第4話

『ピンポーン♪』


 妻と2人、しばし呆気に取られたまま顔を見合わせている間に、2度目の玄関チャイムが鳴る……妻が目線で促す……と、もう1度チャイムが鳴らされる。


『ピンポーン♪』


 オレは、それでようやく動き、慌てた気持ちのまま、モニターで玄関前に居る人物を確認……大きく息を吐き出し、いつの間にか入っていたらしい肩の力を抜く。


 兄だ。

 見慣れた完全武装でこそ無いが、最低限の防具に身を包み、メインで使用している武器を抜き身のままたずさえて、苛立たし気にカメラに目線を向けている。


 とりもなおさず、兄を玄関から迎え入れ、来訪の意図を聞くことにした。


「ヒデ! お前居るなら居るで早く出ろよ! てっきり、亜衣ちゃんと壮悟くんだけで居るのかと思って、飛んで来たんだぞ!?」


 心配と焦燥と怒りがい交ぜになってか、早口でまくし立てる兄を、どうにか宥め、両親や義姉、甥っ子達の様子を聞き出すが、皆どうやら怪我一つしていない様で、取り敢えずはホッとした。


「……で? 心配して来てくれたのは有難いんだけど、これから兄ちゃん、どうするつもり?」


 オレが訊ねると、兄は少し考える仕草は見せたものの、決然とした態度で答えを告げる。


「お前ら、取り敢えず必要最低限の物だけ持って、ウチに来いよ。いちいち何か起こるたびに、お互いがやきもきしててもしょうがないからな」


「……そう、だね。その方が良いか。世話になるよ」


「そうね。そうしましょう。このままじゃ、不安だらけで夜、眠れそうにないもの」


 幸い妻も難色を示したりはしなかったので、オレ達は手分けして、粛々と荷造りを行う。

 その間、そのコワモテに似合わず、子供が大好きな兄が息子と遊んでくれていた。


 元々、最低限の必需品となれば、荷造りに要する時間はそれほど掛からず、重いものや嵩張る物は、オレの取って置きであるダンジョン産のライトインベントリー(いわゆる収納のマジックアイテム、六畳間1つ分程度の収容量がある……リュック状)に詰め込んで、出発することにした。


 状況を分かっているハズもない息子は、大好きな叔父ちゃんとのお出かけにテンションが上がっているらしく、ニコニコしてお着替えを受け入れてくれていた。

 ……なんて親孝行な子。


 まずはオレが先行して、玄関から外の様子を窺う。

 まだモンスター出現の動揺は広がっていないのか、それとも既に知っているからこそ、閉じ籠っているのか……表を歩く人の姿は見えない。

 幸いにしてモンスターの存在も、今のところ無いように見えたので、兄と妻に頷き出発を促す。


 こうして先ほど、開けてすぐにゴブリンに遭遇した玄関から、二度目の外出をすることになったのだった。

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