第110話
……これは魔力の消耗も仕方ないか。
前に出るのを諦め、背撃の可能性を排除すべく立ち回ることを決めたオレは、立て続けにワールウインドを前面のモンスターの群れに放ち、魔法に弱いゾンビやクリーピング・クラッド(動くヘドロ)や、ポイズンモールド(毒ゴケ)を纏めて排除してから、今にも新手のモンスターを形作ろうとしている黒い光に向かって鎗を構える。
まず最初に現れたのはオーガ……角こそ無いがお
迷わず跳躍し胸に鎗を突き立てる。
僅かに胸骨を掠めたせいか、一撃で倒すところまでは至らない様で、唐突な痛みに
走り出したオレの真横に、続けて2体のオーガが出現。
これらに囲まれる前に最初のオーガの
白い光に包まれ出したオーガを見守る暇は無い。
横合いから電柱のような棍棒の一撃が迫っている。
ーーゴウッ!
ーーーーブゥン!!
素早くサイドステップでこれを回避するも、当たれば即死するのは間違いないだろうと思わせる程の風切り音の連続に背筋を冷や汗が濡らす。
攻撃を空振りし苛立つオーガ……その間に加えてさらに出現した2体のオーガのうち、片方は妙にデカくて武装が他のオーガよりも良かった。
……都合4体のオーガが並ぶ光景の持つ迫力は圧巻だ。
しかも1体は明らかに上位個体。
オーガリーダーというヤツは明確に体色が違うというから、単に強くて知性の発達したオーガと見るべきだろうか。
いずれにせよ、先のことばかりを考えてもいられないようだ。
まずはフィジカルエンチャント(風)……続けてエンチャントウェポン(風)……身体強化と同時に武器強化の魔法を掛けて、少しでも優位に戦えるように備えた。
チラっと後ろの戦況を見るに、先ほどのワールウインド連発や、父や妻などの奮戦の甲斐もあって、どうにか戦線は保てている。
しかしオーガの群れの出現に気付いた人達の、後ろ姿にも明らかに動揺している
巨大なモンスター達の正面に出る前にウインドライトエッジで、一番手前に居るオーガの首筋辺りを狙う。
光輪に切り裂かれた頸動脈から噴水のように
血が吹き出したオーガは、棍棒を取り落とし傷口を押さえて両膝を付いた。
立て続けに光輪の魔法を放つも、仲間の惨状を目にしていたオーガは咄嗟に腕を上げて首を庇う。
結果としてこちらは棍棒を持った右腕を失って喚いているが、致命的な傷を与えたワケでもなかった。
傷付いた2体にトドメを刺すべく前進したオレの前に、味方を庇うように無事なオーガが立ち塞がる。
この至近距離では魔法を放つために集中する、一呼吸ほどの隙さえも危険だ。
仕方なく鎗で相手をするも、まともに戦ってやる必要は無い。
棍棒を縦に振り下ろして来るのを待って【パリィ】で受け流し、そのままオーガの股の下をスライディングの要領で
……残り3体。
ここで休んでいる暇は無かった。
すぐさまオレに釘だらけのバットのような(ただしサイズは電信柱……)棍棒を振り下ろして来た上位オーガの動きは、これまで相手をしていたオーガの比では無かったのだ。
危ういところで転がる様にしてこれを避け、上位オーガに正対するも、横合いから先ほど虚仮にしてやったオーガも迫って来る。
右腕を失ったオーガは未だに痛みに喚いているが、眼だけはギラリと輝き憎々しげにオレを睨んでいた。
オレは、ダッシュで上位オーガの面前まで迫り、袈裟斬りの軌道で振り下ろされたスパイク付きの棍棒を大きく回避……そのまま上位オーガの前を横切って、全てのオーガから距離を取る。
そして3体がこちらに迫って来るのを、努めて冷静に見ながら、満を持してウインドライトエッジをそれぞれに1発ずつ放つ。
上位オーガは棍棒で身体の正中線を庇うも、光輪は肩口を大きく切り裂く。
五体満足だったオーガはギョッとした表情を見せて立ち止まり、両腕をクロスさせて首筋を庇うがオレの狙いは初めから太ももだったため、意味をなさない。
ドウと大きな音を立てて倒れ込む。
最後の右腕の既に無いオーガは、咄嗟に蹲るようにして頭を無事な左腕で庇うも、同じくオレの狙いが太ももにあったために、自ら無事だった左腕を差し出すような結果になってしまった。
今がチャンス!
まず、倒れ伏したオーガが体勢を立て直す前に頭部を狙って滅多刺し……結果を待たず両腕を失って騒いでいるオーガにトドメの一撃を眉間にくれてやった。
上位オーガはさすがに隙らしい隙を見せなかったので、もう一度ウインドライトエッジを今度は右の足首を狙って放つ。
視線は首筋、狙うは足首……いかに上位とは言えオーガはオーガ。
見事にフェイントに引っ掛かってくれた上位オーガは右足首から先を失い、バランスを崩して仰向けに地面に倒れた。
こうなれば、もはや勝敗は動かない。
最期の悪あがきの一撃を食らわぬように、跳躍からの鎗の【投擲】で胸を刺し貫く。
今度は角度が良かったのか、狙いどころが良かったのか……見事に白光に包まれて消えていく上位オーガ。
支えを失って地面に落ちようとした鎗に駆け寄り、空中でキャッチする。
足元にはダンジョン外に出現したモンスターには珍しく宝箱。
【危機察知】も【罠解除】も反応を示さなかったので、手早く開けて中身を取り出す。
【鑑定】を使うまでも無い……ここのところ愛用し見慣れている、大力のブレストプレートだった。
他にはポーションや、魔石しか落ちていなかったので、回収は後回しにして奮戦する妻の元へ駆け寄る。
「ヒデちゃん! もう良いの?」
酷く驚いた顔をしている妻。
「あぁ、何とか倒せたよ。それよりコレを……」
「えっ? さっきのオーガから?」
「そういうこと。ダン協の待合室を借りて着替えて来て」
「うん! でも、ここで大丈夫!」
言うなりガバッと上半身の防具を脱いでチェインシャツ姿になると、さっさと大力のブレストプレートを身に付ける。
チェインシャツ姿は身体のラインがハッキリと分かるため、屋内での着替えを勧めたのだが無用の気遣いだったようだ。
「よし! 頑張ろ、ヒデちゃん!」
……妻の普段と変わらぬ笑顔に勇気を貰った。
そうだ。
頑張らないといけない。
オレには護りたいものが沢山ある。
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