第177話
そろそろ、もう一度ダンジョンに間引きに出掛けようかというタイミングで、ちょうど妻達が帰ってきた。
柏木さん達には後で話すとして、まずは妻と父、それからマチルダに【ロード】のスキル仕様について説明し、スキルの影響下におく許可を得る。
実はマチルダに関してだけは以前の【眷属強化】でも、スキル適用対象だったのだが……眷属は主に絶対服従という制約も副次効果として付随する仕様だったため、どうも抵抗が有って試してすらいない。
それはさておき……父は高齢を理由に難色を示したものの最終的には頷いてくれたし、妻とマチルダに至っては先を争うように『配下』適用を望んだ。
それぞれ身体能力および成長力の強化と同時に、魔力も飛躍的に伸ばすことが出来た。
スキルに関しては……父は【杖術】と【危機察知】のレベルが上がり、新しく【長柄武器の心得】を取得。
妻は【薙刀術】と【敏捷強化】のレベルが上がり、新たに【風魔法】と【火魔法】を取得して貰うことが出来た。
マチルダも【餓狼操躰】と【属性魔法耐性】のレベル上昇に加えて【闇魔法】を取得している。
3人も一気に『配下』設定したため、ゴッソリと魔力を失ってしまったが、その価値は充分に有ったと思う。
物はついで……というわけでは無いが、兄には先にダンジョンに向かって貰い、そのまま柏木さん宅にお邪魔する。
そして柏木さん、右京君、沙奈良ちゃんにも同様にスキルの説明と、スキル使用の許可を得た。
右京君も沙奈良ちゃんも、それなりに能力やスキル熟練度は伸びたようだし、魔法スキルも覚えて貰うことが出来たが、特筆すべきはやはり柏木さんだろう。
【鍛冶】のレベルが上がると同時に【匠の心得】という、生産系スキル全体にプラス補正の有るスキルを取得してくれた。
早速だが、総ミスリル製の鎗に加えて、スローイングナイフ、ミスリルの球、ミスリルのチャクラム(戦輪……輪っか状の投擲武器)を発注し、武器相性の幅を拡げる。
それから、お土産にスクロール(魔)を山ほど渡しておいた。
今朝、柏木さんがポロっと漏らしたのだ。
『オリハルコンの加工をしていると、すぐに目眩がする』……と。
明らかにスキルの過使用による魔力枯渇の症状だ。
『配下』設定で魔力総量はかなり増加した筈だが、念には念を入れるべきだろう。
今やかなりの重要アイテムとなったスクロール(魔)だが、武器や防具の作成、メンテナンスを柏木さんに依頼しているのは、なにもオレだけではない。
柏木さんの魔力が伸びれば、それだけ全体的な武装の充実が出来るわけだし、他の人より優先されて然るべきだ。
しかし……ネタスクロール扱いされてたのは何だったんだろうなぁ。
◆
柏木さん宅を出たオレは、車を走らせ最寄りのダンジョンへと向かった。
そしてダンジョンに辿り着くや否や【転移魔法】で第7層へと続く扉の前へと飛ぶ。
ここからは単純作業だ。
リポップしているモンスターを狩り尽くしながら、奥へ奥へと進んでいく。
そして第8層の劣化バンパイアを瞬殺し、守護者の居室に入ると、再び魔素配分を調整する。
ダンジョン外のモンスター出現は無し。
各階層への魔素配分もカット。
明日のスタンピード終了までの間、一時的に全ての魔素を守護者に供給する設定にしておく。
腐れバンパイアの真似をするようで癪だが、これが最もスタンピードを小規模化するうえで効率が良いのだ。
あとは既に供給されてリポップのクールタイムが終わるのを待っているモンスターを、明日ダンジョンの前で待ち構えておけば良い。
実に簡単なお仕事だ。
兄も既に第6層のボス部屋まで来ているため、急いで【転移魔法】を発動する。
マチルダが暮らしていた部屋で合流して、ともに帰路につくためだ。
何時になっても良いとは言ってくれたが、柏木さんに今の得物のオリハルコンの槍についても、月牙を両面に取り付けるための改造を頼んでいる。
あまり待たせ過ぎるのも良くないだろう。
ちなみに以前のミスリルの鎗には付けていた鎚頭は、この際思い切って無くすことにした。
殴打に関しては『神使樹』の柄で充分だからだ。
思っていた以上に早くモンスターの間引きが終了し再訪問することになったため、柏木さんは少しだけ驚いていたが、それより何より【鍛冶】スキルの上昇と魔力の潤沢さに、いつも落ち着いている柏木さんにしては珍しく、かなり興奮気味だった。
これは合流した兄も同じで、改めて『スキル』というものの凄さ……いや、恐ろしさについて考えざるを得ない。
幸い、まだドラゴンやジャイアントなどとは遭遇していないが、そういったモンスターにしてもスキルや、それに代わる特殊な能力を山ほど持っている筈だ。
そして……スキルレベルの問題がある。
通常の手段では探索者のスキルレベルの上昇が確認されることは、つい先日まで無かったのだ。
モンスターは明らかに高いスキルレベルを有しているのに、立ち向かう側はスキルにレベルが有ることさえ、明確には知り得なかった。
これは酷く不条理だ。
……絶対アレだよなぁ。
自称亜神の少年は、主とやらの善意を仄めかしていたが、悪意だってそれと同じぐらい……いや、それ以上の悪意が有るよなぁ。
大方、とことん人類を追い込んで、そこから這い上がって来た者しか生かす気が無いのだろう。
その日は、長丁場になるだろう次の日に備え、早めに就寝するしたのだが、妻子が静かな寝息を立てる真っ暗な部屋の中でオレは、そんなことばかり考えていた。
……絶対に生き残り、そして護ってみせる。
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