。児童相談所もその他の公共機関も当てになりません。ゆえに主人公は、700万円の結納金を彼女の母親に支払うことを条件として彼女と結婚することを決意します。
しかし主人公は苦悩します――自分は700万円でヒロインを買っただけなのではないか――それは人身売買と何も変わりはないのではないかと。ましてやヒロインは、長年の虐待によって他人に従順な性格となってしまっています。つまり、ヒロインを娶ったあとは、自分が母親の代わりに彼女を束縛してしまうのではないか――そのような悩みもまた抱えています。
それどころか、主人公には思いを寄せる女性が別にいるのです。
そのような事情があるために、主人公はヒロインと幸せになる気はありません。結婚してヒロインを母親の呪縛から解放し、自立した人格のある普通の少女として育て上げたあとは、彼女が自分と離婚するのを待とうと考えています。
言うまでもなく、この正義感は非常に独りよがりです。そんな歪んだ決意の元に現れたのは、「闇の決意」を持つ者に異能力を与える存在・ハデスでした。
この物語は、男子高校生が二人の少女から思いを寄せられるハーレム展開であると言えるかもしれません。しかし、主人公は上記のとおり、ヒロインのうち一人を愛してはいけないという歪んだ決意を抱えています。この決意のイビツさが、分かり合えているようで分かり合えていない、微妙な関係を登場人物たちのあいだに作り出しています。
過酷な状況に置かれた人々の心情と、そんな中で展開される熱いバトル。やがて主人公の歪んだ決意は、胸が締まるような意外な展開とともに、二人のヒロインのあいだにまでヒズミを生み出します。
幸せになれない主人公とヒロインとの関係――その青春の終わりへと向かってゆくような物語でした。
タイトルも中二的で、描かれる異能(決意)も中二心をくすぐるものばかりです。
ですが、この作品が描いているのは純愛だと思います。
主人公の黒田剣一は、近所にすむ早乙女ざくろを救うため彼女にプロポーズします。
非合法な仕事をしているのも、彼女の母親の要求する結納金を稼ぐため。
彼は、自分がざくろをいいようにしてしまったら、彼女の母親と同じになると考え、結納金支払い後は彼女を自分からも自由にすることを考えている。
同時に彼にはもうひとり大事に思っている人物、同級生茜がいます。
彼女は剣一に心寄せてくれますし、剣一としても一緒にいて心安らぐ存在ですが、ざくろのこともあり、彼女の気持ちには応えてあげられない。
三人の運命はどう転ぶのか。
目が離せません。
14歳の少女にプロポーズするという、衝撃的なシーンで幕を開ける本作。
婚約者・ざくろを母親の虐待から救う決意をした主人公・剣一は、そのことが原因で冥王ハデスに取り憑かれてしまいます。
ハデスの目的は、ネガティブな感情に起因する人間の決意を挫くこと。
どうしてもざくろを救いたい剣一の、心身を掛けた戦いの日々が始まります。
見どころは、ハデスから異能を付与された者同士の「決意」を掛けたバトルシーンです。
迫力あるアクション描写に重ねて叩き付けられる、怒涛の如き心情描写。
ここに、人間の心理の内部まで深く抉り込む、作者さまの持ち味が素晴らしく発揮されています。
なぜ剣一はハデスに取り憑かれたのか。
それがこの物語のテーマを紐解くための重要なポイントとなっています。
キーパーソンは、剣一のクラスメイトであり、友人以上恋人未満の関係にあった茜。
茜の存在が、剣一の中に歪な決意を生じさせてしまった大きな要因の一つとなっているのです。
「誰かを救いたい」という決意は、一見すると美しく崇高なものに思えます。
だけどその実、自分自身を雁字搦めに縛るものでもあるかもしれません。
重たい覚悟を背負った少年は、決して綺麗事ばかりでは済まない苛酷な運命に翻弄されます。
和やかな日常の中に同居する、今にも心を握り潰されそうな焦燥と揺らぎ。読むほどに嵌まり込んでいくこと間違いなし!
一風変わった人間ドラマをお求めの方におすすめしたい作品です。