第193話

 そうと分かったら、あまりモタモタしてもいられない。


 これだけ有利かつ特殊な立場に居ながら、そして耐えずギリギリの状況で戦いの場に身を置いているにも関わらず、それでも都市部のダンジョンに挑むには力不足が否定しきれない。

 ドラゴンは言うに及ばず、その他にも上位のモンスターの中には、今のオレでも太刀打ち出来ない強者が山ほど居るのだ。

 そうした地域には、こちらから向かわなければ良いのだと思っていたが、あちらから向かって来るケースも想定して行動していかなければならないだろう。


 これからの方針だが、本来オレは都市化の進んでいる地域……つまりダンジョン周辺に強いモンスターが多く存在するであろう地域を優先するべきだと考えていた。

 しかし効率を考えるなら、そうした攻略に時間の掛かりそうな地域ほど後回しにしてしまった方が賢いかもしれない。

 数多くのダンジョンを制圧して支配下におき、併せて無害化を図るべきだろう。

 そうすることで、いざ難易度の高そうな地域を攻略して回る際に、温泉街のダンジョンにおけるサイクロプス戦のように、長時間に及ぶ戦闘をする必要が無くなる筈だ。

 何しろオレは他のダンジョンの守護者とは違い、ダンジョンの支配領域の制約を受けないのだから、その分だけ数多くのダンジョンを手中に収めていくことが出来るのは間違いない。

 四苦八苦しながら徐々に徐々に中心部に進んでいくよりは、よほど早く目指す高みに上れるだろう。


 ◆


 まずは……ここからだ。


 ド田舎ダンジョンと支配領域の一部が重なっているエリア。

 つまりマイコニドが闊歩するサーキット跡のダンジョンから支配下に収める。

 それも可及的速やかに攻略しようと思う。


 マイコニドの亜種であるシュリーカーや、シャンブリングマウンドは確かに厄介だが、エネアが居ることで、今回はあまり障害にならなかった。

 樹木に寄生するシュリーカーも、草花に擬態するシャンブリングマウンドも、エネアの操る精霊魔法の前では丸裸も同然。

 森のニンフの分体なだけあって、火の精霊との相性は良くないらしいが、反対に植物の精霊との親和性は抜群だ。

 たちまち異分子であるキノコ達の潜む植物の位置を割り出していく。

 それを焼き払うのはオレの役目……と、言いたいところだが、何に興味を惹かれたのかカタリナが等身大の人形に憑依したまま付いて来ているため、その仕事すら取られてしまっていた。

 オレの役割はカタリナの討ち漏らしの排除と、ドロップアイテムの回収のみ。

 ゾンビやゴブリンなど、マイコニド以外のモンスターも大方はカタリナの魔法の餌食になっていく。

 楽なのは良いが、楽すぎて欠伸あくびが出てしまいそうだ。


 しかし……改めて思うが、マイコニド以外のここのモンスター達は弱い。

 知り合いも居ない地域だし、そもそもゾンビやマイコニドになってしまった住民達も、そんな事情を全く斟酌しないカタリナによって次々に光に還されていく。

 亜人系モンスターも強いものでオークだし、植物系モンスターのバリエーションは極めて少なくマイコニド関連以外はまだ見ていない。

 たまに魔素から自然発生したらしい変わったモンスターも目にするが、強さとしてはオーク以下のモノ達ばかりだった。

 他の人に任せるにはマイコニドの特性が面倒だからこそ、周辺の掃討も丹念におこなっていたが、それでもエネアとカタリナのおかげで午前中にはダンジョンの攻略に取り掛かれそうだ。


 マイコニド達も特性に慣れてしまえば、そこまで強いモンスターでは無いのだが、ダンジョン内に入ると周辺地域よりもむしろ数が多かった。

 このあたりは守護者の性格も関係しているのかもしれない。


 ここからはオレも戦闘に本格的に参加する。

 カタリナは本体がレイスという霊体なだけあって、そもそもマイコニドの胞子による状態異常に陥ることが無いし、2本の曲刀を自在に操る剣の腕も兼ね備えている。

 魔法でモンスターを一方的に焼き払うのに飽きたのか、本人が前に出て戦いたがったので有り難く前衛を任せることにした。

 そんな彼女の代わりに今度はオレが、エネアの見つけたシュリーカーやシャンブリングマウンドを魔法で排除していく。


 もともとがサーキットだったせいか、第1層の広さはかなりあったが、視界を遮る壁は少ない。

 代わりに木々が生い茂り、さながら森林のような造りとなっていた。

 同じ森でも、木洩れ日の降り注ぐ開放的な雰囲気だったド田舎ダンジョンのそれとは違い、いかにもキノコの魔物達や汚ならしいゴブリン達が好みそうな、ジメジメとした空気の漂う森だ。

 心なしか木々の枝や下生えの草も、おどろおどろしく感じる。

 そんなところにゾンビやスケルトンも現れるのだから、これらのアンデッドモンスターに慣れていない人には、嫌な印象しか与えないダンジョンだろう。


 周辺の人口が少なく、観光地としての需要はサーキットがダンジョンに変わったせいで全く無くなり、モンスター構成がキノコ特化のため一般人の立ち入りが規制されていたため、周辺の魔素が少ないうえに探索者によって魔素が濃縮されていくことも無かったこのダンジョンは、マイコニドの対処さえ誤らなければ極めて難易度が低い部類だった。

 その広さこそ最初は厄介だったが、地下に進めば進むほど狭くなっていくし、モンスターもオレ達にとっては数以外は何の障害にならない。

 これではカタリナが途中で飽きてしまったのも仕方ないことだ。


 守護者の身代わりのボスマイコニドは少しだけ強かったが、それもファハンやモーザ・ドゥーなどの中ボスクラス未満でしか無かった。


 守護者は確定でマイコニドの原種。

 まともな【交渉】になるのだろうか?

 あっという間にサーキット跡のダンジョンを踏破してのけたのは良いが、それだけがどうにも気掛かりだった。

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