第242話
「亜衣、お帰り。ヒデちゃんと綺麗なお友達の方も迎えに来てくれてありがとうね」
「ママ、ただいま。思ってたより元気そうで安心したよ」
「お義父さん、お義母さん、お久しぶりです。お迎えに上がりました」
「亜衣、お帰り。英俊君もよく来てくれたね。えっと……そちらのお嬢さんは?」
「パパ、やっぱり少し痩せちゃったね……。この子はカタリナ。凄い魔法使いなんだよ」
「はじめまして。カタリナといいます。アイのご家族にお会い出来てとても嬉しいです」
いきなりリビングに転移させてもらったわけだが、義父も義母も特に驚くでもなくニコニコしながら、オレ達を迎えてくれた。
相変わらず亜衣の両親は、物事に動じない人達だ。
甥と姪や義姉夫婦の姿は見えない。
おチビさん達がいきなり現れたオレ達にビックリして泣き出したりしないように、二階にでも行っているのだろう。
カタリナは如才ないと言うべきか、なんと言うべきか……。
「お姉ちゃんとよっ君達は二階?」
よっ君とは義兄のことだ。
義兄はオレよりも歳上なのだが、亜衣は何故か気安く呼ぶ。
「香奈とよっ君は、チビちゃん達と二階にいるよ。呼んで来ようか?」
「あ、私が呼びに行くから大丈夫だよ。ママ達はヒデちゃんと打ち合わせしといて~」
義母はフットワークが軽い人だが、亜衣も負けず劣らずだ。
今は身体能力も以前の比ではないことだし、それはなおさらだろう。
あっという間にリビングから出ていく。
「義則君はね、実は少しだけ渋っていたんだよ。彼はそれなりに出来るからね。僕と違ってさ……」
言いながら竹刀を素振りする真似をする義父。
たしかに、どこかぎこちない。
義兄は剣道有段者。
義父は学生時代に陸上をやっていたらしいが、ヒザを痛めて早くに引退したのだという。
オレも泊まりに来るたびに、義父が風呂上がりにヒザに湿布を貼っている姿をよく見たものだ。
「よっ君たら、調達班っていうのに志願してね……危ないところにもちょくちょく出掛けていくの。武器なんて最近まで木刀だったんだよ?」
木刀か。それはまた……。
ゴブリンやコボルトぐらいならどうとでもなるだろうし、ゾンビやスケルトン相手にもそれなり以上には戦えるだろうが、このあたりにはそんな弱いモンスターはそれほど居まい。
むしろ安全地帯を一歩踏み出したら、災害級のモンスターだらけでもおかしくは無いほどだろうに……。
よく今まで無事で居てくれたものだ。
「まぁ、そう言ってやるなよ。たしかにオムツやなんかは必要だっただろう。たまにご馳走も手に入れて来てくれたんだし……」
なるほどな……それで、か。
オレも同じ状況ならば、迷ったかもしれないが結局は行くだろう。
義兄はダンジョン探索をしたことが無かった筈だが、剣の腕にも体力にも自信が有るだろうし生活必需品のためなら、そうした判断をしたとしてもおかしくは無い。
「ヒデちゃん、呼んで来たよ~」
亜衣が姪を抱っこしながら戻ってきた。
……すやすやと可愛らしい顔で寝ている。
やっぱり女の子も良いよなぁ。
「やぁ、英俊君。久しぶりだね!」
「ヒデちゃん、ご無沙汰~」
「おじちゃ、こんにちは」
姉夫婦と甥も少し遅れてやって来た。
お義兄さんは、記憶より少しスマートになっている。
最近は、多少ビールっ腹が目立って来ていたのに……。
甥も少し見ないうちに大きくなっている。
やっぱりちょっとウチの子に似ているなぁ。
「お久しぶりです。まぁ、正月ぶりなんで実はそんなにですけどね。大輔君、こんにちは。大きくなったね~」
◆
結局、何が起こるでも無く妻の家族の避難は完了した。
義兄の両親含め、その他の親族は……だいぶ早い段階で亡くなってしまっていたらしい。
やはり都内は有数の危険地帯だったようだ。
妻の家族は、妻の実家付近にダンジョンが存在せず、運良く安全地帯だったことで難を免れたに過ぎない。
しかしそれも最近は、かなり危うい状況になりつつあったようだ。
地獄の様相を呈している外部地域からの避難民の流入は止まる気配を見せず、それとともに治安も相当に悪化していたのだという。
さすがに強盗殺人までは起きていないとのことだが、それも時間の問題だっただろう。
元からの地域住民と、避難民との間に生まれた溝はかなり深かったらしいのだ。
亜衣の家族には、最近まで二階堂さんが暮らしていた別荘を使ってもらうことになった。
この付近の安全性は既にかなりのもので、別荘地から元の自宅へと戻っていった人達はそれなりに多い。
二階堂さんも、そんな1人だ。
先立たれた奥さんの位牌を元の仏壇に帰すのだと、なんなら真っ先に引っ越した。
たまにダンジョン探索で得た食材系アイテムなどを持って訪れると、嬉しそうに受け取ってくれる。
相変わらず庭の畑の手入れをしていることが多いが、以前の野良仕事姿と違うのは、必ず背中に銃を背負ったままでいることだろうか。
さすがは老雄……といったところだ。
義父も義母も義姉夫妻も、思っていたより新居を喜んでくれていたのは良かった。
甥が一番はしゃいでいたが、姪は相変わらず眠っている。
今は義母の腕に抱かれているが、先ほどオレも抱っこさせてもらった……重たくなったなぁ。
カタリナも、おっかなびっくりといった様子だったが少しだけ姪を抱かせてもらっていて、なんだか幸せそうな顔をしていたのをしっかり目撃。
何だかんだでたらい回しにされていた姪が、全く起き出さないのは義父に似たのか、義母に似たのか。
将来、大物になりそうではある。
「じゃあ、私達はそろそろ行くね。また後で」
「あぁ、遠慮なくお邪魔させて貰うよ」
今夜は妻の家族をウチに招いて、ささやかながら歓迎の宴……といった予定だ。
実は酒豪といった印象の強い義父と義母なのだが、しばらくはアルコールを口にしていないらしい。
ちょうどビールなどのストックが切れかけた時に、今回の異変に見舞われたためだった。
今夜の宴会では遠慮せずに飲んで欲しいものだ。
それにしても……アレは一体なんだったのだろう?
妻の実家へ飛んだ瞬間から、何かに見られているような感覚をおぼえた。
勘の鋭い筈の妻も、魔法行使能力ではいまだにオレの上をいくカタリナですら、何の反応も見せなかったため、オレも意識して何も感じていない素振りを続けたが……アレは断じて気のせいでは無かったと言いきれる。
こちらに戻ってからは、その感覚も消え失せたが、確かに何者かに見られていたと思う。
まるで値踏みするかのような視線……。
オレからは、あちらの姿は見えていないというのに……何故か、そう思えた。
アレが何かの前触れで無いと良いのだが……。
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