第263話
善は急げ、だ。
さっそく柏木さんにアダマント製のタワーシールドを託すべく、オレは【転移魔法】を発動し自宅へと飛ぶ。
そのまま柏木さん宅を訪問し、驚く柏木さんに事情を話して、盾の解体と各種武器の作成を依頼。
そのまま再び【転移魔法】を発動し、妻達の待つ青葉城址ダンジョン第15層へと舞い戻った。
「ヒデちゃん、おかえりなさ~い。柏木さん、何だって?」
「かなりビックリしてたけどね。武器自体は色々と作ってくれるってさ」
『ニャ、我輩の分も頼んで頂けましたかニャー?』
「多分な。基本的には柏木さんにお任せ……ってことにしたけど、トムが新しい武器を欲しがってたって話はしといたから」
オレの槍の穂先や月牙などの付属パーツ。
兄用に予備の刀。
亜衣の薙刀。
父の杖に取り付ける円錐状の穂先。
マチルダのマチェット(山刀)。
カタリナ用の曲刀が2本。
沙奈良ちゃんの槍の穂先。
右京君とマチルダ用の矢。
これらは確定としても、まだまだ余分が有りそうだった。
トムは多彩な武器を使いこなすが、多彩過ぎてどれがメインとも言いにくい。
柏木さんはトムが無くした武器の大半をリメイクしたことが有るため、トムに回す分の材料で何を作製するかは、柏木さんに任せておいたのだ。
問題は作業に掛かる時間と、柏木さんの魔力だろう。
オレ達がモンスターを倒せば倒すほど、柏木さんの保有魔力も上がっていく。
柏木さんの保有魔力が上がれば、柏木さんが武具製作に費やせる魔力の量も増えていくわけだし、スキル熟練度もそれだけ伸びやすい。
オレの依頼した武具のうち、どれだけがスタンピードまでに間に合うかは、ダンジョン探索の進捗状況によって増減すると思うべきだろう。
そうとなれば、あまりここでダラダラしているわけにもいかない。
ダンジョン探索を再開することにしよう。
◆
青葉城址ダンジョンの特徴は、第一にその広さだ。
それでいながら、分岐も多いし小部屋も多い。
ついでに言えばトラップも非常に多い。
【危機察知】や【罠解除】のスキル持ちが居なければ、まともな探索も出来ないほどだ。
そのせいか、正直あまり人気の有るダンジョンでは無かった。
それでも常に一定数以上の、いわゆる『プロ』探索者が青葉城址ダンジョンに潜っていたのには、当然ながらそうしたリスク以上の旨味が有るからだ。
なぜか非常に多く、マジックアイテムが手に入る。
それが青葉城址ダンジョンの評価だった。
浅い階層でもかなり換金率の良いマジックアイテムの入手が狙えるため、トラップの危険性を度外視して潜る連中は居たし、他のダンジョンで運良く【危機察知】や【罠解除】のスキルブックを手に入れたことを契機に、メインの探索ダンジョンにここを選ぶ人は絶えなかった。
今や金銭にはあまり魅力を感じないのも事実だが、高値が付いていたマジックアイテムというのは、それだけの希少価値が有るか、それだけ役に立つもので有るか、あるいはその両方か。
希少価値だけならそれは無くても困るものではないが、有ったら嬉しいというものに過ぎない。
しかし、実用性の高いマジックアイテムは今のオレ達にとっても貴重だ。
戦闘や探索に役立つアイテムなら、それは尚更というものだろう。
オレ達もここに至るまでに、かなりの数のマジックアイテムを手に入れている。
個人的に最も嬉しかったのは、世間で一般に『聖杯』と呼ばれているものだった。
何も本当に聖遺物の聖杯なわけではない。
そのため、何でも願いを叶えてくれる力などはコレには無いのだが、ある願いだけは必ず叶えてくれる。
中に入れた物が麦ならビールが出来るし、米を入れれば日本酒が出来る。
さつま芋を入れれば焼酎が出来るし、トウモロコシならウィスキーを作ることが可能だ。
しかもある程度は任意で選べるし、材料が全て揃っている必要すらない。
例えば……米を入れて焼酎を願えば、日本酒ではなく米焼酎が作れる。
極端な例だと、梅を入れて願えばホワイトリカーが無くとも梅酒が出来てしまったり、単なるグレープジュースからワインも作れてしまう。
酒造メーカーが全く機能していないだろう現状では、貴重過ぎるほどに貴重なアイテムだと言えるだろう。
探索自体は順調そのもの。
依然として、モンスターの強さは脅威になるほどではないし、頻度も凶悪性も徐々に上昇していくトラップもトムの前には次々と無力化されていく。
以前だったら全く手も足も出なかっただろう階層ボスさえ、今や精々がちょっと強いモンスター。
なんなら、小休止の部屋を提供してくれる存在というぐらいの価値しか無かった。
トムの特殊能力も相変わらず絶好調。
中身まで絶好調というわけにはいかなかったし、アダマントのタワーシールドを超えるサプライズには恵まれなかったものの、こないだちょっと欲しいなぁと思っていたスキルブックも手に入った。
オレの【転移魔法】や、兄の【瞬転移】と比べると使いどころだったり性能だったりが見劣りするが、こと戦闘に限定するならば充分に使い勝手の良い【縮地】というスキルだ。
何故か、テレポーテーション的なスキルと思われがちだが、本質的には移動の予備動作を無くすためのスキルで、直線的な移動に限定されはするものの移動速度自体も驚異的に向上する。
要は超高速移動スキルであると同時に、オレの【無拍子】に良く似た挙動を悟られにくくする能力を有したスキルでもあるわけだ。
これについては亜衣に使って貰おうかと思ったが本人が頑なに拒否し、さらには父に使わせたがるので、ここは亜衣の意見を尊重することにした。
それに、言われてみれば……なのだが、亜衣の戦闘時の移動速度はいつの間にか異常な水準にまで達しているため、必要性に乏しいのも事実だ。
確かに戦力の底上げという意味では、亜衣より父に使って貰った方が良いかもしれない。
こうして数々の戦利品を得ながらもさしたる苦戦の場面すらなく、初日の探索は好調なまま終了した。
この日、オレ達が到達した階数は実に41階層にも及んだ。
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