第202話

「いいか、ヒデ。ここはとにかくけろ。ただし……デメリットを確実に割り出せ。お前がメリットもデメリットも全て明らかになったと思うまでは話を引き伸ばすんだ。ついでにオレ達では知り得ない情報も可能な限り話させろ。承けるのは決定。だが少しでも利益を引き出せ」


 亜神の少女からは、なるべく距離を取って密談していたオレ達だったが、最終的に基本方針は兄のこの指示を参考にすることにした。


 ちなみに、デュラハンの遺した宝箱の中身は『識者の宝珠』で、今回このアイテムの使用権限が有ったのは兄だ。

 初手の一刀両断から、明らかに戦闘の中心に居続けていたのだから、それも頷ける話だろう。

 トドメを刺す形になったエネアも納得しているようだった。

 

『そろそろ良いかな~? ボクも暇じゃないんだよね。返事を聞かせてくれる?』


「あぁ、その前に聞きたいんだが、管理者になったことで義務としてやらなくてはならなくなるようなことは有るのか?」


『えーとね、それは答えなきゃダメ?』


「駄目だな」


『そっかぁ、じゃあ仕方ないね。……管理者になることで発生する義務は、定期的な自分のダンジョンの拡張、それと魔素収入の半分を上納することだね。ボク達の主が強くならないと勝てるものも勝てなくなるし、そしたらこっちの世界も滅んじゃう。あ、でも上納したことで下賜される恩寵の方が何ならデカいんだよ? レア物のマジックアイテムとか、強いモンスターの配置権限とか、オンリーワンなスキルとか色々な形でかえって来るからさ』


 色々と聞き捨てならない単語が聞こえて来たなぁ。

 管理者達が世界中にダンジョンを配置し、探索者を呼び込み、マジックアイテムや身体能力の向上などの恩恵を20年の長きに渡って撒き散らしてきた本当の理由は……つまりは、そういうことなんだろう。

 原理としては農業に似ている。

 種を植え成長させてから収穫するシステムだ。

 収穫物の半分は上納するところなんて、まるで年貢みたいじゃないか。


 要は管理者達の主……つまり彼らの世界の神、または神々を強化するためのシステムだ。

 強化するそもそもの理由は、彼らの世界が更に別の世界の邪神から侵攻を受けそうだから、だったかな?

 こっちの世界と、あっちの世界は隣り合わせで一蓮托生。

 どっちが先に滅びてもゲームオーバー。

 たしか前に自称亜神の少年から聞いたのは、そんな話だった筈だ。

 だとすると、仮にオレが管理者になったとして、オレが上納した分の魔素は回り回って、この世界を守ることにも繋がるのかな?

 あ、そうそう……


「オレが前に会話したことのある管理者は今どうしている? もともと彼に会えると思って来たわけだし、出来たら近況を教えてくれないか?」


『ボクにここを任せて、元いた世界に戻ってるよ。まったく! 何の用事で帰還したのかも教えてくれないし……せっかくノンビリしてたのに、急に呼び出されたボクの身にもなって欲しいよ!』


 ……これ、もしかしなくても、仕事をオレに押し付けて自分も帰りたいだけなんじゃないか?

 もしそうなら、少々勘繰り過ぎていたのかもしれない。


「横から良いかな? オレはこいつの兄なんだが……」


『構わないよ。なぁに?』


「君達が、あちこちにダンジョンを配置することで魔素をこちらの世界に行き渡らせ、それを回収してそちらの世界の神様に捧げる……それは良いんだけど、何でダンジョンの外にもモンスターを出現させる必要が有るんだ? 別に今まで通りの形でも良かった筈だろ?」


『…………うわ、それ聞いちゃう?』


「あぁ、実際問題そのせいで、こっちの世界は滅茶苦茶だからな。放っておいたら、2つの世界が滅んでいた。だから効率良く世界の護り手に成り得る存在に魔素を提供していくため、こちらの世界にもダンジョンを出現させた。そこまでは良いんだ。どうして、ここまでこちらの世界の人々を追い詰める必要が有る? 確かにこっちの世界は滅んでこそいないが、既にあまり変わらない結果になっていると言えなくもない」


『そうなんだけどさ……ゴメンね。それに答える権限をボク達は持っていないんだ。ただ、この形が一番良い結果に結び付く可能性が高いっていうのは間違いない。それに元々はキミ達の世界のせいで……っと、だから言えないんだってば! あ、でもキミもアレだね。そっちの彼と同じように、いるんだね。キミ達みたいなヒトばかりだったら、そもそもこんなことにはなっていないのに……』


「なるほど。言えないっていうわりには分かりやすかった。ありがとう」


『どういたしまして。キミ、なんだか怖いね~。そりゃ少しはヒントをっていう意図が有ったのも確かだけどさ』


 兄の洞察力は並大抵なレベルでは無い。

 オレにはピンと来ない今の会話も、兄の中では充分に核心に迫るに足る内容だったのだろう。


 さて……実際この話を承けるメリットはデメリットに勝る、だろうか?

 ダンジョンを自由にカスタマイズすることが可能なのなら、上納する分以上の強化に繋がるモンスターを配置したダンジョン、または階層を作ることさえ可能だろう。

 どうせ自分のダンジョンの拡張をしなければならないというのなら、最寄りのダンジョンに第9層以降を新設して、そうした鍛練の場にすれば良いだけの話ではある。

 あとはこの亜神の少女が元の世界に帰りたいというのなら帰してやれば良いのだし、大したデメリットは無さそうだ。


 こうしてオレは亜神の少女からダンジョンの管理者権限を譲り受けることになる。

 引き受けることを告げた時の亜神の少女の笑顔は、今度こそ本物のように見えた。



 それにしても複数のダンジョンの管理者かぁ……。

 いつの間にか、とんでも無い話になっているな。

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