第11話 幕間・執事の手記3
こうして、
『妖狐の執事』たる、私――
……ただ、一つ想定外なこともございました。
それは遥様がご当主となることを決断された理由です。
実を申しますと、私は遥様をご当主として迎えるためにいくつもの策を用意しておりました。
たとえば遥様が住んでらっしゃるアパート。
このアパートは高町の遠縁のご親類が経営してらっしゃいますが、そのオーナー様に私が術を使い、遥様のお部屋を解約しておきました。
当主となって黄昏館に住まなければ、遥様は宿無しということです。
他にも遥様の銀行口座の預金をゼロにしたり、遥様の私服をすべて消し炭にしたり、説得の準備に余念はございませんでした。
まさかそれらが日の目を見ないことになろうとは……。
……いえ、正直に申しましょう。
まさか遥様がこぎつねたちを理由に決断なさるとは……完全に私の予想を越えたことでした。
あるいはあえて考えないようにしていたのかもしれません。
先代のご当主――高町みすず様がご当主になることを決断されたきっかけ。
それもまた、一匹のこぎつねに端を発することでしたから。
今はもう遠いあの日。
まだ『妖狐の執事』の名を冠するには程遠く、ただの弱々しいこぎつねだった、私。
そんな無力な私を前にして、みすず様は黄昏館のご当主となることを決められました。
血は争えないということでしょうか。
遥様を見ていると、みすず様のことがまざまざと思い出されます。
今は亡き主人。
その幻影を追ってしまう私がいるのです。
ああ、まったく……いっそのこと、遥様がみすず様と似ても似つかない方であればよかったのに。
そうすれば私も割り切って、執事としての職務に徹することが出来たことでしょう。
けれど、遥様は確かにあの方のお孫様です。
亡き主人を彷彿とさせる、陽だまりのような温かさをお持ちです。
遥様、あなたはきっとお気づきではないでしょうね。
私とこぎつねたちは根本の価値観を共有しています。
花園であなたがこぎつねたちの心を救った時。
私の心もまた、あなたによって救われていたのです。
無論、みすず様を失った哀しみが消えたわけではありません。
それでも確かに私も新たな一歩を踏み出そうと思うことができました。
もちろん、そのようなことは決してあなたご本人にお伝えはしませんが。
当主として歩み始めたあなたはまだまだ未熟。
執事として厳しく躾けることが必要ですから。
さあ、それでは新たな日々を始めましょう。
私のレッスンは少々厳しいので、どうかお覚悟をなさって下さい。
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