第111話

 最悪、正面のモンスターと同等以上の敵の群れが背後から現れた場合、り潰されるようにして全滅してしまうことも状況的には有り得た。

 しかし、同時出現するモンスターの数には依然として限界が有るようだし、質にしても先ほどのオーガ5体を超える脅威が再来することは、なかなか無いだろう。

 このあたりのルールとでも言うべきものが大きく変わっていないようなのは、オレ達にとって生き残る可能性を大きく上げることだと考えられる。

 まぁ、ルールと言ったらダンジョン外にモンスターが出現するのも、ダンジョンのモンスターが外に出てくるのも、この20年無かったことなので、まだまだ油断が出来ないのは事実なのだが……。


 何にせよ、背後から迫るオーガ達が早々に排除されたことで、防衛に参加している人々に活気が戻った。

 士気さえ上がれば、オーガの出現以前から押され始めていた戦況が五分五分以上まで盛り返すのだから、人の持つ底力には驚かされる。

 前に出て戦う必要性は今のところ無さそうだ。

 スタミナポーションの配布を、どうやら戦闘にあまり向いていないらしい森脇さんに託し、オレは鉄球の【投擲】を中心に立ち回ることにした。

 いつの間にかオークなどのしぶといモンスターに対しては、拳銃やボウガンなどの飛び道具の援護を受けながら、2人以上で立ち向かうようになっているようだ。

 必死に戦いながらも、こうした工夫を思い付いて実行に移せるのは、とても素晴らしいことだと思う。

 オレに客観的に見る余裕が有るから気付けたことだが、こうしたアイディアを出しているのは沙奈良ちゃんで、周りの人達に声掛けして協力を求めているのが右京君のようだ。

 兄妹ならではの連携プレーと言えそうだ。


 しばらく小康状態と言うか、危ない場面の少ない時間帯が続いてはいるが、正面のモンスターの構成を見ていると、徐々にジャイアントスコーピオンやオークの比率が高まって来ているのは気掛かりだ。

 これは、どうしても倒しきるまでに時間の掛かるモンスターが多く残っているということなのだろう。

 鉄球を【投擲】したり、風魔法で援護したりしたいところだが、どちらも有限の攻撃手段だし、使うべき相手が他にいる。

 特にジャイアントビーなどは、毒持ちの飛行モンスターなのだし、逃がすわけにいかないだろうから、鉄球は温存しなければならない。

 魔力もあまり頻繁に使うと、ゴーストなどの他の攻撃手段で対処しきれない相手が多く出てきた場合に詰んでしまう。

 結果として対処が間に合わなくなる前に、単独で前に出て戦うのは有効に思えた。


 何も自分が勇者だとか、最強だとか、思い上がってのことでは無い。

 有効だからやる……それだけだ。


 現場を取り仕切る形になっている警官隊のリーダーと上田さんには、タイミングを見て話を通しておいた。

 必要に駆られるようになってからでは、結果として後手を踏んでいることにもなる。

 オレがあらかじめ決めておいた合図……ハンドサインを出すと、ピタリと拳銃の発砲や矢の射撃が止まった。

 バリケードを飛び越え、オークやジャイアントセンチピード、ジャイアントスコーピオンなど、倒すまでに時間の掛かる相手から優先して倒していく。

 一頻り暴れ回ったら欲張らずに撤退。

 もうしばらくは、これを繰り返すことで優位に戦闘を進めていくことが出来るとは思う。


 ◆ ◆ ◆


 ヘルスコーピオン5体が同時に出現したのは、何度目かの単独行動が終わって間も無いタイミングで、全体としては幾らか余裕のある時だった。

 ヘルスコーピオン単体なら、オレだけに限らず父にしても妻にしても、何とか倒せる相手だが、1人で5体を相手どるのはキツい。

 バリケード越しでも、警官達や柏木兄妹ならともかく、まだ経験の浅い人達では一瞬の隙を突かれれば、あっさり致命傷を負ってしまう危険性さえ有った。

 既に今日だけでも数日分のダンジョン探索に相当するモンスターを倒しているだろうから、恐らく誰もが実感出来るレベルで各種身体能力が向上している筈ではある。

 しかし、それで戦闘経験までが補われるかと言うと、甚だ疑問でもあった。

 結果として、父と妻にもバリケード前に出て来て貰って対処する破目になったのだが、誰もが恐れていたであろう問題が、よりによってその戦闘中に起きてしまう。

 背後から迫るモンスター達。

 幸いにして【危機察知】が伝えてくる反応は、そこまで強いモンスターのそれでは無かった。

 それなのに……何だか明らかに後方の様子がおかしい。

 怒号に加えて悲鳴の様な声までもが聞こえてくるが、ヘルスコーピオンに加えて、大量に現れたジャイアントスコーピオンに足止めを食らい、すぐには戻れない。


 ようやくサソリの大群を排除してバリケードの内側に退避した時には、既に防衛陣が恐慌状態に陥っていた。

 ……何が起きた?

 警官隊が中心になって後方のモンスターに対処しているようで、既に挟み撃ちは失敗していると言っても良いぐらいだ。


 一体、何が……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る