第188話
現在地は第28層。
ここに来てようやく難易度が階層数に追い付いて来たように思える。
……とは言うものの、それでも最寄りのダンジョンの第8層のモンスターと比べてしまうと、正直なところ物足りない。
どこのダンジョンに行っても出現するようになったアンデッドモンスターが、ようやく同レベルのモノになった程度か。
それ以外は相も変わらず獣型モンスター、魔法生物型モンスターの2種類のみ。
各種ゴーレムやリビングスタチューは材質がようやくミスリルかダイヤ。
獣型モンスターに関しては、低層から中層にかけて出現していたモンスターの上位種で、戦い方や特徴はさほど代わり映えしない。
天使や悪魔や機械の女神が大挙して押し寄せてくるダンジョンと、こうした普通のダンジョンとを比べること自体がおかしいと言われてしまえば、それまでの話なのだろうが……。
ドロップアイテムの傾向にも変化は無い。
ポーション類には時折、いわゆる上級と呼ばれるものが混ざり始めた。
四肢欠損や意識不明の重体に陥るケースはそこまで発生しないだろうし、数はそこまで必要無いかもしれないが、今後オレがこのダンジョンに潜るとすれば、これら上位ポーションが目当てになりそうだ。
さて……そろそろこのダンジョン探索も終わりが近づいている。
このダンジョンは今から12年前、自衛隊所属の探索者パーティによって踏破されたことが有るため、最終階層も判明している。
何とも中途半端な数だが、第29層が終点らしい。
天井が高くなり通路が広くなった分、階層自体の面積も広くなっているが、探索に掛かる時間はそれほど変わらない。
造り自体は、中層までのものと同じだからだ。
通路を曲がるべき回数や、開けるべき扉の数には変化が無い。
要は同じような造りのまま、サイズアップしただけの話だ。
問題は第28層のボスなのだが、コイツは弱点を知らないと恐らくどうにもならないタイプのモンスターだった。
バンニップというのがその名前なのだが、特徴の説明が難しい。
最初はセイウチのような牙を生やした犬……といった顔で、腕は河童のような水かきの付いた人間状のもの、足は伊勢エビのような形状だった。
戦闘が始まると、頭部が猛禽類のそれに変わったり、カバそっくりに変わったり、腕が羽根を生やした翼に変わったり、アザラシのような形状に変わったり、足が人間のものに変化したり、胴体まるごと蛇になったりと、まぁ目まぐるしく変化していく。
変化のタイミングはオレ達が傷を負わせた時で、傷を負った部位は何回でも丸ごと無傷なものに入れ替わるため、永遠に倒せないのでは無いかという錯覚に陥りそうになってしまう。
バンニップ相手に焦りは厳禁……これが答えなのだが、つまりバンニップの変化の回数には限界が有って、653回もの変化に付き合う必要がある。
654回目に攻撃を当てた時に、突如としてバンニップは存在力を完全に使い果たして、勝手に死んでしまうのだ。
接近戦ではかなりの強さを誇るモンスターであるため、遠距離から弓矢や銃器などの飛び道具で、コツコツ攻撃を当てていくのが最良の攻略法なのだが、これが本当に面倒な作業だった。
例えばマシンガンのような連射の可能な銃を用いて、連続で同じ部位に攻撃を当てたとしてもバンニップにはあまり効果的では無い。
1回は、あくまでも1回。
瞬時に形態が変化するわけでは無いので、同一箇所に連続で攻撃を当てたり、不必要な大技で大ダメージを狙っても、あまり効率的には倒せない。
バンニップをなるべく早く倒したいなら、注意するべきポイントはたった2つ。
まずは脚部を優先して狙うこと。
接近戦には、どんな形態でも何故か非常に強いバンニップだが、遠距離攻撃の手段は咆哮だけ。
本来この咆哮が厄介なのだが、効果は疾病誘発というちょっと特殊なもので、幸いにして魔法に分類されるのか、魔法抵抗力によって威力を減衰出来るらしく、オレやエネアが体調不良を起こすことは最後まで無かった。
バンニップの異常な接近戦の強さも、結局は体験せずに済んだ。
脚部優先で攻撃すること以上に大切なのが、なるべく仲間と手分けして攻撃する部位を複数にすること。
変化の回数を削ることがバンニップ撃破に繋がるのだから、これはある意味では当然だろう。
エネアには常に脚部を狙って貰い、オレはワールウインドなどの広範囲を同時に攻撃可能な魔法を放つことで、大幅な時間短縮を狙った。
この作戦は上手くハマり、結果的にはかなり短時間で撃破出来ただろう。
これ以上の時間短縮はパーティの人数を増やす他なく、今回はもう仕方ない。
温泉街ダンジョン最大の障壁とも言われているのがバンニップだったことからも分かるように、実は最終階層のボスはそれほど強いモンスターでは無いらしい。
リビングドール……まぁ、簡単に言ってしまえば、自動で動く人形だ。
問題はリビングドールに守護者が務まるとは思えないことなのだが……それは、この扉を開ければ分かることだろう。
オレは最終29層、その階層ボスの間の扉に手を掛けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます