第80話
待てよ……何か忘れていると思ったが、また同じような思い込みで、事態を楽観視するところだった。
人間がゾンビ化した話は、この付近では聞かないが、そもそもゾンビになるのは人間だけではない。
オレ自身、つい先ほど、ゾンビになった大イノシシを倒してきたばかりだ。
ハクビシンや、野良ネコのゾンビが現れたことも有る。
こうした動物がゾンビ化すると、生前の警戒心は薄れ狂暴化し、人間にも積極的に襲い掛かってくるようになってしまう。
傷を負わされるだけでも、ゾンビにされてしまう危険性が付きまとうというなら、クマやイノシシのゾンビだけが脅威となるというわけでもなくなっていると言えるだろう。
それこそ、家の中に侵入してきたゾンビネズミに、指先を少し噛まれた……なんてことが、そのまま命取りになりかねない。
今のところ虫のゾンビが確認されていないことが、救いと言えば救いだろうか。
蚊やハエ、アリにクモ、ゴキブリ……人間の身近にいる虫なんて、それこそ幾らでも居るのだから……。
もちろん悪いニュースばかりでもない。
魔法が使えるようになる杖などのマジックアイテムは、あの後も多く見つかり続けている。
その事が幸いしたのかどうか、各地でダンジョン探索に対する熱が再燃しているようだ。
今までダンジョン探索自体、あまりしたことの無いような人々までも、可能な範囲内でダンジョンに潜り始めているという。
これは、たとえ魔法の杖自体が発見出来なくても、各自の自衛力を高めるという意味では非常に有益だろう。
さて……たった数時間で急変した状況の整理に気を取られてしまったが、こちらからの報告と、戦利品の分配など、やることを済ませてしまわないと、寝るに寝られない。
まずは進捗状況……オレの第5層突破は、やはりそれなりに快挙であるらしい。
兄が帰郷後すぐに潜った時の最高到達階層(第5層のボス部屋でフォートレスロブスターが硬くて撤退……)を更新したのもそうだが、今までに誰も入ったことのないエリアへの扉を開くことになったのだから、それは確かにそうなのだろう。
オレ自身、入念な下調べと【風魔法】ありきで作戦を組み立てたが、何かしら少しでも
そして帰りに遭遇した大イノシシのゾンビと、ダンジョンゲートの損壊。
そしてスクロール(技)のこと。
大イノシシのゾンビはともかく、ダンジョンゲートが破壊された件と、それに伴い門番役として武装警官が配置されることに関しては、兄も少しだけ面倒そうな顔はしていた。
頻繁にダンジョンに潜り、戦果を上げ続ける家族……警察にマークされたり、スカウト対象にならないとも限らない。
自衛隊も警察もモンスター災害発生以降、酷く戦力を落とし続けている状況だ。
使える人材は1人でも多く欲しいところだろう。
早いところ復旧されないものだろうか。
スクロール(技)に関しては、兄が一応は知っていた。
世間的に情報が知れ渡っているというほどではないが、兄の学生時代にも、見つけた人達の話を聞いたことが有るのだという。
そこそこ深層に行かないとドロップしないアイテムなので、スクロール(魔)のようにネタスクロール(笑)というよりは、ハズレアイテム扱いを受けていたらしい。
それはそうだろう。
頑張って深いところまで潜ったのに、効果らしい効果の出ないスクロールがドロップし(または宝箱の中身だっ)たら、酷く落胆し、場合によっては怒りすら覚えてもおかしくない。
しかし中にはスキルの精度が明確に上がったと感じる人なども居て、どうにも評価の定まらなかったアイテムでもあるらしい。
効果がランダムらしいからなぁ……そういうことも有るかもしれないとは思う。
いずれにせよ、探索を
スキル熟練度が実際に上がるならば、誰が使っても、そこそこに有用だと思うのだが、今回は初回ということで、オレが使うことになった。
使用する意思を念じると、勝手に宙空に漂い、スクロールに記された文字列が胸の辺りに飛び込んでくる様子は、スクロール(魔)を使った場合と全く同じだ。
そして文字が消えたスクロールが、徐々に存在感を希薄化させていき、最後に跡形も無く消え去るというのも共通している。
しかし……
『スキル【パリィ】のレベルが上がりました』
運が良いのか悪いのか、そろそろスキルレベルが上がりそうだなぁ……と思っていた【パリィ】のスキルレベルが上がった。
熟練度の数値としては1桁に留まる結果になってしまうが、実際にスキル熟練度が上がるということは実証された。
もしこれを何度か使っていたなら、オレのように【解析者】の恩恵が無くとも、自然にスキルレベルを上げていた人が居るかもしれない。
たとえ【解析者】による脳内アナウンスが無くとも、スキルレベルが上がっているのに、それに全く気付かない人も、恐らくは居ないと思われる。
今回の探索で得られた【危機察知】のスキルブックは、兄が使うということで、すんなり話が決まった。
妻が既に【長柄武器の心得】と【薙刀術】のスキルブックを割り当てられているのに対して、兄は自分で見つけたスキルブックを使用して身に付けていた【短転移】と、自力で磨いた【刀術】をオレがスキル化しただけで、スキルブックを未だ割り当てられていないこと。
それに加えて、兄の単独行動時の安全性が考慮されたのが、今回の選定の主な理由だ。
プランドラーグローブ(略奪者の手袋・モンスター討伐時の成長率向上グローブ)については、父や妻にこそ優先的に使って欲しいところだが、基本的にはその時にダンジョン探索する人を優先することになる。
やはり留守番している場合と、ダンジョン探索している場合とでは、モンスターとの戦闘機会に大きな差があるからだ。
場合によっては、父と妻とで別々に探索に出るのも良いかもしれない。
ただ、その場合は、兄と父、オレと妻……のように、必ず2人組になってしまい、ダンジョン深層の探索に現時点では向かないのが、悩みどころだ。
どれだけの実力を備えれば、今回のモンスター災害を乗りきれるかは、いまだに不明瞭なのだから、変に現状のスタイルを変えるのには、どうしてもリスクが付きまとう。
その他には、初お目見えのマジックアイテムというのは特にないが、食材として……レクレスシュリンプ(エビ)の肉、ジャイアントシーキューカンバ(ナマコ)の肉。
防具の素材としての、バレットバーナクル(フジツボ)の殻の破片……このあたりが目新しいアイテムといったところだろうか。
エビが苦手という人はウチの家族には特にいないし、むしろ父は好物としている。
そしてナマコには予想通り、兄が嬉しそうな表情を浮かべた。
今回の階層ボスからの戦利品だが、
デスサイズからは、無慈悲のチェーンアンクレット(精神補正アクセサリー、余計な仏心の排除)。
ヘルスコーピオンからは
ギガントビートルからは幸運向上剤。
その他に、パリィアミュレット(パリィスキル一時付与)、耐眠のバンダナ、パワーチョーカーといったマジックアイテムと、幸運向上剤が別に1つ、腕力向上剤が5つ、敏捷向上剤が3つ、持久力向上剤が2つ……という風に、ドーピングアイテムも豊富だ。
ポテンシャルオーブやお菓子系の成長促進アイテムも今回は大豊作……問題はスクロール(魔)なのだが、フォートレスロブスター戦で全て使ってしまい手元に既に無い。
ヤバい……いざ話す段階になって、緊張してきた。
妻も兄も、新しく使えるようになった【風魔法】に、ちょっとハマっているように見えるのだ。
明確にスクロール(魔)の個数に期待しているのが見て取れる。
……黙っていても仕方ない。
…………気は重いが正直に話すとしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます