第113話
……思考が最適化されていく。
目前のモンスターを倒し、倒すとまた目の前に到達してきたモンスターを貫く。
現れたオークの首を跳ね、オレを避けて進軍しようとするジャイアントマンティス達を突き、薙ぎ倒し、叩き潰して、オレへ矢を放ったゴブリンアーチャーの眉間へ、キャッチした矢を投げ返し突き立てる。
……思考が最適化されていく。
数え切れない有象無象を等しく白い光へと還すために……。
ただただ、奴らの天敵へと自分を最適化していく。
敵の動きが……見える。
さながらスローモーション映像のような世界で、自分だけが普通に動けているようにさえ感じられた。
足りない。
まだ倒し足りない。
来い。
もっと殺られに来い。
お前らを倒すたび、お前らに殺されたかもしれない人々を助けられたのだと信じることにした。
もっと来い。
オレはお前達の天敵だ。
オレを倒さない限り、お前達は役割を全う出来ない。
『スキル【解析者】のレベルが上昇しました』
『【解析者】派生スキル、《存在強奪》が開放されました』
聞き慣れた【解析者】の声が、束の間オレを現実へと呼び戻す。
強奪か……お誂え向きだ。
オレはモンスターから命を奪い、そして自らを高めていくモノなのだから…。
お前達の存在を奪わせろ。
オレの大切なものを奪わせはしない。
ひたすらに突き、斬り、叩き潰す。
投げ、避け、そして魔法を放つ。
護る……そのためにこそ奪う。
それだけを考えて戦い続けていく。
『スキル【敏捷強化】のレベルが上昇しました』
目に見えて殲滅速度が上がる。
『スキル【長柄武器の心得】を自力習得しました』
比較的、不得手だった斬擊や殴打の技がその威力を増し、明らかに無駄が削られる。
『スキル【身体能力上昇】を自力習得しました』
「宗像さん!」
可愛らしい声が聞こえる。
……佐奈良ちゃんの声か。
モンスターの大群を殲滅し、妙にデカいカマキリどもを殺していく。
「ヒデ!」
親父?
大丈夫。
見えている。
大きな鎌を避け、逆三角形の頭を支える細首を叩き落とす。
「宗像君!」
森脇さん、いや上田さんか……。
分かっている。
鋭く振り降ろされた鎌に鎗を合わせ、受け流し隙を作ると、そちらを見もせず風の光輪を飛ばし、カマキリの女王をアッサリと屠る。
「ヒデちゃん!」
聞いたことの有る声が聞こえるたび、オレの身体に再び力が湧く。
分かった。
分かっている。
何が?
誰だ?
「ヒデちゃん! 止まって!」
亜衣……オレの大切な人だ。
気が付くと、大量の血潮やら何やらを浴びて立ち尽くすオレの周りに、もはや動く魔物の姿は無かった。
……危ない、危ない。
ちょっと意識が飛びかけてたかもしれないなぁ。
皆の方を振り向き、思わず苦笑すると、妻や父が泣いているんだか、笑っているんだか、曖昧な顔でオレを見ているのが見えた。
右京君は何だか、やけにキラキラした瞳でオレを見ていた。
佐奈良ちゃんまで、右京君みたいな顔になっている。
上田さんや森脇さんは驚いた様な表情。
警官達は……幽霊でも見てしまったかのような顔をしている。
ともあれ、これで一段落だ。
無数に散らばるドロップアイテムの中から、宝箱の中に入っていたアイテムなど、目ぼしい物だけを回収し、いったんバリケードの内側に戻ることにした。
すると、たちまち皆から囲まれてしまい、あちこち水で洗われ、タオルで拭かれ、もみくちゃにされる。
怪我らしい怪我もしていない筈なのに、各種ポーションを無理やり飲まされてしまった。
妻が泣きそうな顔をしている。
君を泣かさないために頑張ったのに……などとは、さすがにギャラリーがたくさん居る中では言えない。
代わりに頭をポンポンとしてやると、ついに泣いてしまった。
……逆効果だったか。
しばらく、頭を撫でてやると、どうやら落ち着いてくれたようではあるが、涙は止まらないようだ。
何だか妙に腹が減っている。
ポーションでボチャボチャいっているが、それとこれとは話が別だ。
ふと時計を見ると、既に時刻は正午を回っていて、むしろ13時に近かった。
妻達が家から来てくれたタイミングで、お握りやお新香、唐揚げなど、昼食も持ってきてくれていたので、交代で昼食を摂ることにする。
先ほど、いったんモンスターを壊滅させているので、それぐらいの余裕は有る。
戦闘に没頭し過ぎたせいか、途中から記憶が曖昧なのだが、オレはいつの間にかデスサイズまで(しかも7体も……)倒していたらしく、今ダンジョンの中から湧き出てくるモンスターは、第4層のモンスターが中心だ。
お握りを頬張りながら聞くジャイアントシカーダ(セミ)の鳴く音は、やけにうるさかった。
こうしてダンジョン外でセミの鳴き声を聞くと不思議な気持ちだ。
何しろ今は3月……本来のセミの季節にはまだ間がある。
加えてジャイアントシカーダの巨体だ。
別にセミの鳴く仕組みを詳しく知っているわけでは無いが、あれだけ大きいセミが鳴くと騒音以外の何でも無かった。
……よし、腹も膨れたことだし、そろそろ行こう。
あまり食べ過ぎても後に響く。
短時間の休憩ではあったが、鋭気を養うには充分だった。
何だか妙に身体中に力が
鎗を持ち立ち上がり、ダンジョンの方を睨む。
昼飯を食べたばかりだと言うのに、オレは何故かこの時、猛烈な餓えを感じていた。
食欲に酷く似た、不思議な餓えを……。
どれだけダンジョンがモンスターを吐き出そうと、オレが全て喰らってやる。
……何故だか、そんな気分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます