第十場 魂の日

○500年前・空の街・夕暮


 祭壇が設置し終わり、人々は街の広場で思い思いに話している。


リュイス「はあ。ひどい目にあった」

ケミィ「あはは! 父さん以外に勝てなかったのは初めてだよ」

アンリーク「俺もリュイスが勝てないとこなんて始めてみたぜ!」

ケミィ「ま、そんだけやれりゃ妹を任せても良い」

リュイス「はい?」

チャスカ「ティッカは強い人が好きなのよねっ!」


 チャスカとティッカ、儀式の衣装に着替えて祭壇上から降りてくる。


アントニ「チャスカ!」

チャスカ「どう? これ着て歌うんだよ」

アントニ「そっか、雰囲気が変わったなあ」

アマル「あー、お前、そういうのは駄目なんだな」

フェラン「うん。アントニは駄目だ」

アントニ「な、なんだよ」


 そわそわするチャスカ。女性への褒め言葉の語彙がないアントニを、周囲がここぞとばかりに囃し立てる。


戦士B「お前そりゃ、こういう時は言うことあんだろよ!」

アントニ「ええと……よく、似合ってるよ」

チャスカ「うーん。ま、いっか。合格! ほら早く、伴奏してくれるんでしょ?」

アントニ「お、俺も上がるのか!」

チャスカ「当たり前でしょ!」

アンリーク「女の子に恥かかせるなよー!」


 アントニ、アンリークを威嚇しながらチャスカと壇上へ。ティッカも困惑しているリュイスを引っ張り込み、踊り始める。


♬魂の日

チャスカ"年に一度よ 御山のみもと 太陽へ祈る 『暁の乙女』"

    "笑顔届ける 歌と踊りで きらめく微笑み さあご覧あれ"

    "声合わせるの 雲より高く 届けるのよ 眠る人らへ"

    "忘れていないよ 笑顔の意味を また言わせてね 「おかえりなさい」"

チャスカ・ティッカ"暁は 夜空の向こうに 星灯は 水面に沈む"

         "消えはしない 帰ってくるの 気高き友は 『魂の日』に"


 アマル、街の人を促しながら立ち上がる。


戦士たち"むかしむかしの おとぎ話さ 村をおこした 祖先たち"

    "痛みもあった 戦いも でも 今はここが故郷"

    "途切れさせない たくさんの思い 背負ってる 恐れはしない"

全員"歩み続ける 笑顔たずさえ 生きてるよと ここに迎える"

  "そして いつかは 僕らも 山へと還る"

  "暁に 笑顔照らされ 魂もつられて笑う"

  "消えはしない 皆 ここにいる"

  "忘れない 未来へと 気高き魂 伝えよう"


 祭りの盛り上がりの中、チャスカはアントニを連れてひっそりと舞台を抜け出す。


チャスカ「私達はね、今日一日だけの」

アントニ「(メモをとりながら)

チャスカ「もう、それは一旦置いて!」


 チャスカ、アントニの本を置いておかせる。


チャスカ「死んだ人は、叶えられなかった夢や願いがあるでしょ」

アントニ「……それを、生きた俺たちが背負っていくんだな」

チャスカ「そんな硬くないったら。一緒に叶えるの!」

アントニ「じゃあ、君の夢って?」

チャスカ「教えて欲しい? これから叶うの!」


 チャスカ、アントニを連れて去る。気づかないふりをした町の人々は、異文化の二人の出会いを祝福する。


空の街の人々"海から来た 新しい風 生まれるのは はじめての歌"

海の民"この出会いは 永遠(とわ)に刻まれ"

全員"歌われるだろう 『魂の日』に"

  "友よ見えるか この笑顔が 決して楽な 暮らしじゃないが"

  "生きたかった 君の分まで 笑い続けていよう"

  "時につまずいて 心折れても 次の日にゃ 元通り"

  "誇り高く 自由でいよう この生命 つなげよう"

  "死んだ 後には 僕らも 見守る番さ"

  "暁に 夜空 溶ける頃 魂は 静かに眠る"

  "消えはしない ここにある 暖かく祈ろう"

  "見守り続ける 魂を"


 賑やかに踊り、祭りは最高潮を迎える。消去法でティッカが『暁の乙女』に選ばれ始め、怒ったティッカはチャスカを追って街を出る。


アマル「さて、今年の『暁の乙女』を選ぶぞ!」

戦士B「いやまて、歌うたいがいねえぞ」

アンリーク「アントニもだ! 本まで置いて、か?」

フェラン「(邪推して)やるなぁ……」

戦士A「じゃあ消去法でティッカだティッカ。おめでとう!」

ティッカ「ちょっとっ! そんな決め方ってある? 探してくるから、待っててよ!」


 急ぎ走り去ってしまうティッカ。アマルが促し、リュイスは遅れてティッカを追いかける。

 町の人々は、祖先を祀る準備のためそれぞれ準備を始める。


 暗転。

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