第185話
まさかの出来事だった。
エネアの放ったある魔法が絶大な効力を発揮し、サイクロプスが地面に仰向けに倒れたのだ。
巨体が地面に倒れた物凄い音とともに、縦揺れ型の大地震にも似た激しい振動が、路面に捨て置かれた車や、道路脇に生えた木々を盛大に揺らしている。
それは普通に考えれば、何の効力も示さず単に魔力を消費するだけの悪手になる可能性の高い魔法……その筈だったのだが、結果としては最良に近いもの。
そもそも魔法を放った当の本人が最も驚いている様子なのだから、これが偶然であることだけは疑うべくもない。
エネアが様々な魔法をサイクロプスに向けて放ち、それらの効力を試している途中の出来事だった。
樹木の根を伸ばして拘束しようとしては簡単に引きちぎられ、地面から生やした野太い土の腕はサイクロプスの足を止めることが出来ず……その他にも行動阻害系の精霊魔法の数々を放ち、しかしサイクロプスの巨体の前にほぼ何も効果を及ぼせずにいた。
エネアの得意とする行動阻害系の魔法が有効ではないのは辛いところだったが、何も行動の阻害だけが精霊魔法の全てでは無い。
単純な攻撃魔法なら、一部の例外を除いて属性魔法の方が威力が高い傾向が有るようだが、それでもエネアは様々な精霊の力を借りてはサイクロプスの身体に、次々と小なりとは言え傷を増やしていく。
それと並行して、物は試しとばかりに放った低級の状態変化魔法が、結果的にはサイクロプスを地面に倒したことになる。
……それは単なる眠りの魔法だったのだ。
それも敵の精神の精霊に働きかけるような高度な魔法ですら無かった。
風の精霊の子守り歌……そんな表現がピッタリくる初級の精霊魔法。
確かにサイクロプスと言えば、酒に酔いつぶれて眠ってしまったりとか、そういう少し間の抜けた逸話が残っていたりするモンスターだが、まさかここまで状態異常に弱いとまでは思ってもみなかった。
地鳴りのようなイビキをたてて寝ている。
それでも痛みで目を覚まさないとも限らない。
千載一遇のこの絶好機に、狙うべき場所は他には有り得ないだろう。
そう、サイクロプスの一番の特徴である単眼だ。
必要以上に物音を立てないように気を配り、時間的な制約が無いだろうことを最大限に活かすことにした。
……すなわち【転移魔法】で視界の届く範囲で最大限に高空に飛び上がり、そのまま以前とは比較にならないほど向上した身体能力をもフル活用して、必死に体勢を維持しながら落下していく。
そして空気を切り裂きながら下向きに構えるは、鋭利すぎるほどに鋭利なオリハルコンの槍。
狙い過たず、分厚い
深々と突き刺さった槍はいったんそのままに、急いでサイクロプスの顔面から飛び退いた。
両耳を手で庇うのを忘れなかったオレは偉い。
突然の痛みと喪失に怒りの咆哮を上げるサイクロプス。
耳を塞ぐのが少しでも遅れていれば、再び鼓膜を破られていただろう。
気持ちよく寝ているところに、槍を目玉に突き刺されたサイクロプスには同情したくもなるが、それは今は考えないことにした。
エネアに目顔で合図し、再びサイクロプスを強制的な眠りにつかせる。
そして今度は、先ほどのサイクロプスが起こした地揺れで横転している自動車を持ち上げ、再び高空に転移。
そして、落下しながら自動車をサイクロプスの眼球に突き刺さったままの槍を目掛けて【投擲】してやる。
さすがに少しばかり槍が心配だったが、衝突の結果として壊れたのは槍では無くて、むしろ自動車の方だった。
衝撃でタンクに残っていたガソリンに引火したのか、たちまち炎上し黒い煙を上げる自動車。
それを覆うようにして、白い光が盛大に立ち上る光景を見ながら、オレも遅れて地面に到達した。
エネアが気を効かせて、すぐさま魔法で消火する。
その後に残されていたのは、大破し使い物にならなくなった自動車と、今までに見たことも無いほどに大きな宝箱だった。
保有魔力という意味では、天使や悪魔、腐れバンパイアには及ばない相手だったが、しかし光に還ったサイクロプスから流れ込んで来たその力は、想定していた以上に膨大なものだ。
何とか意識は保てているが、ちょっと前のオレだったら瞬時に昏倒していたかもしれない。
モンスターの存在力は魔素に由来するものだが、必ずしも魔力としてモンスターが持ち合わせているとは限らないようだ。
サイクロプスの場合は、その強靭な肉体を具現化させることに、多くの魔素を費やしたのだろう。
『スキル【
『スキル【
『スキル【迅速防衛】を自力習得しました』
『スキル【棍棒術】を自力習得しました』
『スキル【腕力強化】のレベルが上がりました』
『スキル【投擲】のレベルが上がりました』
『エラー……適性外スキル強奪を確認しました。該当スキルの解析が完了。代替品の作成を依頼します。…………代替品、作成完了しました。代替品、現出します』
【解析者】の初めてのアナウンスに戸惑うが、その答えはすぐに明らかになった。
目の前の地面に突如として、ある意味では見慣れたアイテムが光とともに出現する。
そして手に取ったアイテムを調べたオレは深く納得した。
なるほどなぁ……これはオレには扱いきれないわ。
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