第260話
いきなり現れた少女。
この、唐突に降って湧いたかのような現れ方には酷く既視感を刺激される。
健康的な小麦色の肌に、有り得ない程に美しい容姿。
いつぞやの推定亜神の少女……オレに管理者の権限を丸投げして、あちらに帰った筈のお調子者。
しかし今日は、表面上はにこやかに現れた前回とは違って、見るからに不機嫌そうだ。
『キミね~。どうしてピンポイントで当たりを引いちゃうのさ? おかげでボクの休暇が台無しだよ、だ・い・な・しぃ!』
現れるなり詰め寄られたが、オレにだって何が何やらサッパリだ。
「……えーと? いや、なんか、ごめん」
『せっかくさぁ、キミらの世界のドラマってヤツを堪能してたのにさ。まだコロンビア編の途中までしか見てないんだよ? 早く帰んなきゃ、忘れちゃうよ? どうしてくれんのさ~!』
……麻薬のヤツか?
何だって亜神が、わざわざそんなドラマを見てるのやら。
「悪かったよ。それで? どうして君が? 帰りたいなら用事を済ませないとだろ?」
『あ、そうそう! 要件は2つ有るんだ。まず1つ目だけど……キミには残念なお知らせかな。ルールが近く改正されます。勘の良いキミのことだから、薄々気付いて……って、そう言えば前回ボクのところに来た時には気付いてたんだっけ? つくづく、何なのさキミ』
立て板に水……とは少し違うかも知れないが、喋るのが好きなのだろう。
1人で喋り、1人で納得してしまっている。
しかし、そうか……。
ついに来るか。
『改正されるルールは……っと、アレ? 片方ド忘れしちゃった。ちょっと待っててね』
しかも、粗忽なところも有るのか。
何だか憎みきれない部分の有る少女だ。
『……あ、そうそう。モンスター同士、または現地の生物との間に子供が作れるようになります。例えばグリフォンがメス馬をアレしてヒポグリフが誕生したりだとか、ゴブリンやオークが女のヒトを拐ってアレしたり、今後は普通に起きますので気をつけてくださ~い』
マジか……負けられない理由が増えたぞ、これは。
しかも、ほっといたらモンスター同士で交配して繁殖することも今後はアリってことか。
『……で、さっき中途半端になっちゃったけど、モンスターパレード時に限り各守護者の権限が拡大されます。子ダンジョンを生成可能になりますので、お気をつけくださ~い』
「子ダンジョンて?」
『現状の領域内に迷宮化に手頃な建物が有ったら占拠して、そこをダンジョンに出来ちゃうんだよ。まぁ、作りは大して複雑に出来ないみたいだけどさ』
「いやいやいやいや、問題はそこじゃ無いだろ?」
『そうだねぇ……やっぱり気付いちゃう?』
「そりゃあな」
『迷宮化された建物は、あくまで子ダンジョンだから、領域は本ダンジョンよりは狭くなるみたいだよ。えっと……大体半分ぐらいなのかな? うん、そうそう半分』
手に持った紙を確認しながらそう言った亜神の少女は、紙片をクチャっと丸めると背後に向かって放り投げる。
部屋を汚すなと言おうとしたが、どうやら『空間庫』に仕舞っただけらしい。
何も無かった筈の空間に消えてしまった。
行儀が良いのか悪いのか判断が難しいところだ。
「半分か。でも、そこを基点にまた子ダンジョンを作られたら……」
『うん、理論上は可能だね~。まぁ、かなり魔素を使うみたいだから、際限無くっていうわけにはいかないんだろうけどさ。ボク達の主も、実は必死っていうわけさ。何しろ予定より、これまでに献納された魔素の量が、ちょっと少ないみたいなんだ。このままのペースだと間に合わないかもしれないね』
「それでまたルール変更か。いったい、どれだけこちらの世界を苦しめたら気が済むんだ? そりゃ、何もかも無くなってしまうよりはマシなのかもしれないが……」
『うん、マシ。……いや、かなりマシだと思うよ? 何しろヤツに喰われたら死ねないもん。神だろうと、ボク達みたいな成りかけだろうと、そこらのゴブリンだろうと、キミだろうと……キミが守ろうとしている者たち全て、死ぬより遥かに残酷な運命に取り込まれてしまう。例外なく全て……ね。だから、ボクも働くのさ。あんなもんに呑み込まれるぐらいなら働いた方がマシだもの。……っと! 今のナシね~』
「……いや、もう聞いたしな」
『そっか、そりゃ困った。まぁ、いいや。そういうわけだから、キミも頑張ってね? 期待してるよ。わりとマジで、さ。そして、そんなキミには主からプレゼントが有るよ。コレが、もう1つの要件ってヤツさ。じゃあ、そろそろボクも行かないとだから。あ~あ、休暇も終わりだよ。それじゃあ、またね~』
「あ、おい!」
行ってしまったか……。
先ほどまで少女が居た場所には、銀色のスキルブックがフワフワと宙に浮いている。
浮かんだままのスキルブックを手に取るが、色以外の見た目は今までのモノと何ら変わらない。
いや、一点だけ違う点を述べるならば、最初から表紙に書かれた文字が読めることだろうか。
これは今までには無かったことだ。
つまり、このスキルブックは既に使用可能な者が、オレに限定されているらしかった。
肝心な内包スキルは【神語魔法】というモノ。
カタリナから講義を受けた内容には、そんな名前の魔法は無かった筈だ。
……まぁ、いつまでも眺めていても仕方がないな。
いつものように本を開きページをめくると、スキルの内容と使用方法が即座にインプットされていく。
インプットされたのは間違いない。
間違いないのだが、これが到底オレに扱いきれるとは思えなかった。
単純に戦闘に使う部分は良い。
妻の最近の躍進の理由も分かった。
妻が武器に宿す、どの属性にも当てはまらない銀色の魔法光の正体とはつまり【神語魔法】による付与魔法の光だったのだ。
……ん?
ということは、妻は既にこのスキルを持っているのか?
それとも、何らかの恩恵でスキルとして所持しているわけでも無いのに、銀光の付与魔法だけを使える……とかだろうか?
もしスキルとしての【神語魔法】を既に妻が取得していたとするなら、色々と不自然な点が多い。
スキルとしては持っていないと考える方が、むしろ自然だ。
とりあえず……帰ったら皆に相談だな。
さすがにコレは独りでは抱えきれない。
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