第52話
今から兄が探索に向かうのは、いつものダンジョンではない。
まずは行き慣れた温泉街のダンジョンを、手始めに攻略することにした様だ。
例の温泉地には今のところ、オーガ以上の強さを持つモンスターが出現したという情報も無いので、これ以上の高位モンスターの発生が頻発するようにならないうちに、攻略を開始しておきたいということのようだ。
既に近隣で竜種のモンスター等が跋扈し始めた青葉城址のダンジョンや、旧代ゼミダンジョンなど、市内中心部に近い場所は、さすがに敬遠されることになった。
『ドラゴンは刀で斬って倒せるイメージが湧かないからな。山ほどミサイルでも食らわせない限り、アレを殺すなんて無理だろ』
そう言って悔しげな顔をした兄だが、ドラゴン相手に普通の武器で勝てる人間なんて、いる筈ないのだから、それは仕方ないだろうに……。
さて、兄を見送ってしばらくした後、オレは少し思うところが有り、最近すっかり新しい茶の間と化した広間で、既知のアイテムを鑑定していた。
『スクロール(魔)……魔力の扱いについての理解を深める。効果(小)』
『アジリティの指輪……所持することで
『甲殻の護符……防具の内側に貼り付けることで、ギガントビートルの甲殻と同程度の防御力を、元々の防具性能に付与する。着脱自在』
『スタミナポーション1……使用者の持久力を服用後すぐに回復する。名称の後の数字が大きいものほど効果が高い』
……こうして、簡易鑑定に出した場合に発行されるアイテム説明と、全く同じ文章が脳裏に浮かんで来るわけなのだが、実際どうやってダン協所属の【鑑定】スキル持ちの人達が、鑑定結果を文章化しているのか気になったのだ。
案ずるより産むが易し……って、こういう時に使うのかもしれない。
何のことはない。
鑑定結果を紙に書こうとすると、自分の身体が自動書記機にでもなったかのごとく、一言一句逃さずに、書き写すことが出来るのだ。
それは、ちょうどパリィアミュレット頼りに、スキルの【パリィ】を使用するのと同じ感覚だった。
初めて【パリィ】を試した時のことは、今でも忘れていない。
自分の身体が一瞬では有るが、自分のもので無くなる心地なのだ。
気になったことは、どんどん試してみるに限るな。
ポータブルDVDプレイヤーで、ネコとネズミが仲良くケンカしているアニメを見ながら、ご機嫌な息子を【鑑定】してみる。
ーーパチッ!ーー
目の前に火花が飛んだような感覚に見舞われ、鑑定結果が脳内に投影されることも無かった。
これはダン協の公式発表が裏付けられた格好だ。
『人間やモンスターの鑑定は出来ない』
……というのは、どうやら本当らしい。
ただ、抜け道というか、何と言うか……何かしらの条件次第かもしれないので、その辺りは要検証といったところだろう。
さて次は……だ。
『槍……総金属製の短槍。材料は大半が鉄で、一般に鋼鉄と呼ばれる物。穂先が柄と一体化しており、先端の尖った杭にも見える』
お……いけた。
オレの得物を試しに鑑定してみたが、ダンジョン産のマジックアイテムに限らず、一般的な品物でも鑑定可能なようだ。
そこからは手当たり次第に【鑑定】。
いつの間にかオレの横で香箱を組んでいた、飼い猫のエマ(16才、メス)にも弾かれたので、やはり人間やモンスターに限らず生命体には、現状の【鑑定】スキルは通用しないようだった。
そして……甥っ子のオモチャを鑑定している時のことなのだが、少しだけクラっと来た。
……?
まるで貧血を起こした時のような?
あれ?
これじゃあ兄が【短転移】を連発した時に起きる症状みたいじゃないか。
ん?
まさかMP(マジックポイント)とか、SP(スキルポイント)みたいなものが、存在するっていうのか?
【鑑定】で
もう一度……今度は、ヘソ天(仰向け)状態で無防備に寝ているエマの首輪に【鑑定】してみる。
【鑑定】自体は出来たが、今度はより明確に貧血の様な症状に見舞われた。
次は首輪に付いてるペット用の肉球マークのお守りを【鑑定】する。
……鑑定結果は見られたのだが、強烈な吐き気と頭痛までし始めてしまう。
これ以上はヤバい!
本能の鳴らす
……次第に落ち着いて来た。
なるほどなぁ。
鑑定料金が高いとか思っちゃってて、ホントごめんなさい……という気持ちだ。
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